当方128の『ちょっとだけ得をした話』
おはようございます、当方128です。
みょー様の第七回『 #ちょっとだけコンテスト 』に参加させていただきます。
『北島康介と田中みな実』
もう10年近く前だが、アテネ五輪・北京五輪金メダリスト・北島康介氏の講演会を観に行ったことがある。
私は水泳どころか一切のスポーツをしない極度の運動音痴だが、参加費無料であることや、生の北島氏を拝んだことを誰かに自慢できるのでは、という浅はかな動機で会場に向かった。客席はクラブ活動やスクールなどで水泳をしている小学生とその親で埋め尽くされており、元科学部でひょろ長いガリガリのアラサー(当時)インドアオタク男にとっては肩身が狭かった。
それでも見たもの勝ちである。かつて日本を感動の渦に包んだ金メダリストの貴重な話を生で聞けたことは紛れもない事実。中でも印象に残った話は、2004年の流行語大賞にも選ばれた「超気持ちいい」が私の想像以上に深みのある言葉だったということだ。
その4年前、2000年のシドニー五輪。高校生で出場すること自体が異例だった北島氏だが、結果は100m平泳ぎ4位入賞、惜しくもメダルを逃し「超悔しい」と思ったのだそう。それからの4年間、ひたすら「タイムをコンマ1秒縮める努力をして、それを積み重ねてきた」。
そして迎えたアテネ五輪。リベンジの100m平泳ぎで悲願の1位に。ついでに200mも金メダルという2種目制覇となった。4年前の「超悔しい」があったからこその「超気持ちいい」発言だったのである。この対比はとても感慨深い。
しかし、水泳をしない私には関係の無い話だとも思ってしまった。あくまでも未来の水泳選手である子どもたちに向けた講演会。当時コンビニ店長だった私にコンマ1秒を縮めるミクロ単位での努力など求められていない。北島さんカッケーとは思いつつも、心を大きく揺さぶられることは無いまま平凡な日常に戻った。オリンピック選手の話を無料で聞けたこと自体はちょっとだけ得をした。そう思うことにした。
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10年弱が過ぎた。私はアラサーからアラフォーになり、1回転職もしたが、内面はあの頃のままだった。輝けない。報われない。何者にもなれない。noteで「現実は理不尽で無慈悲」だと何度も書いてきた。具体的には「仕事における評価が不平等である」ことが腑に落ちなかった。どんなに頑張っても一向に報われない私を横目に、自分より努力していない奴が評価され、考えが甘い奴ほど上手くやり過ごしたり、あまつさえ昇進までしている。可愛い陽キャ女子社員が上司に甘やかされているのを見た時は確信した。あの人は私と住む世界が違うのだと。
ここ数年はそんな社会の不条理を毎日のように考えては落ち込んでいた。可愛い女性、格好良い男性は周囲からチヤホヤされて生きているし、親ガチャや学校ガチャでURを引き当て、良い環境に恵まれて育った人は最初から何十ポイントものアドバンテージがある。彼等に比べれば、私は常にビハインドのある状態で人一倍努力しなければならない人生だった。生きづらいと何度思っただろうか。
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いつまでも消えない私のモヤモヤは、一つの言葉を思い出すことで決着した。北島康介氏の「タイムをコンマ1秒縮める努力をして、それを積み重ねてきた」である。最近になってようやくその言葉の真意に気付いた。北島氏はあくまで自分の記録の事しか考えておらず、誰かと競ったり比較するという概念は脳内に無かったのではないか。「超悔しい」も「超気持ちいい」も、4位・1位という自身の結果に対してのみの感情だったのであれば納得がいく。他者との比較をせず、全て自分の中の問題として処理していたのだとしたら。
それに気付いてからは考え方が変わった。可愛い女性も格好良い男性も、あるいは世渡り上手な奴等も、みんな住む世界が違う。それはどう足掻いても覆らない不条理な現実。ただ、その世界を創ったのは自分自身なのではないか。私が常に生きづらいと思う自分の世界だって創ったのは自分。確かに学生時代までは親や学校、その他の周囲の環境にも左右されただろうが、少なくとも社会に出て自立してからの10数年間はいくらでも生きやすい世界に変革できたはずなのだ。その努力を怠ったのは自分の責任に他ならない。チヤホヤされている奴等は自分と違う世界の住人であり、比べることは無意味だと割り切って、自分の成長だけを考えて生きていくしか無いのだ。
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ようやくモヤモヤが晴れた私の心を後押しするように、別方向から救いの言葉もあった。あざといフリーアナウンサー・田中みな実氏の「私には私の地獄がある」。4年以上も前の発言だが、私は最近になって発見した。隣の芝生は青く見えても、実際は誰にだって「人には人の地獄がある」。可愛い陽キャ女子社員にも彼女なりの地獄があるのだ。少なくとも何も抱えていないということは無い。住む世界が違う人々も根本的には私と大差ないと思えるようになった。
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しかし、ただ気付いただけでは「ちょっとだけ得をした」に過ぎない。ちゃんと仕事で輝けるまでに成長して「かなり得をした」と思えるよう、北島康介氏と田中みな実氏の言葉を噛み締め、やさぐれず前向きに生きていたい。
(Fin.)
あとがき
当初は「たまたま立ち寄った椿屋カフェの店員がメイド服を着ていて癒された話」と2本立てにする予定でしたが、1本目があまりにも長くなってしまった為、割愛させていただきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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