しなの鉄道「軽井沢リゾート号」 並行在来線に復活した優等列車の凄み
新幹線が開業すると、並行する在来線から特急がなくなる。普通列車ばかりと運転となったり、観光列車を走らせるようになったりする。
そんな中で、全線に渡って速達型の優等列車を走らせる路線がある。
しなの鉄道だ。
有料快速「軽井沢リゾート号」とは
「軽井沢リゾート号」は、特急ではなく快速である。
しかし、車内は全車指定席のクロスシート。乗車には指定席料金が必要で、乗車券だけでは乗れない。通過駅もかなり多く、かつての特急あさまと遜色ない速達性を誇る
特急の一歩手前の価格と設備を有した、ライナーと呼びたくなるような存在だ。
”輸送目的の速達列車”が並行在来線を走る凄み
”軽井沢リゾート”の名の通り、主なターゲットは観光客である。
土休日のみの運転で、軽井沢、上田、長野、妙高高原といった観光エリアを結んでいる。
これだけ聞くと、よくある観光列車の1つに思われるかもしれない。並行在来線を走る観光列車というのは非常に多い。しかしながら
「軽井沢リゾート号」は観光列車ではない
利用者のターゲットは観光客であるものの、列車そのものの存在意義は、輸送を目的とした速達列車である。
”乗ることが目的”である観光列車とは大きく異なり、比べるべくは雪月花やろくもんなどではなく、特急踊り子や小田急ロマンスカーはこねなのだ。
ゆったりした速度で車窓を楽しんだり、非日常感あふれる車内やサービスを楽しむことではなく、スピーディーに快適に観光客を運ぶことに価値を見出しているのが「軽井沢リゾート号」なのだ。
軽食付きプランの提供
軽井沢リゾート号では、向かい合わせにした座席にテーブルを設置して、軽食を提供している。
食事に重きをおいた観光列車ではなく、速達形の列車で実施しているというのが非常に興味深い。
特急列車では普通席の他に、付加価値の高いグリーン席を提供している。
「軽井沢リゾート号」で提供している軽食付きプランは、これと同じ発想であると考えられる。専用の座席を用意するのは難しいが、机を設置し、軽食を用意することは容易である。しかも、メインターゲットである観光客のニーズにも合致する。
軽食付きプランは観光列車っぽい取り組みではあるが、むしろノーマルのサービスと高付加価値のサービスを揃えた、特急列車に近い取り組みなのだ。
なぜ「軽井沢リゾート号」の運行が実現したのか
①しなの鉄道は第3セクターであり、沿線地域への貢献が求められるから
地元自治体が運営する第3セクター鉄道会社では、採算性だけでなく、沿線地域へどれだけの利益をもたらすのかが重要な指針となる。税金を投入するほどの価値があるのかが問われるのだ。
「軽井沢リゾート号」は、軽井沢に宿泊する観光客に対して、「次の日はしなの鉄道沿線の観光地へ出かけてみてはいかがですか?」と提案する。
軽井沢の観光客を沿線地域に分散させることで、軽井沢のオーバーツーリズムの抑制と、沿線の地域活性化を図っているのだ。
②一大観光地「軽井沢」の活用
そもそも、軽井沢が国内有数の人気観光地であるからそこ、軽井沢の観光客をターゲットにした列車が成り立つ。
しなの鉄道では、近隣駅でのパークアンドライドや観光列車ろくもんの運転、軽井沢駅の観光地化等、軽井沢を訪れる観光客をターゲットにした事業を展開してきた。そうした流れの中で誕生したのが「軽井沢リゾート号」なのだ。
③普通列車/優等列車の両方で運用できる車両の存在
しなの鉄道ではかつて、急行型車両を使用した通勤ライナーを走らせていた。車両引退により運転を取りやめたが、依然として通勤時間帯の上田-長野間の着席需要があった。
そこで新型車両投入に併せて、ロングシートの普通列車としても、クロスシートの優等列車としても使える、LCカーを導入した。
1つの車両が、通勤通学客向けの着席ライナー、観光客向けの速達列車、普通列車として活躍する。運用の効率性と付加価値による収益性の、両方を実現することができた。
「軽井沢リゾート号」の魅力とはなにか
なぜここまで「軽井沢リゾート号」に心惹かれるのだろうか?
かつて多くの特急が行き交った主要幹線に、特急同等の列車が復活した喜び。長距離の優等列車が地方の第3セクター鉄道を走る。これらももちろんそうなのだが、それ以上に
マニアが考える”こんな列車があったらいいな”を、本当に実現させてしまったような感覚
があるからだと思う。
ここをこんな優等列車が走っていたら需要があるのではないか。列車内でこんなサービスを提供したら需要があるのではないか。私もそんなことを常日頃から考えているが、しなの鉄道に「観光列車」「通勤ライナー」以外の存在ができるとは思ってもいなかった。まさに、想像を超えた存在だ。
しかし、その一方で需要がないとなれば運転はなくなる。
登場時は2往復あったが、現在は1往復である。
末永い運行を願うとともに、その魅力を少しでも伝えられたら幸いでである。