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【第1節】 セレッソ大阪 VS FC東京 ~初戦で見えたセレッソの課題とJ1優勝の可能性~

スターティングメンバ―

FC東京の守備の仕方

4-2-1-3から4-4-2のプレス

荒木が一列前に出て4-4-2の守備陣形に可変

セレッソのビルドアップについて語る前に、FC東京の守備について押さえておく。FC東京は4-2-1-3の初期配置から、守備時になると荒木が前に出て4-4-2の守備陣形となる。セレッソが4-3-3でアンカーを置いているため、FC東京としてはこのアンカーの田中を警戒しながらどうプレッシングをかけるかがポイントになる。ディエゴと荒木は田中へのパスコースを警戒しつつ、セレッソCBの舩木、鳥海を見る形。WGの仲川と俵積田は、セレッソの登里、毎熊を警戒しながら、縦パスのコースを消せる初期配置でスタートする。
開始3分の場面ではキムジンヒョンからビルドアップを試みるが、相手のプレスを警戒、また試合開始ということもあってか、無理にはつながずロングボールを選択する場面があった。
FC東京としては、セレッソがショートパスで繋いでくれば、プレスをかけて奪い取り、ショートカウンターという形を狙っていたことがわかる。

セレッソ大阪のビルドアップの特徴

左SBのポジショニング(偽サイドバック)

開始6分のビルドアップの場面。セレッソは左SBの登里が明らかにポジショニングを変えてきた。この動きは試合中に何度も見ることができ、セレッソが意図的に用意してきた形と言える。

左SB登里のポジション移動

仲川、松木のポジショニングを困らせる効果

登里のポジション移動で相手を困らせる

FC東京にとって一番避けたいのは、中央に入ってきた登里や田中にボールが渡り、そこから前線5枚(カピシャーバ、香川、レオセアラ、奥埜、ルーカス)に縦パスを供給されること。登里が中央に移動することで元々マークしていた仲川だけでなく、松木も登里の位置を警戒しなければならない。もしここで仲川や松木が不用意に登里に付き過ぎると、精度の高い左足を持つ舩木から香川に一本でパスを通される可能性がある。また仲川が登里や香川を警戒し過ぎると、セレッソの強みであるウイングのカピシャーバと長友との一対一の状況を作ることができ、突破できればセレッソにとって一気に大チャンスとなり得る。そのため仲川も松木も背後にいる香川、カピシャーバを警戒しつつ、登里へのプレッシングが可能なポジションを取らざるを得なくなる。

実は偽サイドバックは効果的に機能していなかった?!

 偽サイドバックと言っても、単純にサイドバックが中に入ってくれば良いと言う訳ではなく、後ろのビルドアップの形をしっかりと整備しなければ、ボールを前線に運ぶことができず、相手のプレッシャーを受けてカウンター、もしくは前線に苦し紛れのロングボールを出して相手に回収される可能性が高くなる。この試合の内容的にはセレッソの方がよく、サイドバックが可変し、試合を有利に進めたというように感じられるかもしれない。
 しかし実際はどうだったのか。セレッソは開始序盤から偽サイドバックでビルドアップを試みるが、実はこの試合、偽サイドバックを効果的に使ったビルドアップは全く機能しておらず、無理にロングボールを出して相手に回収されたり、相手のプレスを受け前線にボールを送ろうとしても相手に引っかかり、タッチラインを割ってしまう場面も見られた。

なぜセレッソが有利に試合を進めることができたのか

柔軟に戦ったセレッソ

後ろからのつないだ形のビルドアップが上手くいっていないのに、セレッソがなぜゴール前で多くのチャンスを作ることができたのか。一番の要因は、無理につなごうとせず、セレッソがロングボールを多用して柔軟に戦うことができたからと言える。本来は後方から丁寧につなぎたいセレッソではあったと思うが、もしセレッソが無理にボールをつなぎ、相手のプレスによってカウンターを受ける場面が増えていたら、この試合はFC東京ペースで進んでもおかしくなかった。FC東京にはそれだけ質の高い選手が揃っており、今回内容的にはあまり良くなかったFC東京だが、それでも荒木が2点取れたことは流石である。

レオセアラの存在の大きさとチームとしての強度の高さ

ロングボールを多用したからといって、当然上手くいくとは限らない。しかし、この試合ではレオセアラがDFラインからのロングボールやスローインのターゲットとなり、ボールを収めて周りの選手に落とすと言った場面はかなりの数見られた。1点目のシーンもレオセアラの頑張りがあってこそ生まれたゴール。そのほかのチャンスシーンや前線に相手を押し込めている要因にレオセアラが相手に競り勝ち、ボールをつなげられていたことが大きい。
そしてキャンプから取り組んでいる『強度』の高さが、この試合ではよく表れていた。セカンドボールの回収の速さ、相手へのプレスの速さは、昨年度とは違った強度の高さを感じられた。小菊監督も「セカンド!セカンド!」と大きな声を張り上げていたように、セカンドボールへの回収は非常に意識して取り組んでいた。そして当然ではあるがレオセアラは相手センターバックではなく、サイドバックの長友の近くにポジションを取り、長友のフィジカルの強さは誰もがが知るところだが、高さの面ではやはりレオセアラに分がある。セレッソは長友にレオセアラを当てて、そのセカンドボールを回収するという狙いがあった。

奥埜の気の利いたプレー

レオセアラが競り合った背後を狙う奥埜のプレー
相手サイドバックが上がった背後を突く奥埜のプレー

ここでのセレッソの強みはレオセアラだけではなく、なんと言っても奥埜の存在。奥埜はオフザボールの動きが素晴らしい。レオセアラが競った背後を奥埜が走り、ボールが出てくればセカンドボールの回収もできる他、相手のDFラインを押し下げ、空いたスペースに落ちてきたボールを香川、カピシャーバ、ルーカスが回収するといった形も意識していたのだろう。またルーカスがボールをもらいに下りてくる動きを見せた時はオートマチックのように奥埜が相手サイドバック裏に走り込み、スペースで毎熊から縦のロングボールを受けられるような動きはこの試合何度も行われていた。何度も自分にボールが出て来なければ足を止めてしまう選手もいる中で、常に走り続けてセカンドボールの回収を意識したり、スペースを作る動きができる奥埜はセレッソには必要不可欠な存在。また元フォワードであるため、身長はさほど高くないがやはり体の使い方が上手く、ロングボールをしっかりとキープして体を張り、近くの味方に落とすプレーはレオセアラ同様多く見られた。
今回ブエノや柴山を途中交代させていたが、ブエノは身長も高く、奥埜やレオセアラのようにロングボールのターゲットとしての役割も担っていたのだろう。柴山はどちらかというとウイングの位置から仕掛けられる方が彼の良さが活きるように思う。インサイドハーフで奥埜のように同じ裏への抜け出しが上手い選手と言えば上門。また上門は香川と同様、間で受けることもできる選手。選手の個性に合わせて、どこでプレーするとより彼らが活きるのか、今シーズンの小菊監督の手腕に注目したい。

セレッソGK、DFラインの足元の技術の高さ

プレスの矢印を後ろに向けさせるジンヒョンの縦パス

開始6分の場面。荒木が舩木に対してプレスをかけにきた際に舩木がジンヒョンにバックパスをして、プレスがハマっていく場面。右サイドに追いやられ完全にプレスがハマってしまうところだったが、この場面ではセレッソのプレス回避が成功する。細かい部分だが、ここで流石なのはやはりキムジンヒョン。荒木、ディエゴ、松木に囲まれた登里に縦パスを入れることはかなり勇気のいるプレー。しかし、ここで躊躇せずに登里を一度経由することで荒木、ディエゴ、松木を食い付かせ、相手プレスの矢印を一旦後ろに向けることができ、そうすることでセレッソDFラインの時間を作ることができる。
仮にジンヒョンがそのまま鳥海にパスを出していたら、おそらく毎熊のところでさらにプレッシャーがかかり、追い詰められていた可能性が高い。
また、登里もパスは若干ズレてしまったが、ダイレクトで鳥海にパスを出すことでプレスに来るまでのわずかな時間も作り出すことができていた。
またこの時に大事なのは登里や田中のポジショニング。荒木とディエゴの前や横でパスを受けるとなると、そのままFC東京のプレッシングの餌食になるが、荒木やディエゴの斜め後ろにポジションを取っていることが重要で、プレスの矢印を一旦後ろに向かせる準備ができたポジショニングと言える。

プレスがハメられそうな時の緊急回避

先程の場面で鳥海から毎熊にパスが渡ったが、FC東京としてはセレッソを右サイドに追い詰めているため、完全にプレスがハマっているようにも見える。しかし、おそらくこれはセレッソも想定しており、前からのプレスを受けた際に前線がどのような動きをするのかは共通理解されていたように感じる。逆を言えばFC東京を自陣まで食い付かせ、空いたスペースにロングボールを供給することでプレス回避しつつ、釣り出して空いた広大なスペースを使って、前向きに攻撃を仕掛けようとしていたとも考えられるが、サイドバックが低い位置でハメられそうな形であるため、効果的かどうかで言うとそうではない。セレッソの選手の高い個の技術があってこそ、プレス回避できた場面と言えるだろう。

今回の場合、まずルーカスは毎熊からのボールを引き出す動きを見せるが、その動きに連動して相手左サイドバック佳史扶の裏をしっかりと奥埜が走り込み、縦へのロングボールが入る状況を作っている。
またレオセアラも奥埜の動きに連動して、ボールを受けに下がる。松木は香川よりもレオセアラにボールが渡る可能性が高いと察知し、すぐさま戻ろうとしていたが、毎熊は限られた時間で状況判断し、数ある選択肢の中からフリーとなっている香川にパスを供給。香川がフリーだと即時に判断してパスを出した毎熊の判断は流石だった。香川がフリーになっているのは、前述したジンヒョンの縦パスがあってこそ。ボランチを食い付かせれば当然その裏にはスペースができるため、登里に縦パスを入れたことは中央のスペースを作る上でも重要な判断だった。しかし残念ながら、この場面においては数的有利の状況中で前進するも、香川のパスミスにより得点には至らず、非常にもったいない場面であった。

舩木がセンターバックにいるメリット

一本のパスで逆サイドへ展開

この試合でとても効果的であったのは舩木からのロングボール。プレスでハメられることなく前線までボールを運べたのは、舩木の存在が大きかった。上図は、荒木にプレッシャーをかけられ、このまま舩木が登里にパスを出せば左サイドでプレスがハマりそうな場面。しかし、舩木は左足からの一本のパスで逆サイドに展開し、この状況を無効化できる。そしてパスも相手サイドバックが出て来られない位置、ルーカスと毎熊の間のスペースに出すことで、余裕をもって毎熊がボールを受けられる場面が見られた。
ディフェンス面でもハイボールに競り勝ったり、相手の裏抜けに対してそのケアも行っていたことから、ディフェンスとしても一定機能していた。

セレッソのビルドアップ改善点

ウイングのポジショニングが高すぎる

両ウイングが高い位置を取っている

セレッソの改善点として、一番気になるのは両ウイングの高さが高すぎるということ。両ウイングが高いとなぜ上手くいかないのか。
前半の早い段階で舩木からカピシャーバに裏へのロングボールを二回ほど出しているが、全て長友に対応され上手くいかなかった。

後ろ向きにボールを受けるか、狭いスペースへの裏抜け

裏へのロングボールに対して、長友の対応力が優れていることは言うまでもないが、カピシャーバのポジショニング次第では状況は変わってくる。
今のポジションだとカピシャーバが高い位置から下りてきてボールを受けようとした際に、どうしてもカピシャーバは長友を背負う形で後ろ向きにボールを持たざるを得なくなる。結果サイドで奪われてカウンターのリスクも高まる。また長友と波多野のスペースが狭いままであるため、裏へのロングボールも対応されやすい。

それではどカピシャーバはどの位置に立つことを意識すればよいのか?

答えは、相手サイドハーフとサイドバックの間にできたスペースの中間付近

仲川と長友の間にできたエリアの中間付近
前向きでカピシャーバが仕掛けられる

カピシャーバがこのスペースにポジションを取っていたとしたら、舩木からのボールに対して角度ができるため後ろ向きでボールをもらうのではなく、半身もしくは前向きでもらうことが可能になる。そうなれば上図のように突破力のあるカピシャーバのドリブルを活かすことができる。これは右サイドにいるルーカスであっても同じことが言える。

長友が出てきた裏を狙う

仮に長友が高い位置までプレッシャーをかけようものなら、その時こそ裏を狙うことができる。カピシャーバの位置が高すぎると長友とゴールキーパーの間の距離も狭くなり、キーパーに処理されやすく、舩木からのボール精度もかなり高いものでなければ通らない。しかし、ウイングがもう少し低い位置にいて長友が上がった分、長友とキーパーとの距離は長くなり、ロングボールを蹴ってもキーパーに処理されにくいエリアが広がることになる。ウイングのポジショニングを意識することで、後出しじゃんけんで次のプレーを選択することができる。逆に低い位置まで下りてきてしまうとサイドハーフに対応されてしまうため、下り過ぎないことも大切になる。

まとめ

セレッソが有利に試合を進めていたため、偽サイドバックを使った効果的なビルドアップができていたという意見も見られたが、実際は前述したようにセレッソがショートパスにこだわらず柔軟に戦ったことがセレッソが有利に試合を進めた要因の一つ。またそれだけではなく、強度高くセカンドボール回収に努めたこと、FC東京をサイドに追いやり強度髙くプレスをかけようとしたこと等、他にも様々な要因がある。一方で偽サイドバックを使ったビルドアップの改善点もウイングの高さだけでなく他にもあるが、それはまた別の記事で紹介したい。昨年度神戸が強度の高いサッカーに切り替えてJ1初優勝したように、Jリーグにおいても『強度』というのは非常に重要なポイントであり、今季セレッソが優勝するための方向性としては間違っていないのと感じる。初戦で感じた強度の高さ、選手個々の技術などを見ると優勝を感じさせるポテンシャルのあるチームには間違いない。しかし、レオセアラが競り負けてしまうほど強力なセンターバックがいる広島のようなチームだと、今回の試合のようにはいかないだろう。ここから徐々にチームの完成度を上げて、小菊セレッソでJ1初優勝を達成してほしい。

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