見出し画像

掘り出し物

「着物って、どこで買ったらいいの?」。そう聞かれて、気軽に比較できるネット通販を思い浮かべます。気になる着物は……と、「更紗 更勝」で検索。すると、「メルカリ」がヒット。呉服店の新品ではなく、中古品が見つかりました。


三十年前、社会人二年目の頃。仲の良い呉服店の店員から勧められ、更紗染の着物を購入しました。

若葉色の地色、草花や動物柄が細かく敷き詰められ、色数も多い小紋に、心を奪われました。色は一色ずつ、色の数だけ「染め」が行われるそうです。生地には丈夫な縮緬が使われていました。シワになりにくく着心地が良いもの。観劇などの、ちょっとした外出着にと、何度か着用したお気に入りの一枚でした。

着物は、見るだけでも楽しくて、販売会にも頻繁に足を運んでいましたが、同じ作家の着物に出会うことはありませんでした。

最近は、職人さんの高齢化で工房が減ってきているとか。ふと、以前購入した更紗染が今も手に入るものかと、気になりました。着物にある「更勝作」の落款だけが頼り。

検索した着物の画像には、「更勝作」とあります。書体も同じ。着物の色や柄、生地や染めの雰囲気から、同じ工房のものだろうと思わせてくれます。なんだか懐かしい友人に再会したかのよう。着物は一期一会。パソコンの画面ではなく、直接会いたい。購入ボタンを押しました。

早速、メルカリから着物が届きました。近くで見ると、深い茶色に濃紺や紫などがベースで草花が細かく描かれていました。羽織ってみると、身丈も裄丈も数センチ大きく、前の持ち主が垣間見えました。裏地に少しシミがあるけれど、表地はキレイで問題なし。仕立て直すこともできるでしょう。

着物には、お手入れ次第で、百年近く着ることができるものもあります。大切にされていた着物は、人の手を借りて、望まれる先へ、渡り続けている……。

欲しいものは、中古品の中で、待ってくれています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?