昭和の青い鳥③


その夜、アオイは疲れた体を休めるために、部屋にあった古いラジオを何気なくつけた。ラジオからはノイズ混じりの音楽が流れ、時折、落ち着いた声の女性パーソナリティが話している。昭和の時代に完全に入り込んでいるこの瞬間に、アオイは少し感動を覚えた。まるで、自分が時を超えたことが夢のようでありながらも、現実だと感じていた。

ふと、パーソナリティが興奮気味に話す内容が耳に飛び込んできた。「さて、皆さんお待ちかね!あの大人気デュオ、ピンクレディーが来週の土曜日、ここ東京でコンサートを開催します!チケットはまだ若干残っていますので、今すぐお申し込みを!」

「ピンクレディーのコンサート…?」アオイは目を大きく開け、ラジオに耳を傾けた。憧れ続けたアーティストのコンサートが、自分のすぐ手の届く場所で行われるという事実に胸が高鳴った。現代では叶わなかった夢が、ここ昭和の時代では現実になろうとしていた。

しかし、その高揚感はすぐに現実の重みで打ち消された。彼女には今、コンサートのチケットを買うお金がなかったのだ。生活のために雑貨屋で働いているものの、まだ給料ももらっていない状況で、そんな贅沢はできない。

「行きたいけど、無理か…」アオイは少し寂しそうに呟き、ラジオを消した。自分の中で膨らんでいた期待が一気にしぼんでしまい、彼女はそっと布団に入った。しかし、胸の中にはピンクレディーのコンサートへの想いが消えないまま残っていた。

翌日、雑貨屋での仕事をしていると、店の扉が開き、若い男性が入ってきた。彼は幸二という名前で、田中の店の常連だった。彼はいつも古い雑貨を探しに来ては、田中と世間話を楽しんで帰っていく青年だった。

「やぁ、田中さん。今日もいい品揃えだね。」幸二は元気よく挨拶をし、店内を見回していた。

「おや、幸二君。今日は何か掘り出し物でも見つかったかい?」田中はにこやかに彼を迎えた。

そのやり取りを聞きながら、アオイは黙々と商品の整理をしていた。すると、幸二がアオイの方に歩み寄り、彼女に笑顔で話しかけた。「あれ、君、新顔だね。ここで働いてるの?」

「はい、最近からお世話になっています。」アオイは少し緊張しながらも、笑顔で答えた。

幸二はアオイをじっと見つめ、何かを思いついたかのようにポケットから一枚のチラシを取り出した。「これ、君にあげるよ。今度、隣町のデパートの屋上でフォークソングのイベントがあるんだ。良かったら行ってみたらどうかな?」

アオイはチラシを受け取り、その内容に目を通した。そこには、隣町のデパートで開かれるフォークソングイベントの告知が書かれていた。日付はちょうど彼女の休みの日に重なっている。思わず顔が明るくなり、アオイは幸二に感謝の気持ちを伝えた。

「ありがとうございます!その日、ちょうど休みなんです。ぜひ行ってみたいです!」アオイは興奮気味に答えた。

「それは良かった。フォークソング、なかなかいいよ。きっと楽しめると思う。」幸二はニッコリと笑い、田中と軽く話を交わした後、店を後にした。

その日の夕方、アオイは早速田中にイベントの話を持ちかけた。「田中さん、今度隣町でフォークソングのイベントがあるんですけど、私、その日お休みをいただいてもいいですか?」

田中はアオイの顔を見て、優しく頷いた。「もちろんだよ。休みの日には好きなことをして、リフレッシュするのが一番だ。楽しんでおいで。」

アオイは心から感謝し、その日が待ち遠しくなった。ピンクレディーのコンサートには行けないけれど、昭和のフォークソングに触れられるこのイベントを、アオイは心から楽しみにすることにした。そして、その日のために、仕事に精を出して頑張ることを決意したのだった。

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