型式証明における雷撃保護設計の証明基準

1.証明要求基準

背景

航空機に搭載される電気電子機器又はシステムは、継続した安全な飛行並びに着陸を行う上で、こう下機能を有する電子機器が誤動作し、電気電子機器の機能が正常に機能しなくなったり、機能が失われることを防ぐ必要があります。また、航空機が雷撃を受けることにより航空機が構造的な損傷を受けることがあり、こうした構造的な損傷が継続した安全な飛行並びに着陸を妨げることも避けるための設計である必要があります。一般に前者を間接誘導雷、後者を直接雷による影響と言えますが、型式証明において、これを区別していませんが、雷撃イベントを理解する上で便利なこともあり、これらの用語がよく用いられます。

直撃雷と間接誘導雷

直撃雷とは、その言葉のイメージの通りで、航空機に雷が直撃することであり、この直撃により、航空機の構造に物理的なダメージを与えます。適切な保護設計を行わない場合、航空機構造が飛散(外部搭載されるセンサーやアンテナ、ライト)したり、レドーム等の雷撃を受け易い位置にある構造に構造的なダメージをうけることになります。特に複合材などの非金属製の構造を用いる場合は、電流パスを適切に設計することが求められます。一方、間接誘導雷は、直撃雷による副次的な影響を指し、直撃雷による大電流が機体を流れることにより生じる電磁環境の悪化により、電気電子機器又はシステムのインタフェースに瞬間的なトランジェントを生じさせ、最悪の場合は、機器やシステムの機能を破壊します。こうした誘導トランジェントの影響を軽減するために、配線ルーティング、ボンディング、シールド配線などの工夫が必要となってきます。

2.雷撃保護設計のための証明要求

米国の型式証明の要求は、14CFRに規定され、航空機のカテゴリーに応じて、Part23、25、27、29が設定されています。これ以外にも、プロペラやエンジンに対する証明要求も設定されています。航空機のカテゴリーにおいて要求される雷撃保護設計のための証明要求は、いくつかあるのですが、ここでは、各航空機に共通して要求される証明要求を下記に示します。

においては、雷撃保護設計に関する証明要求は3つあります。(https://www.ecfr.gov/current/title-14/chapter-I/subchapter-C

◆ 小型飛行機:14 CFR PART 23 section 23.1306(注2)
◆大型飛行機:14 CFR PART section 25.1316
◆小型回転翼:14 CFR PART section 27.1316
◆大型回転翼:14 CFR PART section 29.1316

補足:Part25の飛行機には、上記に加え、Part25.section25.581やsection 25.954/981の証明要求もあります。

航空機の種類によって異なる証明要求(2X.1316)

上記に示した2X.1316の証明要求は、航空機カテゴリに拠らず、概ね類似した要求となっています。証明要求自体は非常にシンプルですが、そのぞれの言葉の意味するところは複雑です。このため、この記事において詳細を記載することは避けますが、概要を記すと、航空機に搭載される電気電子システムの機能に着眼し、その機能の重要度に応じて証明要求が設定されています。具体的には、大型の飛行機と回転翼航空機の場合、当該航空機に搭載された電気電気機器やシステムの有する機能のうち、それらの機能がcatastrophic、hazardous、majorのfailure conditionsを有している場合は、2X.1316の証明要求が適用されます。言い換えると、minorやno safety effect分類されるfailure conditionsに分類される機能にはには雷撃保護設計の証明要求は必要とされません。これらの要求は、計器飛行方式(IFR)での飛行を行う小型の飛行機と回転翼航空機にも適用されます。一方、有視界飛行方式での飛行に限定した飛行を行う小型の飛行機と回転翼航空機の場合には、catastrophic failure conditionsを有する機能を有する電気電子機器又はシステムのみに対して雷撃保護設計の証明要求が課せられます。以上、2X.1316の適用範囲を概説しましたが、雷撃保護設計の要求は、他にもあり、section
 25.581や25.954/981にも別途の証明要求が存在します。

ガイダンス・マテリアル

雷撃に対する保護設計の証明要求の具体的な証明方法は、米国連邦航空局が提供する下記のadvisory circularに示されています。あくまでアドバイザリーであり、規則要求(2X.1316など)に対する証明方法の一例を示しているものであり、これ以外の証明方法が否定されているわけではありません。ただし、多くのケースでは、このadvisory circularに沿った証明がなされます。

AC 20-136B - Aircraft Electrical and Electronic System Lightning Protection
https://www.faa.gov/regulations_policies/advisory_circulars/index.cfm/go/document.information/documentid/1019488

参考:欧州では、AMC20−136Aが発行されています。基本的には、同内容ですが、細部には若干の違いがあります。

RTCAガイダンス

RTCAが発行する技術文書には様々なものがありますが、雷撃保護設計に強く関連するものとして、DO160があります。DO160は、航空機搭載機器の環境要求の証明要求を事実上規定した文書にんります。雷撃保護設計に直接関連する環境要求基準は、下記の2つのセクションです。RTCA文書は有償文書となります。

◆Sect 22.0 – Lightning Induced Transient Susceptibility
◆Sect 23.0 – Lightning Direct Effects

補足:
DO160にはリビジョンがあり、現在の最新はRev-Gです。又、各セクションにはカテゴリが存在します。どのリビジョン、どのカテゴリを使用するかについては、下記に示す米国advisory  circularに記述があります。

AC21-16G, RTCA Document DO-160 versions D, E and F, “Environmental Conditions and Test Procedures for Airborne Equipment”

https://www.faa.gov/regulations_policies/advisory_circulars/index.cfm/go/document.information/documentid/1019280

SAEガイダンス

SAE internationalが発行する技術文書です。こちらのドキュメントは、装備品に着目したRTCA DO160とは異なり、航空機の製造者向けのガイダンスとなります。何も有償ガイダンスとなります。下記に記すのは、現時点で発行済みのガイダンスですが、技術の進展により新たな証明ガイダンスが追加されていく可能性があります。RTCAガイダンスと同様に有償文章となっています。

https://www.sae.org/search/?qt=Lightning&sort=relevance&sort-dir=desc&display=list&sector=%28%22AEROC%22%29


◆ARP5412, Aircraft Lightning Environment and Related Test Waveforms
◆ARP5414, Aircraft Lightning Zone
◆ARP5415, User’s Manual For Certification of Aircraft Electrical/Electronic Systems for the Indirect Effects of Lightning
◆ARP5416 , Aircraft Lightning Test Methods, describes test methods and test procedures to evaluate lightning effects on aircraft structure, components, electrical and electronic systems, and fuel systems.
◆ARP5577, Aircraft Lightning Direct Effects Certification, describes guidance on lightning certification associated with aircraft structure, mechanical systems, hydraulic systems, and external components and sensors.


補足:これらのS AEガイダンスは、下記の米国advisory  circularからも引用されています。

AC 20-155A, Industry Documents To Support Aircraft Lightning Protection Certification

https://www.faa.gov/documentLibrary/media/Advisory_Circular/AC_20-155A.pdf

3.まとめ

この記事では、雷撃保護設計に関する型式証明の要求を紹介しました。証明要求は、米国規則に数行で記載されているだけなのですが、その数行の証明要求を理解するには、advisory  circularや各種の業界文章の内容を把握する必要があります。技術の進化に伴い、新たな証明方法(電磁界シミュレータ)を目指す動きもあり日進月歩です。ここに引用した文書を合計すると膨大な文章量になります。本記事で記載することのできなかった内容なども今後追加していきたいと思いますので、よろしくお願いします。

4.免責

記事の内容は、細心の注意を払って記載をしていますが、絶対的なものではありません。本記事の内容により生じるいかなる損害、不利益等についても責任を負うものではありませんので、あくまで参考としてご使用頂ければ幸いです。

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