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型式証明とHIRF(高強度放射電磁界)

1.背景

HIRFとはHigh Intensity Radiated FIeldの頭文字をとったもので、米国におけるHIRF規則は、強電磁界の環境下において、航空機に搭載された電気電子機器システムの機能の健全性を確保するための証明要求です。この強電磁界環境は、強い電波を発する電波塔の近傍を航空機が通過する場合などを想定したものです。このため大出力の電波塔周辺に航空機が接近すると驚異度が上がります。こうした点から低高度を飛行する場合においてリスクが高いと言えます。

HIRFに対する証明要求は比較的最近の2007年に米国で規則化されましたが、1990年頃にはspecial conditionを型式証明の証明要求に適用することで事実上、HIRFの証明要求の母体は、そのころから存在していました。このHIRF規則の母体となったspecial conditionが設定された背景にはFLY BY WIREの技術が民間航空機に採用されたことが契機になっています。それまでの航空機には当然のように使われていた飛行制御用の物理的なケーブルが取り除かれ、コンピュータと電気配線に置き換えられてしまったことに伴うコンピュータの誤作動を懸念したものでした。このHIRFの脅威はミリタリーの世界では古くからよく知られていて、過去には事故に至ったものがあります。HIRFの脅威は、電波を利用した通信が発達した現代の環境では、その脅威は増す方向にあり、さらに、現代の航空機は軽量化のために複合材を多用することでそのままでは電磁シールドが低下することから、電子機器に与える脅威度は増すばかりです。しかし、今日に至るまで、民間航空機のインシデントにおいてHIRFが要因とされたものはありません。このことは、HIRFの脅威が消失したのではなく、Special Conditionや、後のHIRF規則が有効に機能している好ましい実例と言えます。

2.米国におけるHIRFの証明要求基準

民間航空機の安全性の確保に貢献してきたHIRF規則も、他の規則と同様に14CFRの各PARTにHIRFの脅威に対する証明要求が規定されています。関連するガイダンスマテリアルも含めて下記に紹介します。なお、エンジン、プロペラについてもHIRF規則が適用されますが、ここでは割愛します。

#14 CFR 
-Part23, section 23.1308
-Part23, section 23.2520 (amdt 23-64以降)
-Part25、section 25.1317
-Part27, section 27.1317
-Part29, section 29.1317

#Advisory material
-AC20-158A
-SAE ARP 5583A

3.証明プロセス

証明手順は、雷撃に対する保護設計の証明プロセスに非常に似たものとなっていて、HIRFに関する具体的な証明のフローは、AC20-158Aに記載されています。証明プロセスを要約すると、プログラムの比較的初期の段階で、雷撃の証明と同様に証明対象システムの特定が必要となってきます。これは、既に実施されている安全性解析の結果を利用して、HIRFの脅威の観点から、その安全性解析を再評価するものです。航空機が継続した安全な飛行と着陸を行う上で悪影響を受ける機能をHIRF脅威の視点で再分類し、ランク付けします。再評価の結果、HIRF環境下に航空機が暴露された時にCatastrophicを導く機能を有している機器システムをレベルAシステムに分類し、以下同様にHazardous、Majorに分類されるものをレベルB及びCとします。このあたりの考え方は、雷撃に対する証明と全く同じです。雷撃を脅威源とするかHIRFを脅威源とするかの違いがあるのみです。因みにminorやNo safety effectに分類される機能しか持たないと再評価された電気電子機器システムには証明要求はありません。この分類の結果、次の証明ステップに移行し、レベルAシステムに分類された機器システムには全規模航空機試験と統合システム試験の組み合わせによる証明が要求されるのが一般的です。一方、レベルB又はCに分類される機器システムには機器単体試験が要求されます。この機器単体試験はRTCA DO160 section 20に従った試験が実施されます。

4.証明で要求されるHIRFの証明強度レベル

レベルAシステムに要求されるHIRFの証明強度は米国HIRF規則のAppendiXに電界強度で規定されています。航空機の内部に侵入する電磁波は機体の外板などで減衰しますが、この減衰の程度は、機体の材質や大きさによって変化します。局所的には、機体内部に侵入した電磁波が共振することにより、HOT SPOTを形成してしまうこともあります。レベルAシステムの場合、統合システム試験が実施されますが、その時に用いる試験レベルは、機体の外板による減衰や電気配線への結合の程度を予測推定した試験レベルが採用されます。これに対し、レベルBやレベルCに分類される機器システムの場合は、同規則のAppebdixにおいて他の選択肢も示されていますが、一般にDO160 section20に規定されるcategory-RRやTTが適用されます。

4.まとめ

HIRFに関連する米国規則やHIRF証明プロセスの概要、要求されるHIRFの証明強度などを記載しました。機会ウィ見てより具体的な内容にも触れて行きたいと思います。又、本記事に引用した雷撃に対する証明や、DO 160に関することについては、別記事を投稿していますので宜しかったらご覧下さい。

免責
記事の内容は、細心の注意を払って記載をしていますが、絶対的なものではありません。本記事の内容により生じるいかなる損害、不利益等についても責任を負うものではありませんので、あくまで参考としてご使用頂ければ幸いです。





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