亀甲竜

これまでも幾度と申し上げてきたが、このNoteは、いとうせいこう氏の『ボタニカル・ライフ』を読んだ私という一個の他者が、せいこう流に言うと「俺も何か書きたい」という思いに掻き立てられ、いてもたってもいられずに始めた私的なベランダー日誌である。と同時に、いとう氏への30年越しの「おたより」でもあるような気がしている。時空間を超えておたよりを届けることは出来ないから、インターネット空間を漂わせているのである。


さて、令和では塊根植物がブームになっていますよ、と、90年代のいとうせいこう師に報告したい。

足るを知らない人類は、植物の本音そっちのけで自然を盆栽や室内に閉じ込め、次に観葉植物というジャンルを創造して葉っぱの鑑賞を始めたと思えば、ついには根の部分を愛でる塊根植物というジャンルを生み出した。葉の次は根で商売である。花は季節性商品だが、常緑の観葉なら通年商品、根ならそもそも生きているのか枯れているのかも不明な生物としての次元を超えた商品である。おお、資本主義。


筆者はいとう師のベランダ派に軌を一にする。よって、観葉植物というアイディアに乗る気はなく、塊根植物になどハマるわけにはいかない。しかし、師だっていわゆる観葉植物に当時そこそこ手を出している。家庭菜園なんてヤワなモノを俺はやりたいわけではないと述べながら、結局はいろいろと収穫なさっており、続編ともいえる『自己流園芸ベランダ派』ではシシトウ栽培を読者におススメされてもいる。今なお園芸を続けていらっしゃったら、きっと塊根植物の一つや二つ育てておられるだろう。むしろコレクター化されている惧れもある。困ったことに、“塊根”なんておどろおどろしい名前をもちながら、彼らは観葉植物よりもよっぽどベランダ派が好む花という存在に近いのだ。


気づけば師と軌を一にするどころか塊根と共に一年を過ごそうとしている。塊根といっても値段はピンキリで、一歩足を踏み入れたならば芋づる式に増えていくのみである。

小さな亀甲竜とも長い付き合いになってきた。冬型というだけあって、冬場に葉がわさわさと成長する。それを巷でよく見るように可愛らしくハートの輪っかに成形しようと支柱なんかしてみたが、気に入らなかったようで葉は垂れ下がったままである。我が家はスパルタ式水やりのため、気づけば葉は垂れ下がっているだけでなく根元から抜け落ちていることがある。その折れた可哀想な枝?と葉は塊根部から切り離されてもなおつやつやしているため、エアプランツのように飾ることにしてみた。すると、驚いたことに亀の部分から独立した竜の部分は本当にエアプランツとして第二の人生を歩み始めた。どこから栄養を得ているのか、新しい葉が展開までしている。

塊根植物は塊根部を愛でるはずだが、上手にやれば蔓性の植物としても楽しめるし、適期には立派な花を咲かせる球根みたいな存在でもある。意外にベランダー向きかもしれないです、せいこう先生。


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