硯の重み

赤毛のアンシリーズの、スーザンが好き。
「アンの夢の家」から登場するスーザン・ベイカーは、アンの家に住み込みで働く家政婦。料理はうまいしきれい好き、縫い物もお手のものの、かっこいい大人だ。

昔の物語には、素敵な家政婦や乳母がよく登場する。スーザンに限らず、主人家族になじみ、家庭の中心という感じすらある。

でも、実際はどうなんだろう。
高橋順子さんが日経新聞に寄せたエッセイ「漱石の硯」を読んで、ふと考えた。

高橋さんの叔母は、漱石の家の住み込みの家政婦を50年以上務めた。あるとき漱石の長男から、感謝の添え書きとともに、漱石の硯を譲り受けた。
心暖まる美談、という感じだけれど。

叔母に漱石の硯をいただいてどんな気持ちがしたかとたずねたことがある。「重苦しい気持ちだった。持っていろと言われたから、ずっと持っていた」と答えた。

2022.10.16日経新聞 高橋順子「漱石の硯」

その言葉に、現実を突き付けられる。
女学校出のプライドをもちながら、時代の制約から、思うような人生を歩めなかった。
主人一家にはよくしてもらったけれど、「使用人のつらさはぬぐえなかった」。

硯の話を美談だと思うのは、一方的な見方なのだろう。

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