見出し画像

【国立文楽劇場4月公演】曾根崎心中-感想ネタバレ注意

2023年4月某日
どなたでもタイトルだけなら、ご存じでしょう。近松門左衛門作
「曾根崎心中」それを観に行きましたよっていう日記!公演期間は四月中!

そもそも何故文楽?

そもそも何故曾根崎心中を見に行くことになったのか?そんなのどうでもいいぜとお思いの方は飛ばして本筋の感想(といっても軽いものですが)へ行ってくださいまし。

私は、無頼派・織田作之助が好きなのです。その織田作之助の作品では、文楽がしばしば登場する程度には文楽がお好き(参考(1)(2))でして……まあ、つまりはですね!推しが好きなもん、見なくてどうする?!

オタク。一念発起

「最適解を選んでいたつもりが、最終的には地獄だった」展開が好きな厄介な性分ゆえ、曾根崎心中というものを見てみたかったのもあります。曾根崎心中はある種のハッピーエンドかなとも思いますが……そこらへんは感想の方で語らせてもらいます。

さて、そんなこんなで「文楽見に行きたい」熱が燃え上がった。ただ、一人だと流石に寂しい。ので、

Twitter(リア垢)で「文楽みてえ~」というデカイ釣り針を垂らしていると、
「いいね」をする人間が。

「よしっ!!釣れた!」

変人一本釣りです。20代で人形浄瑠璃文楽に興味関心がある方はまあ珍しいので変人と呼んじゃいました。
読んでたら怒らないでね。

DMで日程調整をして、予定が生えます。よしよし…内心では「計画通り」の顔をしていました。

一応ウィキで曾根崎心中のあらすじを読んで、最悪聞き取れなくても理解はできるように準備していきました。

企画展示-上方浮世絵展

上方の浮世絵と江戸の浮世絵の違いとか、歴史とか書いてました。文楽の方が脳みそに残りすぎて、押し出されてしまいましたが、個人的には「女役をするいつもは男役の俳優」の絵が「女装させがちなの変わらねえな…」と思いながら見てました。もしかしたら私の思う低俗ない意味ではないのかもしれない。
今でいうブロマイドだったんかな?

文楽に関しても展示がありました。ミニチュアで劇場内がどうなっているのかだとか、三味線とか、諸々の展示がありましたね。こういうの使うんや~って感じ。

展示スペースは大きすぎないから、近く通った時には見てみてほしいです。
文楽興味無くても、無料なので見よう。案外面白いかもよ。


開演-近松門左衛門300回忌 曾根崎心中

 会場前の物販のコーナー近くに音声ガイドが売っていました。「もしかしたら、面白い情報を得られるかもしれん。一期一会」と言い訳しながら、センター試験を思い出すようなイヤホンと機器を借ります。
(一応その時は800円でしたと言っておく)。
場内へ入ると、「わあ荘厳~~!」

図1.国立文楽劇場内

劇場はでけぇし、かっこいいのに、同年代の人間は外国の方ばかりで少し嘆きつつ。

生玉社前の段

生玉、つまり生國魂神社での境内か。推しも作品に出してる出してる。(織田作之助の「道なき道」読め!)私も2回いった(威張れる数じゃない)と変な部分で頷いていると、人形の登場。
徳兵衛は生玉社前で茶屋で客と共にお茶をする恋人のお初を見る。久しく会えていなかったことを責める

遠くても綺麗に見える。お初が徳兵衛に縋るような(ちょっと語彙が出てこない)仕草をする時など、本当に生きているように人形が動かされる。
力強く出てくる時には足音を鳴らしながらしているんだろうな、という音が出ていました。(多分合ってる)

人が演じたらもっと楽かもしれないのに、人形を使っているのにここまで人間よりも人間らしくするのは本当に見ていて気持ちがいいほどの技術だよな。

さて、ここでの徳兵衛の生存のための選択肢はどうしても「結婚を承諾する」になるのだが、お初とて、自分が遊女であることを解っているのだから、話し合えばいい落としどころになりそうなのにな。例えば、
1「結婚を承諾する。お初とは客として会う」→お初が恋人とはいえ、お初は遊女で、徳兵衛は客としてしか会うことは出来ない。妾として遊女を身請けするのが信頼を損ねる行為となるなら、ただの客として会いにいけばよかろうて

2「結婚を承諾する。お初を妾として身請けする」→その時の常識を知らないけれど、お妾さんなんて数十年前まであるものだし、(現在だと、浮気となってしまって離婚慰謝料請求となろうて)

*入り婿と印鑑に関して
 江戸が武家社会なのに対して、大坂は商家文化。
 女房が家庭の覇権をとる。というのも、当時の商家では家付き娘と、従業員の中で商売の才があるものを婿にとっていたらしいことからとのこと。へぇ~~つまりは女系の家が多いってことだったのかな。
 印鑑に関しては、自分の使う印鑑を今みたいに登録していたんだって。だから不正利用されたらバレる、ってことになる。

天満屋の段

夜になり、天満屋で徳兵衛の安否を気にするお初。そんな中遊女たちは生玉さんでの騒動の噂話をする。徳兵衛が天満屋の前にいることに気づいたお初は、着物で隠しながら天満屋に招き入れる。

そんなところに現れる油屋の九平次。騒動の顛末を赤ら顔で話し、徳兵衛がいなくなったらお初を可愛がる等と言う。お初は、九平次に向かっていう振りをしながら、徳兵衛へと自分も死ぬという覚悟を示す。

店じまいされ、お初は二階に一度行くが、その後合流するために、まず灯りを消せねばならないと、扇で消す。暗闇の中でやっとこさ、合流する。

なんか私の文情緒ないな?まいっか!!!!

→感想
油屋うぜ~~~なぁ~!
話が妙にうまい感じで話されていたので、なんとなく「行く先々で徳兵衛の詐称の上、逆上して暴行するという不祥事を得意げに話してきた」という雰囲気があって「こいつ~~!」となりました。いや全く格好よくはない。
例え徳兵衛が悪であったとしても、「悪を打ち倒した俺」を自分の口で声高に話すような九平次みたいな人間は普通~~~にキショです。

ほんで?次は「俺がお前を可愛がってやる」キッショ!!!!見ろ俺の鳥肌を!お初は恋人の話の方を信じるに決まってるやろうが!そんなやり方でお初を奪えるとお思いで???!そもそも横恋慕でしたの?!キショですわよ!

まあ、前の段で「丁稚上がりが!」って言ってたんで「丁稚から婿(店の主人になるってことよね?)まで上り詰めた才能」を妬んでもいたのだろうか?

もしくは「婿になったらお初との縁も切れるだろう、その後でお初の恋人になりてえ」って思っていたのかな?だったらお初を選んだから無茶なやり方をするしかない。と、いう横恋慕…?
どっちにしろ同意しかねる~~~!

お初の啖呵の切り方かっけえな~~って思いました。あと、嘲られて悔しがる徳兵衛を足で宥めるような仕草をするのが何だか色気を感じてムフムフ思ってました。徳兵衛も徳兵衛ですりすりしてたし。はわ~~

次ィ!

天神森の段


ふたりは、橋を渡って森の奥。死場を求めてさまよう。朝になるまでに死なないといけない。
男は詐欺により、女は逃亡により、もはや生きて大阪に戻れないのだろう。
死の前では全てが「この世の名残」。(←作中でのこの表現すっごい気に入りました。名残…いいな)

夏の大三角形が見えて、二人を彦星と織姫になぞらえるよう。
二つの人魂が出てきて恐れるお初、同じように死んだ二人の魂だろう。死んでも二人でいられる証左。
19のお初と25の徳兵衛、二人とも厄年なのは運命か。
と二人の運命を嘆く。
徳兵衛は亡き父母にお前を合わせて嫁姑の顔合わせをしたいと言い、お初は健在の父母に自身が足抜けしてしまった迷惑がかかってしまう。けれど恋に死ぬのだと覚悟を見せる。

覚悟をみせる女の美しい横顔に切っ先を鈍らせる徳兵衛。まあ結局早くと急かされてちゃんと刺すんですけどね。
運命だとかなんだとか言って自分たちの決心が揺らぎそうなところを止めさせて、死に向かうのがひぇ~~ってなりました。SAN減ってない君ら?選択肢が死ぬしか二人とも無いからこそ、恐ろしさを紛らわせているのかな、と思うと泣いちゃうわね。

全体の感想

いろいろな意見はあるかと思うけれど、筆者の狭い見解では「現実に生きられない男女」でもあるのかな。と思った。信念を曲げさえすれば、(生玉のとこで書いた選択肢1でも2でも、そっちをとれば)浮気と罵られたとしても、生きて恋を出来るのに。だが、そうなると坂口安吾風にいえば「堕落」となる。恋心が冷めてしまうかもしれない。嫁に心変わりするかもしれない。少なくとも嫁に嫉妬してお初が醜い心になったなら?それは堕落だろう。

堕落せずに死んでくれてほっとした、美しいまま死んでくれ。

と思ってしまうのが観客精神ですよね。

全体の感想
話の内容は明瞭。簡単と言ってしまったら簡単な話ではありますが、だからこそ、考える余裕があって、楽しいな!

「愛し合っていた」って言うけれど、どこまでの関係だったのかって分からないので勝手な妄想しちゃいます。

もし「お初が本心では徳兵衛を愛しきってはいなかった(ただしそれなりに好意を持っている)」なら、最近会いに来てくれなかった常連客を責めてみると、クソ重い理由を言われるわけじゃないですか。こっちは「出世株で、(恋人みたいな)常連客」と認識しているとしたらですよ。
ま~~「こいつ重いな」って思うか「そこまで本気だったのか」と驚愕しながらもキュンとしてしまうかもしれない。

何でキュンになるんだって?だって考えてもみてくださいよ?若い身空で借金のためなのか、売られ遊女として生きて、現実なんてよくわかっていて、恋に恋したくても、そんな身分じゃないって理解している女。客が何人もいて、お金を払って会いに来て、恋人のように扱い、扱われる常連客を本気だとどうやって思える?私に会いに来るにはお金がいるんだよ?いつか身請けしてくれたらな。なんて思っていても、丁稚上がりとは言え出世株だしな。すぐに縁談が舞い込んで私はお払い箱だろ。ってあきらめてたと思うんよ。そうしたら自分の身さえ顧みず思ってくれていたんだよ?こっちも良く思っている相手ならキュンってするだろ!するって言え!(オタク特有の早口)

雑談

どうしても、文楽劇場の紋が宝石の国の月人の姿にしか見えませんでしたが、調べてみると、由緒正しい紋らしいです。失礼いたしました。

図2.月人(宝石の国)に見えてしまったやつ

あと、流石に文楽の人形の写真一つも掲載しないのは寂しいので、今回の講演では使われていないやつだと思いますが、ロビーに展示されていた人形の写真を置いておきますね。

図3.文楽人形雛鳥(?)

ちょっと文字数多くなりすぎたような気がするので、この辺で。気が向いたらまた、鹿肉料理の話もしますね


後日談:
母「私も同じ年ごろの時に見に行きたかったんよ。ただ、どこでやってるかとか知らんくって」
私「…血は争えぬわね」
父「俺は浄瑠璃には一切興味ないなぁ。あと、鹿食べた(見に行った後鹿肉料理食べてきた)なら次は馬肉じゃない?!」
私「血は争えねえな」(母はジビエ等興味無い)

参考
(1)国立情報学研究所〈研究ノート〉織田作之助と文楽
(2)織田作之助『二流文楽論』(1946年)より。(以下略)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?