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味噌を溶く

味噌を溶くのが好き、というと、料理好きな人みたいな感じがするけれど、料理は極めて苦手だ。レパートリーも、驚くほど少ない。
でも、味噌汁は、それなりの頻度で作る。
具材を変えれば、バリエーションも豊かだ。

料理もしないのに、なぜ、味噌汁は作るのか。
よくわからないけれど、私はこどものころから、味噌を溶く係だったのだ。
お玉で溶くのがうまくできないから、当時は深めの小さい網に味噌を入れて、汁の中でゆっくり溶いていた。ゴリゴリと網にスプーンが当たる鈍い感触が、ちょっと楽しい。

今はお玉で溶くけれど、使うスプーンは同じだ。柄の長い銀色のスプーン。長く使って、だいぶ黒ずんできた。
昔、父がコーヒーにミルクを入れるのに使っていたスプーン。こどものころから、なぜか私は味噌を溶くのに、いつもそのスプーンを使っていた。
ずいぶん長い付き合いだ。父と暮らしたのは15年足らずだから、スプーンとの暮らしの方が長くなった。

味噌を溶くと、父を思い出す。
ミルクを混ぜるかすかな金属音が、聞こえてくるようだ。

今夜も味噌を溶こうかな。

味噌を溶く君の手つきによみがえるあの夏の日の調理実習
( 2022.11.16NHK短歌佳作・笹公人選)

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