SIGNALIS(シグナーリス)をプレイして (感想以上考察未満 )

SIGNALISというゲームをこの春にプレイしました。


まずはざっくりした感想(ネタバレなし)を。 初期のバイオハザードシリーズやサイレントヒルが好きな方には是非プレイしていただきたい、 そんな良質なサバイバルホラーでした。 弾を節約したり、敵を避けたりしながら探索していくタイプのやつです。 エイムも昔なつかしのラジコン操作。 敵は復活することもありますが、最高難易度でもない限りは弾も回復もたっぷり余るのでクリア自体は簡単だと思います。なのでじっくりプレイしたい、敵は全部殺して進みたいタイプの人でも大丈夫なはず。 謎解きの難易度も理不尽なものは一切なく、ちゃんと探索すればヒントにうまいこと辿り着けるようできてるなぁと思いました。最悪トライアンドエラーでもある程度突破口が開ける、そんな優しさが好き。 とっても楽しめました。 1周10時間程度でクリアできるという手軽さも◎。トロコンしやすいのでトロコン勢の方にもおすすめです。

困っても総当たりで割となんとかなる。優しい

そして何よりも謎が謎を呼ぶストーリー。 クリアしても謎が深まるばかりだったので全ED視聴&トロコンまで達成しましたが、それでもあれは結局何だったんだよ…ということだらけ。 答えを知りたくなる魅力的な謎がたくさんありながら、そのほとんどに明確な答えは用意されていないので、プレイした人ごとに様々な解釈が生まれていく。そんなゲームでした。
逆に言えば、ただクリアしただけでは「よく分かんねぇ…」としかならない。なので、合わないと感じる人もいると思います。 少なくとも万人向けとは言い難い。 ハマる人はハマる、と言うやつですね。私はハマった人。

自分が感じたことやもやもやを解消したくて様々な方の考察やレビューを読み漁ったり出典元を調べたりし、なんとなく自分なりの考えは導き出したものの、語るとなると致命的ネタバレ全開になってしまうので吐き出す場所がない。でもこの気持ちは言語化しときたい。なのでこうしてわざわざnoteを開設するに至りました。

以上前置き。 ここからはネタバレ全開です。



私は「SIGNALISは全てがアリアーネの精神内で作り上げられたもの」説が一番納得いくことは分かってる、分かってるけどコズミックホラー要素も諦めたくない派です。よろしくお願いいたします。
だって、たくさんの人が人智を超えた何かの気まぐれでなすすべなく狂気に吞み込まれる方が……なんかワクワクするじゃん!?というただそれだけの理由です。よってここからの感想はもしこうだったら(自分が)楽しいなぁという個人的な願望を多分に含んでおり、肝心な所は大体「名状しがたき何かがなんかうまいことしたんじゃないの」という身も蓋もないぶん投げ方をするガバガバ感想となります。だから考察だなんてとてもじゃないけど言えない。ほんとごめんなさい。もし読んでいただける方がいらっしゃるなら、こんな風に思った奴もいるんだなー、くらいのお気持ちで見ていただければ幸いです。


1)結局この世界はどこまでが幻想でどこからが現実だったのか?
2)この世界は一体何のために生まれたのか?
3)各エンディングについて
4)この世界を構成してる場所や登場人物達について
5)結び

1)結局この世界はどこまでが幻想でどこからが現実だったのか?


SIGNALISの世界は「アリアーネがハイパーすごい生体共鳴を通して帝国内のたくさんのゲシュタルトやレプリカ達に見せていた彼女の精神世界」というのが私なりに出した結論です。今作でプレイヤーが体験した世界は、生体共鳴によりアリアーネの精神世界に強制的に引き摺り込まれたレプリカ(またはゲシュタルト)のうち、エルスターとしての記憶を流し込まれエルスター(役)として精神世界を巡ることを強制された者が体験した精神世界の追体験だったのだと思ってます。
このゲーム、もはやどこまでが現実なのかすら人により解釈が異なるところかと思いますが、私は「アリアーネがエルスターを連れてペンローズ・プログラムに参加し、長い旅路の末最船が宇宙の遥か彼方に墜落したこと」、「アリアーネが瀕死の重症であること」、「本物のエルスターは既に息絶えていること」は現実であると思ってます。あと、「ファルケとアドラーは実在の人物である」、という前提で話を進めていきます。

ただ、「いちゲシュタルトのアリアーネになんでそこまでの力があったんだよ」って言われるともうなんも言えないのが正直なところ。でも私はそう解釈したいからがんばります。
ということで、私はあるメモの内容を額面通り素直に受け取ることにしました。

「夢見人」のメモ
赤眼

「赤眼」は名状しがたき超越者、「夢見人」がアリアーネ。赤眼が夢見人の精神を元にした精神世界とそれを生かすハイパー共鳴生体能力を授けたことによって、SIGNALISの世界は構築されたんだと思います。
そもそも帝国の肝である生体共鳴自体が「大半がなんとなくで運用している」という衝撃の事実。なので、なんならもう生体共鳴というシステム自体が外宇宙の名状しがたきものの気まぐれの超技術の一部をゲシュタルトが偶然使えるようになっただけなんでは?とすら私は思ってます。人の身に余る超技術を駆使するのって超越者あるあるですよねー。

ガバ運用すぎてびっくり


アリアーネが夢見人として最初に接触した人物はファルケだと思います。帝国最先端の生体共鳴能力を持っていた彼女が起点となり、そこから側近のアドラーや感受性の高いコマドリユニットへ、コマドリユニットから他のユニットへ爆発的に生体共鳴が伝播し、最終的にシェルピンスキーが壊滅した、というルートかなと。精神世界を構成する人員のほとんどはシェルピンスキーから引っ張ってきたんだろうと思われますが、なんせアリアーネの力が規格外すぎるので、もしかすると他の地域や惑星のどこかでも「歌が聴こえる」者=生体共鳴の感応性の高いゲシュタルトやレプリカ達が世界のどこかで精神世界にちょくちょく引きずりまれて、そこから局所的にも狂気が伝播してたりするかもしれない。そんな感じだったらおぞましくていいなぁなどと勝手に思ったり。

宇宙の深き振動は赤眼から発生してるのかなー?

作中度々出てくる「黄衣の王」については、ストレートに受け取るならばアリアーネに力を与えた名状し難き超越者の存在を暗に示しているのでしょうが、私は他にも意味がこめられてるんじゃないかな、と思ってて。

あそこにもここにも「黄衣の王」


ちなみに元ネタのロバート・W・チェンバース著「黄衣の王」ですが、実は翻訳版がKindleUnlimited(読み放題)で読めちゃいます!!!(※)サクッと読めたので気になった人はぜひ。「黄の印」特におすすめ。
いずれも「黄衣の王」に出会ってしまった人々が狂気に憑りつかれ破滅する、そんな姿を描いています。その中身を読むどころか少し目にしてしまっただけでも一気に発狂するというなかなかの理不尽っぷりなんですが、アリアーネの生体共鳴の理不尽さ・強さも「黄衣の王」に並ぶレベルの凶悪なもの。アリアーネが物語としての「黄衣の王」を知っており、与えられた力の強さからまるで黄衣の王みたいだなって連想したとしても不自然ではないかなと思うんですね。「黄衣の王」は、精神世界を形作る己の力の象徴として無意識のうちに精神世界のあちこちに置かれたんじゃないかな?って私は思いました。

※:ただし、読むことが可能なのは抜粋された4篇のみなので注意。2023年6月くらいの時はAmazonprime会員であればKindleUnlimitedへの加入なしで読めたはずなんですが…読むハードルが少し高くなってしまってるのが残念。

2)この世界は一体何のために生まれたのか?


で、結局アリアーネはこんな世界に人々を引き摺り込んで何がしたかったのか?というお話。これは、生体共鳴で精神を取り込んだ者達からエルスター役を選び、エルスターの記憶を無理やり流し込んだうえで精神世界を巡らせ、自身を望み通り殺害してくれるような強靭な実行力を持つエルスター(役)が現れるまでエルスター(役)を補充しつつ精神世界をループさせていたんだと私は思います。
現実では本物のエルスターは既に死亡し、アリアーネ自身はかろうじて生きながらえているが自身で命を絶つ程の心の気力も体力も残されていない状態。そして宇宙の彼方で墜落したので、物理的に誰かが助けてくれることはあり得ない。いつ終わるとも分からない苦痛の中、ただ解放されたい。叶うならばエルスターの手で。そういう想いが元になって、この精神世界は産まれたんじゃないかなと思います。※精神世界上での精神的な死が現実での肉体的な死に繋がるかは明示されていませんが、私は繋がるものと仮定します

アリアーネに辿り着くまでの道は長く、進めば進むほど過酷さを増しますが、この道筋もアリアーネの望むエルスターを選別するために必要なことだったのだろうな、と私はプレイしていて感じました。彼女の望むエルスター像は、どんな困難を乗り越えてでもアリアーネの呼びかけに応じ、かつアリアーネに対峙した際にたじろぐことなく約束を果たすことができる、そんな覚悟のキマったエルスターでなければならない。アリアーネの求めるエルスター(役)ってぶっちゃけ狂人に近いので、長らく条件を満たす者が現れなくても仕方ないかなって思うんです。だから、きっと何度も何度も長い間ループを繰り返していたんじゃないでしょうか。道中でたくさんのエルスターが息絶えたであろうことや、アリアーネの元に辿り着いても約束を果たさせてもらえなかったエルスターがたくさんいたであろうことは、作中転がるエルスターの死骸や「離別」「記憶」エンドが示唆しています。

大量のエルスターの死体

3)各エンディングについて


SIGNALISには隠しを除いて3つのエンディングがありますが、それぞれ別ループのエルスター(役)が辿った道なんだと思いました。
「約束」はアリアーネの望みが叶い、夢見人の死により精神世界が無事(?)崩壊したエンド。

こんなきっつい「ありがとう」は久しぶりだったよ(血涙)

「記憶」はアリアーネまで辿り着いたものの、アリアーネに「あなたは誰?」と言われてしまい、約束を果たせないままに力尽きるエンド。エルスターには約束を果たす気持ちがあるのにアリアーネからはエルスターと認識してもらえないってのは全EDの中で一番かわいそうでした。

でも記憶エンドのエルスター(役)も次のエルスター(役)のためになっているっていう構造は好き


「離別」は、アリアーネの望みを叶える覚悟もなく、約束から逃げ出したエルスター。そんなエルスターなんてアリアーネはどうでもいいでしょうからそのまま朽ち果てるまで放置だったんじゃないでしょうか。ペンローズ船外で死んでたエルスター達はアドラーが全部やったのかなと最初は思ってたんですが、アドラーにそこまでの戦闘能力はなさそうですし、離別END組もかなり含まれていたんじゃないかな、なんて感じました。

離別エンド組の末路?


攻略情報を見ていたところ、それぞれのエンディングへ辿り着くためのフラグはとても細かく設定されているらしいことが分かったのですが、その条件がちゃんとそれぞれのエンディングと密接な条件づけがなされてる!!と知った時はもう心の中でスタンディングオベーションしちゃいました。ブラボー!!

「離別」は敵をスルーしまくり、被弾すら極力せず、旅路を駆け抜ける。傷つきたくないし、精神世界に大して深入りもしないエルスター。そんなエルスターなのだから、しんどすぎる約束を前に逃げだして当然。
「記憶」は戦闘を控えつつも精神世界の探索はきっちり行うエルスター。己の役割を全うしようとはしているものの、アリアーネが求める己の身や心も削るほどの強靭な覚悟をアリアーネに見せることができなかったエルスター。アリアーネに「あなた誰?」と言われてしまってましたが、恐らくアリアーネが望むエルスターの条件を満たしていなかったのでエルスターと認識してもらえなかったのかなぁと思いました。
「約束」は出会う敵は殲滅し、精神世界を理解しようと努め、かつ自身が傷つくことも厭わずひたすらに突き進むエルスター。例え傷つき何度も死にかけようとも目的の障害となる奴は躊躇なく潰す、そんな殺戮マシーンのようなエルスターとしてプレイングすることで迎えることができるエンディングでした。難易度サバイバルでプレイしていた時、概ね約束エンドの条件を満たしていたのに何回やっても記憶エンドにしかならず困惑したのですが、ラスボスでわざと瀕死になることを繰り返したところ、あっさり約束エンドに辿り着きました。なので、このエンディングに辿り着くには「死にかける」という条件が特に重要なのだと思うんですね。どんなに己が傷ついても折れることなく「必ず彼女の元に辿り着き、約束を守る」という強靭な意志を保ち続けることができる、そんなエルスター(役)だからこそ約束を果たすことができた、というのはすごく説得力があっていいね!って思いました。
作中で明言はされてませんが、ほぼ間違いなく現実のエルスターはアリアーネを殺すことができず、先に放射能汚染で死んでしまったんだと思うんですね。望みを叶えてくれなかった、こんな苦しい状態で一人ぼっちにされてしまった、そんなトラウマからアリアーネははたから見たら狂人のようなエルスターを求めるようになってしまったんじゃないかな。悲しい。

「手を貸してもらう」ことができなかった結果、じわじわ苦しんでいる状態なんでしょうね…

ちなみに隠しエンディング「遺物」はぶっちゃけよく分かんなかったです。白い百合とか光り輝く謎の四角形とかあれほんとなんなんですか。誰か頭のいい人教えてください。

もう何が何だか

4)この世界を構成してる場所や登場人物達について


精神世界を構成するロケーションや登場人物は現実からの流用とアリアーネの創作とが入り乱れてると思われ、正直どっちか判別が難しいものがほとんどです。ていうか証拠なさすぎー!なので引き続き「私はこう思った」という推測を多分に含みます。すみません。

4-1)ロケーションについて

始まりの地はペンローズ船。主人公が誰で、今どういう状況で、何を目的をしているのかが提示されますが、操作するプレイヤーだけでなくてエルスター(役)達へのチュートリアルステージも兼ねた二重の作りになっているのが面白いなーと思いました。
ペンローズ船を出て謎の門をくぐると本格的に精神世界のスタート。


ちなみに最初に↑の門をくぐる時に流れる曲。「春」が超有名なヴィヴァルディの四季シリーズの1つ、「夏」です。なんで夏?となったんですが、この曲が表現する情景を短編の詩で表現したソネットというものがあるそうで。その内容はこちら。現代人の感覚だと夏はギラギラした活力みなぎる季節ってイメージですけど、昔の人にとっては死の匂いが漂う暗い季節だったようで。実際曲調もかなり暗い。プレイヤーがこれから体験する世界の不穏さを暗に示すためにこの曲が使われているのかな、なんて思いました。まぁ学がないので意識して調べるまで気づきもしませんでしたけど

その先にあるのはアリアーネの部屋、そしてシェルピンスキーと坑道。
シェルピンスキーにアリアーネは実際に行ってないはずなんですよね。坑道はペンローズプログラムに採択されなかった場合の行き先だったはずなので。その割にやたらディテールが細かいのは、現実のシェルピンスキーの管理者であったファルケの記憶を拝借してこの世界を構築したからじゃないかな。アドラーの日記の日付を見る感じ、ファルケの汚染とそれ以降のレプリカ/ゲシュタルト達の汚染の間には少しインターバルがあるんで、その間にアリアーネがファルケの記憶を参考にシェルピンスキーを作り上げたんじゃないかな?なんて思いました。
なぜシェルピンスキーのディティールを精神世界に組み入れたのか?については、生体共鳴で取り込まれたシェルピンスキー所属のレプリカ達の馴染みの場所を主な舞台に設定することで、精神世界への没入感を強めるためなんじゃないかな…っていう妄想。

その後は謎の海岸やアリアーネが実際経験したであろう体験のフラッシュバックを挟みつつ坑道へ、そしてその奥にある大きく穿たれた穴に飛び込み非在の場へ。非在の場については、サイレントヒルの異世界を思い起こすような汚染された部屋の数々に置かれる死のモチーフ(線香、死体袋、火葬場、死体安置所など)や肉塊から、アリアーネがイメージする死と苦痛を体現した世界なのかなと思いました。マップがない上に多種多彩な敵が固まっていてるゾーンがありもう「ああああぁあああ!もうやだ!!」ってなるエリアですが、敵の多さも彼女の苦痛を表現する演出の1つなのかもしれないですね。

個人的苦痛No.1のお部屋。「絶対ダメージ与えてやるからな」という鉄の意志を感じる。ここほんときらい

非在の場を乗り越えた先にまた現れるペンローズ船。入口を開こうとしてエルスターは深手を負い一旦機能停止しますが、アリアーネの呼びかけに応え復活します。どのEDになろうともここは共通する演出ですが、瀕死のダメージを身体に受けようともアリアーネの「起きて」という言葉で再び目覚めることができるというのは、アリアーネ本体に会う権利を与えられるエルスター(役)としての必要最低ラインなのでしょう。多分ここで再起動できずそのまま終わったエルスター役もまぁまぁいるんじゃないかな。

ペンローズ船を越えると謎の海岸へ舞い戻り、渡し舟に乗ってアリアーネがよく描いていた絵画の島へと向かう…という動作が挟まれます。この海岸と島にはいずれも元画が存在するそうです。海岸はオイゲン=ブライト作「忘却の海岸」、島はアルノルト=ベックリン作「死の島」。どちらも死をテーマに描かれた作品と言われています。

ラスボス戦前のファルケの部屋への入り口。両方の絵画が飾られている

特に「死の島」は絵自体が作中で何度も何度も出てきますし、同じ絵画にインスピレーションを得たラフマニノフの交響詩「死の島」もまたBGMとして引用されているとのこと。それだけSIGNALISという作品にとって重要なモチーフなので、いろいろネットで作品について調べていたところ、こんな記事に出会いました。
この絵の模写が戦時下のドイツでバカ売れしたらしいのですが、その理由として「もし死ぬとしても、この絵に描かれた島に運ばれる死体のような静かで安らかな死を自分も迎えたい」という当時の人々の想いがあった、というお話。読んでなるほどな~と思いました。死にたくても死ねない苦しみに囚われているアリアーネの望みそのものじゃん!
シェルピンスキーのギミックにはこの画が金庫になっているものがありますが、鍵を指す場所に本来描かれているのは死者を運ぶ渡し守で、中身は次の場所へつながる鍵。

死の島のギミック

また、エルスターが2回目の謎の海岸から渡し舟に乗り死の島へ向かう様は絵に描かれている渡し守の視点そのもの。

これらから、「死の島」の引用はエルスターに穏やかな死をもたらしてほしいというアリアーネの願いをストレートに表現したものなんだな、と私は受け取りました。

次に再訪したシェルピンスキーは肉塊に浸食され始めていて、またその次の場所ロートフロントも謎を解き明かすにつれ肉塊が行く手を徐々に阻んでいくのが印象的でした。不要な寄り道すら許さない、早く自分の所へ来て約束を果たして、というアリアーネの意志のようなものを感じてしまいました。

アリアーネの部屋からラスボス戦を越え、最後のペンローズ船。この最終ステージのペンローズ船こそ、宇宙の果てにある現実のペンローズ船の真の姿なのでしょうね。エルスターがアリアーネに近づけば近づくほど、肉塊に塗れ汚染された現実に精神世界も近づいていく、っていうのがプレイしていて悲しかったです。

見え方は違えど同じ場所をループしてることを示唆しているのかな?と思いました

4-2)登場人物について


SIGNALIS内の登場人物には大きく分けて4パターンあると私は思ってます。

a)現実世界に実在していた人物(中身は生体共鳴で引き摺り込まれ、役割を割り当てられたゲシュタルトやレプリカ)…エルスター、イザ・イトウ
b)現実世界に実在していた人物(書類上だけの存在)…アリーネ・ヤン
c)現実世界の存在のまま精神世界に放り込まれた人物達…モブのレプリカ
c´)現実世界の存在でありながら精神世界を構成する側になった人物達…ファルケ、アドラー

a)現実世界に実在していた人物(中身は生体共鳴で精神世界に引き摺り込まれ、役割を与えられた誰か)
願いを叶えるため、アリアーネ自身と関わりの深かった人物達が精神世界に登場させられているもの。中身は生体共鳴により精神世界に取り込まれたレプリカ/ゲシュタルトの中からプレイヤーとして補充されているイメージ。エルスターは言うまでもなくアリアーネの約束を果たすため、イザは「大切な人を探す」というエルスターと共通の目的を持たせ、かつそれが叶わず死ぬ姿をエルスター(役)に見せつけることで、自分は約束を果たしてみせる、とエルスターに強く決意させるため配置されたと解釈しました。ロートフロントには黒い染みが一番多かった気がするんですが、多分過去ループで役目を終えたイザ役の残骸なんじゃないかなぁって私は思ってます。

b)現実世界に存在していた人物(書類上だけの存在)
これもイザと同様にエルスターに約束を守らせるために精神世界に登場させている人物。ただ、こちらは人間体が出てくることがないので、中身を割り当てられている人はいないのがまだ救い。

c)現実世界の存在のまま精神世界に放り込まれた人物達
あちこちにいるモブ達は、生体共鳴で精神世界に引き摺り込まれ、役割も与えられずにそのまま精神世界に放り込まれた可哀想なモブ達なのかなぁと思いました。行きつく先は敵化か肉塊の二択。ああ理不尽。
一方、c´)現実世界の存在のまま、精神世界で地位を確立した特殊個体もいました。ファルケとアドラー。この2人は自分達のいる場所が現実ではなく精神世界であることを認識し、かつ真相にある程度近づいていた、かなり異質な存在でした。そうなったのにはそれぞれ理由があるはず…ということで以下妄想です。

c´-1)ファルケ
恐らく精神世界に最初に呼ばれ、エルスター役を割り当てられたレプリカ。エルスターとしての記憶に汚染されながらも、かろうじて自己を保っている姿をメモから読み取ることができました。
ファルケについて、一番気になったのが↓のカット。

エルスターとアリアーネのカット。画像だと分かりにくいかもですがどちらも一番奥にいるのはファルケなんですよね。これ、ファルケはエルスター側でありアリアーネ側でもあるということを示しているのかなって思いました。

ファルケは精神世界の主、アリアーネに直接会ったことが示唆されています。

また、ファルケは非常に高度な生体共鳴力を持っており、それは「相手の願望や感情」をも把握できるほどだったとのこと。

ここからは完全に妄想ですが、ファルケはアリアーネと対峙した時に、恐らくエルスターの記憶を受け取っただけじゃなくアリアーネが抱いている想いー願望や苦痛ーにも直に触れてしまったのではないでしょうか。私達プレイヤーも精神世界を巡ることでアリアーネの想いの一部を体験しましたが、きっとファルケはもっと密度の濃いそれらを短時間で浴びてしまったんじゃないかなぁと。エルスターの記憶もアリアーネの想いも両方知ってしまっている時点で、通常のエルスター(役)達のように精神世界を巡る意味がなくなり、かといってアリアーネとの約束を果たすこともできずに、エルスターの記憶に自身の記憶を侵されながら精神世界を彷徨う存在になってしまったのだと思います。
ラスボスとしてエルスターの壁として立ちはだかった時、「彼女が我々ともう踊ることはない」と言っていますが、これはエルスター(役)としての記憶を持ちながらもアリアーネの苦痛を知るファルケにしかできない発言だと私は思いました。

ファルケの顔がアリアーネと瓜二つなのも、アリアーネの影響を受けている証拠?


c´-2)アドラー
アドラーの日記によれば、彼は精神世界での特別な役割は与えられずに現実と同じような日々を淡々と過ごしていましたが、ある段階でファルケへの違和感を感じ、それが世界への違和感に変わり、世界がループしていることに気づきました。そしてこの状況をなんとか打開しようと、精神世界で必死に抗い続けていました。同じく引き摺り込まれたレプリカのほとんどが違和感を持つことができないまま精神世界に飲み込まれていったのに対し、彼が精神世界の異常さに気づくことができたのは、ひとえにファルケへの想い(忠誠心&愛)故にだと思います。体は完全に朽ち果てているのに、精神力だけで踏みとどまって行動するど根性、私は好きだよ。
精神世界のイレギュラーである彼が放任されていたのは、彼の行動が結果的にアリアーネの望む死をもたらす強靭なエルスターの選定に一役買ってたからじゃないかなぁと思います。実際、エレベーターから突き落とされたり、戦闘能力の低いアドラーにやられる程度では、とてもアリアーネの求める水準に達することができそうにもない。
もう1つ考えた理由は、エルスターとアドラーが似ていたからかなと。アリアーネとエルスター、ファルケとアドラーの関係性ってすごく似てると思うんです。愛する人のために己を犠牲にする、敵としてそんな姿を見せることもまた、エルスターに約束を守らせることにつながるとアリアーネは考えたのかもしれないなって思いました。

全く同じ構図だし、額にキスする動きも同じ。

おまけ:肉塊
あと登場人物と言ってよいのか分かりませんが、後半から一気に存在感を増す、あちこちに浸食する肉塊。精神世界に散らばるメモから推察するに、これは精神世界上で肉体的に死を迎えたa)やc)の行きつく先。勝手に巻き込まれ、殺され、なのに死ねない、アリアーネと同じ状態にされてしまうなんて、理不尽極まりなくてたまんなかったです。


「私たちは誰一人としてここに望んで来たわけじゃない。赤目からは誰一人として逃れることはできない(ざっくり意訳)」
理不尽みが感じられて好きな文です

5)結び


以上考察未満の感想でした。登場人物についてはもう少し考えを詰めたかったけど、訳わかんなくなってきたので途中で諦めました。笑
そもそも、どうにもさっぱり分かんないんで考えることをやめたことがいっぱいあります。
ぱっと思いつくだけでも

  • 「6」という数字へのこだわりは何?(タロットも6、その他の仕掛けも6が多いし、遺物エンディングで横たわるエルスターも6人、惑星も6つ、持ち物制限も6個まで………)

  • なぜエルスターの目的はアリアーネを探すことではなく、他人の空似であるアリーネ・ヤンを探すことにしていたのか?

  • 各章のタイトルに込められた意味は?

  • シェルピンスキーの三角形など、無限構造がよく使われている意図は?

  • 遺物エンドに至るための鍵の説明文や金庫の中身である白百合に込められた意味は?

  • 登場人物達が何かと片目が隠れてたり負傷したりするのはなんで?

といろいろ。
特に各章のタイトル、どれも人文学系の専門用語なんですよね。

  • 第1章:SYNCHRONIZITÄT=シンクロニシティ

  • 第2章:LIMINALITÄT=境界状況

  • 第3章:GESTALTZERFALL=ゲシュタルト崩壊

境界状況、なんて宗教的な要素も多分に含んだ用語ですし考察の幅めっちゃありそうってわくわくしたんですが、私の貧相な頭じゃ何にも思いつかなかったです。無念。
なので、これからSIGNALISをプレイする人がもっと増えて、いろんな考察を見ることができるようになったらいいなぁって願ってます。みんなどう感じたのかとても興味がある。英語の読める人はSTEAMの掲示板が濃ゆいので見てみると面白いですよ。(余りに濃すぎて私は途中で挫折しました…。)
こうやってあれはなんだこれはなんだと考えを深められるゲームは久しぶりだったので、本当に楽しめました。結局6周しちゃった。

8年という歳月を費やし、このゲームを開発されたBarbara Wittmann氏、Yuri Stearn氏、お二方に心から感謝です。
以上ガバガバ感想、お付き合いいただきありがとうございました。

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