【朗読】HANABI
所要時間:約2分
人数:1人用
もうすぐ夏を迎えようとする頃、ボクはキミのことを思い浮かべる。
キミとはじめて出会ったのは、GW直後のカラオケアプリでだった。
就職後、初の大型連休を迎えたものの特に旅行の予定もないボクは、友人にすすめられるままカラオケアプリをダウンロードしていた。
なんとなく聞き覚えのある歌を歌って過ごしていたある日、カラオケアプリにDMが来ていた。
「どれも素敵な歌声ですね。ファンになりました。今度歌ってほしい曲をリクエストしてもいいですか?」
DMをくれたキミのプロフィールを確認したところ、ボクとまったく同じアーティストを推しにしていた。ただ、DMになれていないボクはすぐに返事を返すべきかどうか悩んだ。
友人に相談したところ、アプリ内でやりとりするくらいなら心配ないのでは?とアドバイスがあり、2日遅れで僕は返事を返した。
「ありがとうございます。リクエストお待ちしております。歌えるかわかりませんが精一杯歌わせていただきます。」
多少、表現がかたいかと気になったがはじめてやりとりすることもあり、そのままで返信した。すると、次の日にキミからまたDMがきた。
「こちらこそありがとうございます。けっして怪しい者ではございませんw。リクエスト曲は、xxxです。歌えなかったら無理せず。」
キミがリクエストしてくれた曲はボクが一番好きな曲だった。
ボクは軽く練習をしたあと、歌い終わった歌をアプリにアップした。
そのあと、DMにこう返信した。
「リクエストありがとうございます。この曲はボクが一番大好きな曲です。
精一杯歌わせていただきましたので、感想をもらえたらうれしいです。それでは。」
そんなやりとりを繰り返すうち、すっかり仲良くなったボクとキミは一緒にカラオケアプリ内でコラボしたり、雑談をするようになっていった。
夏を迎えようとした頃、キミから花火を見に行かないかと誘いをうけた。
なんでもキミの住む地方で昔から行われている大きな花火大会で絶対に損はさせないとの触れ込みだった。
ボクはお誘いいただいたことのお礼と少し考えさせてほしいと告げた。
3日後に夏休みの予定がとれそうであることを確信したボクはキミにOKの返事をした。
花火当日、天気は曇天で天気予報も雨の予報だった。
雨天順延がすでに主催者側から発表されていたこともあり、キミはなかば絶望的な表情をしていたね。
結局その日は午後から大雨となり、残念ながら花火をみることは叶わなかった。
残念な花火大会の数日後、キミからさらに残念なDMがあった。
詳細はいっさい触れられていなかったが、キミの親が病気で倒れたこと、それに伴い、キミが介護することになったこと、介護するにあたり、これまでのように自由にボクと連絡が取れなくなることなどが書かれていた。
残念なDMのあと、キミからの連絡は次第に途切れがちになっていった。
その後ボクにパートナーができたこともあり、ボクからキミにDMを送ることは次第になくなっていった。
その後、パートナーと結婚することになったボクはキミの存在を完全に忘れていった。。。
それから数年後の夏、ボクは妻と娘とキミが住んでいた地方の花火大会を見に行くことになった。その時、地元の方からこんな話を聞いた。
数年前中止になった花火大会で打ち上げられる予定の花火は参加者が参加し、その想いを花火に託して打ち上げる企画があったこと。
ボクは思い出していた。
花火大会の数日前、キミからこんな質問を受けていた。
「ねぇ、もしも私の好きな種類の花火が無事打ち上げられたらわたしの願い事をひとつだけ叶えてもらってもいい?」
あのときのキミの願い事はなんだったのだろうか?
もしも、花火大会が中止になっていなかったら、
もしも、キミの親が倒れていなかったら、
夏を迎えると思い出すんだキミの願い事のことを。。。
End
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?