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型式証明における雷撃保護設計の証明プロセス

1.背景

雷撃保護設計は直接雷と間接誘導雷による影響にわけて考えることができますが、本記事では間接誘導による悪影響を証明していくためのプロセスに主眼をおいて説明します。ここでいう間接誘導とは、航空機が雷撃を受けた後、その瞬間的な大電流が航空機搭載の電子機器の機能に悪影響を与える誘導トランジェントを指しています。電子機器に悪影響を与えるメカニズムにはいくつかのモデルが考えられていますが、いずれのモデルにおいても電子機器のインターフェースに高い電圧や電流が誘導され、このトランジェントにより電子機器が破壊されたり、誤動作したりします。こうした影響がなく航空機を安全に飛行させるためには何を証明すればいいのでしょうか、具体的な証明プロセスを見ていきます。

2.何を証明すればいいのか?

航空機に搭載される機器は、一定レベルの誘導トランジェントに耐えられることが証明された電子機器がら選択されます。この雷撃トランジェントの耐性のことをETDL(Equipment Transient Design Level)といい、電圧や電流の大きさで規定されます。このあたりの詳細は、DO160 section 22に記載があります。一方、航空機が実際に雷撃を受けると、複雑な経路を経て、或いは、大電流による磁界の発生により、各電子機器のインターフェースに大きな誘導トランジェントが発生します。この誘導トランジェントは電子機器の配置場所、配線長、配線の種類、シールド配線の処理の仕方、つまり航空機の廃線設計によって大きく変動します。型式証明では、200KAの雷撃を受ける想定の下で証明がなされるのですが、この200KAの雷撃を受けた時、機内に搭載された実際の雷撃トランジェントであるATL(Actual Transient Level)が、機器耐性の証明レベルであるETDLを下回ればいいのです。現実の証明では、一定以上のマージンが要求され、多くの場合は、2倍のマージンが必要です。つまり、ETDLが600 Vである電子機器を使用するには、ATLは300V以下が基本です。このようにことを重要な機能を司る全ての電子機器に対して行うことで証明は完了となります。この重要な機器システムは、level-Aに分類される機器システムです。Level-B/Cに分類される電子電気システムの場合は、もう少し簡便な証明方法で良い事になっています。結論だけを書くと簡単ですが、実際の証明は、非常に複雑なものとなっています。しかし重要な点はETDLが一定の猶予を持ってATLを上回ることであり、これが全てです。

3.証明プロセス

型式証明の規則化要求である2X.1316を証明する上で、下記の7つのステップがAC20-136Bに示されています。

(1) 評価対象システムの特定
(2) 航空機の雷撃ゾーンの決定
(3) 各ゾーンに対する航空機の雷撃環境を設定
(4) 各システムに関係するライトニング・トランジェント環境の決定
(5) ETDLs(equipment transient design levels)とATLs(actual transient levels)の設定
(6) 要求への適合性の検証
(7) 是正処置

 上記の7つのステップを簡易的に補足すると、(1)の評価対象システムの特定とは、雷撃の安全性解析により、評価対象となるシステム、つまりLevel-A/B/Cシステムを特定します。このあたりは、過去記事に少し解説しましたので参照してください。
(2)の雷撃ゾーンの決定ですが、これは航空機のどの部位に雷撃を受けるかというマップのようなもので、小型の模型を使って試験により雷撃ポイントを特定します。雷撃ポイントは、航空機の形状に依存します。
(3)の各ゾーンに対する航空機の雷撃環境とは、(2)の結果をベースに機体の外部スキンに流れる雷電流を推定します。この時、雷撃電流の出口を意識する必要があります。(4)の各システムに対する雷撃環境の設定とは、(2)と(3)で確定した直撃雷の出入り口を基本に、機体内部に誘導される誘導トランジェントをざっくりと推定します。ここは、かなりのエンジニアリングが要求される内容で簡単ではありません。そして、この推定が、選定する電子機器の雷撃耐性を決めることになります。この推定精度がその後の型式証明の運命を決める重要なポイントとなってきます。
(5)のETDLとATLは、前項で記載したとおりで、推定値が正しかったかをここで検証します。
(6)の要求への適合性への検証とは、ATLとETDLの間に十分なマージンがあるかどうかです。原則は2倍のマージンが必要です。
(7)の是正処置とは、この(6)の要求が満たせない場合ですが、対処の方法は設計変更です。機体配線、シールドの処理、ルーティングの工夫などによる対処方法もありますが、ETDLのより高い電子機器に変更する必要があるかもしれません。

4.まとめ

本記事では、型式証明における雷撃保護設計の証明プロセスの概要を紹介しました。本記事に引用されているいくつかの技術用語は他の記事で記載していますので、必要に応じてご覧ください。

免責
記事の内容は、細心の注意を払って記載をしていますが、絶対的なものではありません。本記事の内容により生じるいかなる損害、不利益等についても責任を負うものではありませんので、あくまで参考としてご使用頂ければ幸いです。

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