革のきもの

新しい自然の美しさに、着物の存在感を感じます。

令和四年五月。篠原ともえさんが、デザインとアートディレクションを務めた鹿革のきもので、世界的な広告賞ニューヨークADC賞を受賞したことが、朝の情報番組で取り上げられていました。

着物って、正絹や木綿などが、よく目にするものだけれど、皮革で着物が作れるのか、などと思いながら、篠原さん自身が出演されていたこともあり、情報番組にくぎ付けになりました。

作品名は、「THE LEATHER SCRAP KIMONO」。ニューヨークADC賞は、一九二一年に広告美術団体「アート・ディレクターズ・クラブ(ADC)」によって設立され、世界で最も歴史のある広告デザインの国際賞。日本ではなく海外で評価されたことに、着物が日本を伝えるものの一つであることを、強く感じました。


使われている素材は、エゾ鹿革の捨てられてしまう端切れで、作品の形は着物。柄の表現には、端切れの曲線そのままが用いられていて、パーツに分けて染めたものを組み合わせ、同じパーツはひとつもないそうです。

着物の模様は、山の稜線が浮かび上がった風景で、水墨画のよう。「山」は、裾から黒色で始まり、腰、肩に上がるにつれて、濃いグレーから薄いグレーのグラデーション。穏やかな色の変化が、優美で、奥行きを感じます。


実物を見てみたい。ちょうど、浅草の台東館で開催されている、東京レザーフェアで展示されていたので、会場に足を運びました。出展している日本タンナーズ協会のブースは、人だかりができていました。多くの人が、鹿革のきものに関心を寄せていたのです。

展示されていたのは、きものと帯。実物は、端切れの形や表面の凹凸がわかり、映像とは違う印象でした。そして、柄をつなぐ部分に縫い目が見えないことが不思議でした。


着物の形をしているものの、あくまで作品で、衣服として着用することができるのか、気になりました。映像では、その着物をモデルが着用しており、たおやかに歩いています。

革のきものは、重くないのでしょうか。近くにいた係員に尋ねると、

「きものと帯を合わせて3.5kgです」

との返答でした。これは、重いのか、軽いのか。自分が普段着ている着物の重さを量ると、約3kgでした。革のきものと、それほど変わらないことに、驚きました。柔らかい鹿革をまとう、着心地は聞きそびれてしまいました。


本来なら捨てられていたものが再利用できることを知り、革だけでなく着物の魅力も引き出されていたことに、革のきものが、店頭に並ぶ日も来るかもしれない。そんな将来を想像しています。

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