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第70回 シンポジウム(「歴史総合」研究チーム)

第70回はシンポジウムという形をとり「歴史総合」研究チームより3人の方に発表していただきました。
―シンポジストより―
◯どのように探究科目の授業をつくるか
①探究は問いから始まる。学ぶ意欲を促す問いとはどのようなものか。社会科ではHowが使われることが多いが、これはWhat・When・Where・Whoを概括する機能を果たすものであり、興味を持ちにくい。Why?やWhich?の方が探究したい欲求を生み出すのではないか。
②探究は正解を求めるものではなく、正解がないかもしれない問いに仮説を見出し、自分で結論を導いていくもの。時間的余裕がないなど、教師が設定してしまいがちだが、生徒自らが仮説を立てられるような仕掛けをつくりたい。
③探究は証拠に基づいて仮説を検証する。資料を活用して仮説を証明していく。
このような授業デザインを取り入れていけばよいのではないか。歴史総合でも問いは設定するが、仮説を立ててアプローチするものではなかった。問いを基に諸資料を読解して歴史を考察するという歴史総合の学びを探究科目に活かしていく。探究とは何か、をきちんと理解できていないとただ面倒くさいだけの作業になってしまうので、そこを理解した上で授業を展開していきたい。

◯歴史総合→日本史探究へ
歴史総合をどう捉えているかによって探究科目の見え方が違ってくる。歴史総合の目指す授業になっていないと、探究も従来のB科目と変わらないと捉えられてしまう。
歴史教育は実用主義。歴史を手段にして、現代社会をより良く理解したり、現代的諸課題の解決方法を歴史を使って考えていく。過去のケーススタディ。
歴史総合は、その科目の性質から実用主義的要素がある。「日本史と世界史の融合」ではない。スケールを操作する科目。この国で起こったことがこの地域にどう影響したか、ある地域で起こったことがこの地域ではどうだろう?などある事象を地域や世界に拡大していったらどういう影響、どういう関係性があるのかを繰り返す。授業の作り方としては①語りたいストーリー(中学校で学ぶぐらいのもの)を描く→現代的諸課題を具体的に設定(生徒の文脈に応じて、解決するに有用な過去の事例があるかどうか、などを踏まえて)→③生徒に表現させたい問いを考える→④ストーリーをもとに課題解決に有用な事例を入れる→⑤生徒が問いを生成するための仕掛け作り→⑥パフォーマンス課題と評価の計画 の手順。
そんな風に歴史総合を捉えると、日本史探究は日本の課題を探究する科目。実用主義的側面がある。学習指導要領が示す単元構造からすると、大項目ごとの時代の特色を理解させて、それに対して問いを表現させて、仮説を立てて、仮説を検証する学び方で、学習のまとめとして、現代の日本の課題を探究するということになる。しかし、これを実用主義的に授業を作ろうとすると難しい。探究する現代の課題を最初に設定し、その課題の解決に寄与するような事例を時代ごとの学習の中に散りばめていって問いを構造化していくとうまくいくと思っている。
実用主義的側面を掲げながらそれを実践しにくい単元構成になっていることが課題。前近代は理解を深めることに重きが置かれ、近現代を扱いながら現代の課題の解決を考えるのか。時代を通観する問いは過去を理解するための探究にしかならず、学ぶ意味を見出しにくい。これらの課題を乗り越えられるような日本史探究の授業をつくりたい。

◯「世界史探究」の授業を考える―「歴史総合」をどう活かすか―
「歴史総合」は①授業で扱う内容(近現代がメイン・スケールで捉える・現代的諸課題の形成に関わる歴史を理解)②生徒の学び方(問いを表現)③授業の作り方(主題を設定)の点で従来の歴史系科目と違う。世界史探究と接続するのであればこれを踏まえる必要がある。しかし、内容が多岐にわたる「世界史探究」でこの③つのポイントが活かせるのか、歴史総合と重複する近現代史をどう扱うかが課題となる。
そこで「世界史探究」では、IDM(InquiryDesignModel)のブループリント(単元構造図)を活用した授業デザイン(『学びの意味を追求した中学校歴史の単元デザイン』(草原和博他・明治図書)で紹介されている)を提案する。これは歴史総合で大事にされていた要素を継承されており、この枠組を使えば、生徒に考えさせたい現代の課題と事例を選ぶことができ有効であると思う。また「歴史総合」でも扱う近現代史は概念や理論を構築していくことにプラスして、問い直しの視点も大事。
何を重視して「歴史総合」をしてきたかをまず振り返り、そこからそれをどのように「世界史探究」に活かすかを考えることで探究科目の方向性が決まる。

―指定討論者より―
◯これまであまり単元ベースでの授業づくりが行われてこなかった。古代から通史を扱って時間が足らなくなるパターンも多かったが、学習指導要領の改定で、単元で考えたり、単元と単元の関係を考えるようになりつつある。発表した3人の先生方は探究科目をカリキュラムで考えて提案してくださった。また内容の精選の方法や歴史学習の系統性を考えていく必要がある。
◯どこまで理想を追求するのか、どこで現実(本音)と折り合いをつけるのか。自分がやれるようにしかやできないし、やりたいようにやるのがよい。ただ、プロの教師として教壇に立った以上、目の前の生徒たちを見て、学ぶ楽しさを引き出す工夫をするなど初心を忘れず、やりたいことをやっていくのがよい。
―以下議論―
・探究科目だから探究なのか?歴史総合は探究ではないのか?問い続けることが探究なので、違いをどうつけるのか?
→探究の卵みたいなものを歴史総合でやって、探究で独り立ちのイメージ。探究は成長段階がある。歴史総合でも探究しているという認識はもっている。
・実用主義には賛成だが、古代中世は現代の課題と直結するのが難しい。必ずしも現代の課題に直結しなくてもどこかで感じる部分はあるはず。現代に繋げなければ実用性と言えないのか?子どもの自然な発達の中で生まれる知的好奇心をうまく引き出していくことも実用主義と言えるのではないか。実用主義をどのレベルで捉えるのか?
→実用主義的にするだけが歴史教育ではないと思っている。過去をみながら未来に入っていくということは伝えたい。過去の何をみるか、自分につながる価値観がどのように形成されたのかをみることは実用主義的な歴史に繋がる。しかし、それを生徒に問われたときにうまく説明できないので、今のところ現代の課題の解決が生徒に一番伝えやすい。どこまで実用主義かということはもう少し考えていきたい。
・歴史総合と探究科目は接続しなければならないのか。全く違う科目と考えれば、好きにやればいいのではないか。歴史総合は、中学校との接続やこれから世の中に出ていく生徒に市民として何を考えるべきかに重きを置き、探究科目は、大学進学後も歴史学と繋がる生徒もいるので資料から考えたり、仮説を検証する力をつけることも大切。中学校との接続、実社会との接続、大学との接続など何と接続するのかをもっと考えても良い。
→歴史総合にこだわり過ぎていたかもしれない。歴史総合は大事にしたいが、歴史総合の形を探究でそのまま実施すると探究科目の幅を狭めてしまうかもしれない。もう少し自由な感じで生かせる方法を引き続き勉強していきたい。
・古代中世も時代は違えど人間が集まって社会をつくっている点では同じ。人間とはどういうものか、社会がどういうものかを洞察することは古代でもできる。また、今の社会の当たり前が通用しないのが古代中世ならでは。そこを考えるのも面白い。
・探究はテーマの絞り込みが大事なのにこれまでの歴史は俯瞰的視野(系統性)が重要で矛盾。探究で大事なのは観点ではないか。なぜその問いが出てきたのか、自分がどういう歴史観をもっていてそうなったのかがわからないとあまり深まらない。
・高2・高3で探究科目を設定している学校が多く、高2で古代中世、高3で近代現代というイメージだったが、高2で1周、高3でもう1周のプランはありか?
→授業者がやろうと思って、学校ができる環境であればチャレンジするのもよいのではないか。
・探究科目と総合科目の違いはなにか。探究科目は総合科目の延長か?

参加者34名


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