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為替の適正水準はどう決まる?

私はnoteの記事の中で繰り返し、為替には明確な価格決定理論が存在していないと書いています。為替が動くとその変動要因を説明する方もいらっしゃいますし、為替見通しなるものもあるわけですが、私は内容を理解しようとはしていますが、為替見通しを投資の拠り所とはしていません。

今回は少しお勉強になりますが、為替の価格決定理論について少し説明してみたいと思います。
 


古典的な3つの学説

購買力平価


同じものであれば、どこであっても同じ価格になるべきだという考え方です。購買力平価が成り立つとすると、例えば、同じ大きさ、同じ品質のハンバーガーの価格が米国で 1 ドル、日本で 100 円ならば、1 ドル=100 円になります。

20 世紀始めに誕生した古典的な学説ですが、シンプルで直感的に理解しやすいので、今も広く活用されています。

ビックマック指数が使われているように、国家間の価格の差は大きくなかなか修正されません。つまり、国家間の商品価格の裁定には長い時間がかかるため、短中期の変動理由の説明としては、単独では使えないとされています。
 

国際貸借説


国際貸借説とは、為替の需給は国際貸借の状況により決まると考える理論です。国際収支説ともいいます。国際貸借説では、国際貸借の状況を一定期間の経常収支から捉えようとします。

たとえば、日本の経常収支が黒字とすれば、為替レートを円高・ドル安に動かします。経常収支が黒字になると、日本が受取った外貨を円に交換するため、外貨を売って円が買われるからです。逆に、経常収支の赤字は、為替レートを円安・ドル高に動かします。経常収支が赤字になると、外国に外貨を支払う必要が生じるため、円を売って外貨が買われるからです。

国際収支とは、経常収支と、資本収支からなります。経常収支は、物の売買の帳尻を示す貿易収支、サービスの売買の帳尻を示す貿易外収支、贈与などの移転収支を合わせたものです。資本収支は、国と国との間の貸し借りや対外投資などの動きを示したものです。

国際貸借説でいう国際貸借とは、一定期間のお金の動きである経常収支を指したもので、短期的な為替レートの動きを説明するのに適していますが、それ自体で適正な水準を説明するものではありません

また、国際収支のデータ収集方法は、各国の統計データに誤差があり、信頼性に欠けることに加えて、国際貸借説は、19世紀後半から第1次世界大戦に至る金本位制時代に支持された理論とされています。当時の国際収支は、大半が経常収支であったため、経常収支で為替の需給関係を把握できたのです。ところが、1980年代以降から、国際収支の中で資本収支の占める割合が大きくなり、経常収支のみでは国際間のお金の動きを見るのは難しくなってきました
 

為替心理説


為替相場は、思惑・信頼感・人気・登記・予測などといった心理的要素によって変動すると考える理論です。フランスの経済学者、A・アフタリオンが唱えたもので、政治情勢や軍事情勢などのニュースが流れると相場が大きく変動する現象を説明する学説ですが、価格決定理論がないことを説明した理論だと思います。

典型的には2000 年代以降の円高局面では、米国の対日圧力が円高心理の定着につながったとする「円高シンドローム説」という言葉が流行りました。逆に最近では、日本の成長性や財政への不安が恒常的な円安心理につながっているとの説が登場していました。このような「もっともらしい」ストーリーは時とともに移り変わるのが特徴で「バブル」の温床となりがちです。
 

新しい理論は国際貸借説と購買力平価の組み合わせ

フローアプローチ


短中期の決定理論として固定相場時代に発展したのが、二国間の国際収支に注目したフロー・アプローチです。財やサービスの取引を示す経常収支と、その裏側にあるカネ(資本)の流れを示す資本収支(両者の収支尻は概念的に一致する)の不均衡が調整されるように為替相場が決定されるという考え方です。

アセットアプローチ

しかし、変動相場制移行後、資本取引の規模が経常取引に比し著しく大きくなると、ある期間の取引を示すフローよりも、結果として蓄積された金融資本の大きさで説明しようというアセット・アプローチが優勢になります。つまり内外の金融資産の交換比率としてレートが決定されるという考え方です。
為替相場は、マネーストックとしての通貨の相対価格で、マネーストックは物価の変動要因であり、これにより購買力平価を短中期の理論に取り込んだのが特徴です。

これを拡張したモデルからは、物価の動きが金利よりも遅いことで、一時的に為替レートが均衡水準から大きく乖離(オーバーシューティング)する可能性なども示されます。マネーストックの差が為替に影響するという点は、実際の為替変動の説明力も高かったことから、考案者の名前にちなみ、ソロスチャートとして市場関係者の間で人気を集めました

ポートフォリオ・バランス・アプローチ

こうしたマネタリー・アプローチは購買力平価の成立が前提になっていますが、購買力平価自体の説明力が弱いことが明らかになると、商品の裁定より金融資産の裁定により重きを置く理論が発展します。金融資産の裁定には、リスクに対する上乗せ金利であるリスクプレミアムが影響します。これを経常黒字・赤字の大きさ等で説明したのがポートフォリオ・バランス・アプローチと言われています。

どの理論も現実とのギャップが大きい


この様な理論は1980年代ごろまでに議論しつくされ、理論的な変動要因は整理できたのですが、結局分かったのは理論と現実のギャップが大き過ぎて相場予想に用いるのにはどれも不向きであるという事でした。
 
このように中長期的に為替の適正水準がどうなるかという事で信頼して使える為替決定理論はなく、短期の変動を金利で説明しようとするものが多いと思います。これは、お金は金利の低いところから高いところへと流れるという単純な原理です。

金利の動きを決める最も重要な要素のひとつが、政策金利を決める中央銀行の動向ですから、為替相場では金融政策の決定内容や、中央銀行の高官発言等には常に高い注目が集まるわけです。
 

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