心にかかる風もなし
いつか、竹生島に行ってみたいなと思う。
出不精の私にしては珍しい願望だけれど、深い意味があるわけではなく、ここ数週間、謡曲「竹生島」のお稽古をしているせいなのだ。
竹生島詣でに来た都人が、不思議な漁翁と若い女性の乗った釣舟に乗せてもらう。
実はこの二人、龍神と弁財天なのだけれど、正体が分かるところの場面まで、まだお稽古が進んでいない。
翁が都人を釣舟に乗せて進むときの、
「今日は殊さら長閑にて 心にかゝる風もなし」
という部分が好きで、何度も謡う。
私の日常はといえば、日々仕事に終われ、心に大雨大風大嵐といったところだけれど、全てを振り切ってたどり着いた何も予定のない日曜日には、心にかかる風も、そよ風になる。
お休みといっても、洗濯やら、たまった掃除やら、いろいろやるべきことはあるけれど、それらをひとまず脇に押しやり、新聞を読みながらコーヒーを飲んでいたらいつの間にかお昼、という時間の流れが好きだ。
毎日が日曜日だったらいいのに。
月曜日からは、厳しい現実が待っているけれど、ひとまず忘れて、謡った後は、歌を作ろう。
洗濯をしていて休みが終わる夜洗濯の精がハンカチの上
(2024.6.15日経歌壇・穂村弘選)
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