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八朔の舟

四国の祖母から、八朔がたくさん届いた。

祖母は昨年亡くなったので、正確には、祖母のいた家に住む母から、なのだけれど。
毎年祖母の名前で送ってもらっていたから、四国からの贈り物は、祖母から、という感じがする(母にも、感謝)。

私は、八朔が好きだ。
最近は、あまり人気がないみたい。
たしかに、分厚い皮をむき、さらに薄皮をむき、ようやく食べたら水分は少なめでちょっと苦いという、現代人には不向きな果物かもしれない。
香りも、最近の柑橘たちに比べると、きわめておとなしい。

でも、クタクタになって帰宅した夜、段ボールいっぱいの八朔たちの控えめな香りと、提灯のような優しい橙色に出会うと、なんだかとっても、ほっとする。

分厚い皮に十文字にナイフを入れ、ばりばりと剥ぐと、四つのかわいい皮の舟ができる。その舟に、薄皮をむいた実を、一つずつ乗せていく。
全部乗せ終わると、今日はじめて、建設的なことをしたような気がする。

果物は夜食べない方がいいと、何かで読んだ。
でも、八朔の苦味は、夜が似合う。
今日も帰って、八朔の舟を作ろう。

アンパンマン列車にふつうのテンションで乗り込む君はもう高学年
(2024.3.30NHK全国短歌大会入選)

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