見出し画像

第一話 出会い

「心。俺は今からお前をここに捨てていく。もし…もし、俺を探したくなったら、定住山に行け。そこで出会うもの達がお前を助けてくれるだろう。」

それが最後に聞いた親父の言葉だった。親父の顔は覚えていない。…というか思い出せないに近かった。でも、この言葉だけはなぜか覚えている。まぁそんなものなんだろう。

「やっとついた。ここが、定住山。」

定住山はいたって普通の山だった。あえて特徴を挙げるなら長い階段がある。この長さは頂上近くまであるんじゃないか…。それに、誰かが住んでるのか?やけに階段が綺麗だ。

「そこのボーイ。ここで何をしているの?」

人の声がする?女性?…気のせいか…。とりあえず気づかないふりして登ることにしよう。

「おい!おい!!無視してんじゃねぇ!クソガキが!何勝手に人の家に…」

!!首に激痛が走る。

あれ…死んだ…?

そんなことが頭をよぎる…前に首が折れていた。

あっ男性でしたか…。

それが、彼の最後の言葉…だった。
いや、そうなるはずだった。

「大丈夫?つい、カッてなってボーイという若い芽を刈るところだったわ。さぁ生きているのなら起きて頂戴。」

あれ?さっきの人の声がする。俺死んだんじゃ…。

「あれ?間に合わなかったかしら?そっそれじゃあ人工呼吸…を名目としたキッスしちゃおうか・し・ら。ンッ!チューゥ」

「あっ…あの?ぼっ僕、いっ生きてまふよ。でっでも、僕は死んだんじゃ…?もっもしかして…おっおじさんが…」

ビシュ!

言葉を最後まで言い終わる前の彼の顔の前にはたぶんさっき自分の首を刈った拳があった。

「おっオネエさん…いえ、お姉さんがぼくを助けてくれて…」

ニッコリ。この笑顔をたぶん彼は二度と忘れないだろう。一言一句、間違えずに答えなければこの表情は崩れ自分の首が再び…。心のその考えが手に取って分かるかのように彼…いや彼女はその表情を微妙に変えながら答える。

「そうよ。私があなたを助けたの。人の家に無断で入ろうとしたのを止めようとしてつい、うっかり…ね。でも、あまりにもかわいそうだったから助けたわけよ。でも、今回限りよ。このサービスは。で?あなたは何しにここへ?」

「話す前にとりあえず謝っておきます。勝手あなたの山に入って、その上命まで救ってもらってすいません。…よし!これで、心置きなく話せる。…ここに来た目的はいたって簡単です。僕を捨てた父を探すこと。そして、唯一覚えていた言葉ではここに行けば何かに出会えるということだったので勝手に入ってしまいました。…えーと名前は…」
心は彼女に自分の旅の目的を話した。
彼女はその話を聞いて、思い出したかのように自分のことをドルーワと名乗った。

「えーとドルーワさんは何か知りませんか?僕の父のこと…」

「うーん。名前とか、外見とか何か他に覚えてることはないの?」 

「すいません。何も覚えてないんですよ。まるで、本当はいなかったかのように。」

「そうなのね…。じゃあわからないわね。ごめんなさい。あっそうだ。お詫びにいいもの見せてあげる。もしかしたらあなたのお父様はあれのことを言ってるかもしれないし…」

そう言って彼女は山を下りていた。どうやら頂上まで運んでくれていたようだ。
それからしばらくして、近くの森にドルーワは心を連れてきた。

「とりあえず、あれ倒してみて。」

そういう彼女の視線の先には見たこともない鶏?みたいな生物がいた。

「あれって何ですか?僕の知っている鶏とは形が違うんですけど。」

「あぁそうかもしれないわね。あなたの知っている鶏は獣人だものね。あの生物はね、無知の獣っていって、あなたの知っている鶏とはまた違った進化…いや、退化の方がしっくりくるかしら。まぁとりあえずこの森にはこんな感じの生物がいるのよ。こいつらが一匹でも倒せなかったら私がボーイを連れていきたい場所にはつけないから覚悟しておくことね。」

無茶言うよ。俺はさっきまで死にかけてたのに…。

「じゃ…じゃあお手本見せてくれませんか?だって、ほら僕、さっきまで死にかけていた訳ですし…。」

「それもそうね。確かに、経験者が初心者に教えてあげるって言うことはとても大事なことね。じゃあ見ておきなさい。まばたき厳禁よぉ~。」

次の瞬間…。

シュンッ!

そよ風のようなものが目の前の鶏だったものの血のにおいを運んでくる…。まばたきはしていない…。でも、今のは目で盗めるほど簡単な対処法ではなかった。…確かに言えることはただ一つ。

かっこよかったなぁ~。

「あの、ドルーワさん。今のはどんな技何ですか?すごくかっこよかったんですけど…。目では追えませんでしたけどね。」

「…そうねぇ。強いて言うならば技名はシュンッ!かしら?」

「え?もしかして、技名無し何ですか?それともただ、手を早く動かしただけだったとか。」

「一応、しっかりした技ではあるわ。でも私の…いえ私の師匠の考えでね。
技名を叫ぶ行為とはすなわち!煽りである!真剣勝負で叫ぶ暇があるのならさっさと倒してしまえ!っていうのがあるのよ。要は、煽りなのよ。煽り。技名を叫ぶっていうのは。強者の特権だ!ってことね。」

「なっなるほど…。」

「まぁ、いつもはWOLを使って一瞬で終わらせてるんだけどね。」

「WOLってなんですか?」

「あら、あなた知らないの?WOLを?」

「はい。初耳です。技名ですか?」

「WOLっていうのはね。Way Of Lifeの略なのよ。生き様って意味らしいわ。簡単に言えば異能力のことよ。あなたを助けたのもこの異能力のおかげなのよ。いいボーイ?この世界にはね。そのWOLっていう能力を持つ人達がいるの。皆、生き様って名前の通り色んな生き方…ここでは能力のことかしらね…それを持っているの。もちろん。あなたに発現する可能性があるわ。でも、今すぐにッ!なんて可能性は低いと思うからとりあえずシュンッぐらいは覚えておけばこの森は生き残れるわ。さっ早く始めましょうか!早く親父さん…いえ、お父様を探したいでしょ。」

「はい!お願いしますッ!オネエ…いえ、お姉さん。」

「あなた…それ、わざと言ってるんじゃないでしょうね…。まぁいいわ。ビシバシ教えてあ・げ・る。」

まさか、この数時間でこの人のノリについていけるなんて自分の適応力に驚く…。というより、ドルーワさんの容姿がオネエというより、女性がオネエ口調と格好をしていると錯覚するくらい綺麗と感じる瞬間があるのが原因かもしれない。もしかして、昔から知っていたりして…なーんて。

ドドドドドドドドド!!

「ん?」

「あら、やだぁ~。群れが来ちゃったわぁ~。どうしようかしら?
…よろしく!ボーイ。」

「え?」

「ボーイ!この中からまずは生き残りなさい!そしたら、早く覚えられるわよ~~~~。」

「ぇ…ちょちょちょちょちょっと待ってください!!!」

ドドドドドドドドド!!

…今日が~俺の~命~日~♪へいっ!今日が~俺の~命~日~♪へいっ!
今の自分にはそんな歌を歌う時間しかなかった。つまり、諦めだ。

「まだ命日じゃないぜ。もっと自分を信じてみろ!」

その後のことはあまり覚えてない。懐かしさを感じる声の後、色んな光景が見えた。走馬灯?いや、知らない光景ばかりだ。これまで見てきた景色じゃなくてこれからの…

「まさか、無傷で避け切るとはね…。今度は私が危なくなってるじゃない。はぁ~。あまり使いたくなかったんだけど…。WOL発動!」

ギギギッ…カシャン…。

今日は色んな死を見る…。その中でも、一二を争う死だった。さっきまで生き生きと走っていた群れが一瞬で死体の山になった。気のせいだろうか。ドルーワさんの周りの森が少しさっきより青々としている気がする。

「ドルーワさんのWOLってどんな能力なんですか?」

「そうねぇ~。名前をいうなら…我、命の天秤最重量。…一つ言っておくけど、このネーミングセンスは私のじゃないから…。あ…あれよ…師匠のセンスよ!」

本当に師匠のセンスか?…まぁいいか。

「ドルーワさんの能力なんとなく分かった気がします。ドルーワさんが自由に使える命の天秤。生かすも殺すも持ち主の自由って感じですか?」

「よくわかったわね。そうよ。私のWOLは大体そんな能力よ。カンニングでもした?…ってどうやってするのよっ!…少しは笑いなさい。ボーイ。」

「ハハッ。」

「あら、愛想のないこと。…ププッ。あなたなかなか面白い子じゃない!
もしよかったら私があなたの師匠になってやってもいいわよ。あなたをこの世界で二番目に強いやつにしてあげるわ!」

「遠慮しておきます。とりあえず、あの鶏を倒せないと目的地につきませんし、ぼくの旅の目的が一歩も進まなくなってしまいます。さぁ!続きを始めましょうか。」

「あら、残念。でも、そうね。続きを始めましょうか…と言いたいところだけど無知の獣は原則としてその日食べれる分だけしか駆除しちゃダメなのよね。だから、今日はこれでおしまいにしましょうか。今日の所は食後の運動がわりに私が相手するで許してちょうだい。ね!」

「それはそれできつい気がしますけど…。まぁ仕方がないですね。そういえば、ドルーワさんって料理上手いんですか?」

「まぁ失礼しちゃうわ!私を丸焼きしかできない山賊かなんかだとでも思っているのかしら?これでも料理の腕は確かよ。見てなさい!ボーイのほっぺたを落として、それでデザートでも作ってやるわ!」

結果から言おう。その日の食事にはデザートが出てきた。もちろん俺の落ちたほっぺたで…はさすがに冗談だがそれくらい柔らかいプリンが出てきた。あの人の料理の腕は確かにプロ級だ。…たぶん。

「そういえば、聞き忘れていたけどボーイの名前聞いてなかったわ。後、良かったらだけど捨てられた後どこで過ごしたのかとか聞いてみたいわ。いや、聞かせなさい!今日のお礼としてそのくらい話してみなさい!身の上自慢よ!身の不幸を私に自慢してみなさい!さぁ!ほら!」

この人は酔っているとでもいうのだろうか?酒臭さは感じないけど…。まぁいいか。俺のくだらん話で満足してくれるというのならば…今日の恩返しができるというのなら…話してやろうじゃないか。

「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。僕は魚水 心といいます。父に捨てられた後は人捨て山というところで今まで過ごしていました。人捨て山ではある程度の年になったら自分の身内について聞きたかったら教えてくれるという制度があるのでそれを使って父の生存だけは確認できました。で、現在に至るというところでしょうか。どうですか?お楽しみいただけたでしょうか。僕の身の上自慢。」

「へえー。人捨て山ねぇ。あの世界に三つ存在する家族の中でいらない人たちを本人の許可なく捨てることの出来るあの山ねぇ。で、結局どうなの?その人捨て山の治安というか、山の雰囲気というかそこの人たちはどんな生活をしてるの?」

「普通ですよ。というか、外の世界より平和だと思いますよ。各国からの多額の資金援助もありますし、衣食住、医療、教育どれもが外の世界より充実していますし、ゆりかごから墓場まで何不自由することなくあの場所で生きていけると思いますよ。だから、人捨て山から来たっていう人を外の世界であまり聞かないでしょ。まぁ今更自分を捨てた人たちの情報を聞きたいなんて思う人なんていないっていうのも理由の一つだろうとは思いますけど、ほとんどはそういうのが理由だとは思いますよ。」

「確かに、あまり聞かないわね。私が山に住んでるからそういった情報に疎いだけだと思っていたけどそういった理由があったのね。ということはあなたはかなりの変わり者ってことになるけど。まぁそこで悠々自適に暮らすより大事な目的があるっていうのはたしかにわかるけど。なぜそこまでして父を探すの?」

「そうですね…。特に大した理由はないですよ。ただ気になっただけですよ。僕を捨てた理由。なぜ、まずここに行けばいいといったのか。そして、なぜたまに父と会うという経験したことのない思い出が夢の中に出てくるのか。父と話したい話題が尽きないんですよ。そりゃああんなところでのんびり過ごしている場合じゃないですよ。」

「確かにそうね。こんなところでもたもたしてる場合じゃないわ。明日こそ一匹くらいは一人で倒せるようにならないとね。さっ!さっさと寝ることにしましょう。腹が減っては戦が出来ないけど、寝不足でも戦は出来ないものよ。」

「わかりました。今日はさっさと寝ましょう。明日はビシバシお願いします。」

「了解よ。明日は私のことを女王様と呼んでもいいのよ…いや呼ばせてやるわ!」

「それは、遠慮させてもらいます。」

翌日
朝っていうのは清々しさと憂鬱さが一気にくる。その日のテンションっていうのはこの二つの勝敗によって決まる…。って師匠が言っていたような。
今日の私の勝敗は第三勢力!人に教えるという責任感に押し潰されそうだ。
この私がね…。くだらない!こんなの私らしくないわ!

「さぁ!起きなさい!ボーイ…いえ心!昨日の宣言通りこのドルーワ女王様が手取り足取り教えてあげるわよ!」

「うひゃあ!朝だ!…あっドルーワさんおはようございます。今日はよろしくお願いします!…でも、朝ごはんないですけど…。」

「あら、あなた意外に注文が多い子ね。そんなの自分で作りなさい。それか自分で取りにいきなさい。」

「なるほど…。そういうことですか。理解しました。」

「と、言いたいところだけど昨日取りすぎたからね。何も殺さなくてもあの技は完成なのよ。ただ、私が使うと強すぎてね。あの結果になるって訳なのよ。朝ごはんはあそこよ。腹が減っては戦は出来ないからね。さっさと食べてさっさと始めるわよ。」

「はい!」
 
昨日も見たはずの森は昨日よりも広く、元気そうに見えた。これもドルーワのWOLのおかげか?…さぁ来たぞ。今日の対戦相手だ。今日こそ勝つ!

「ってあれ?」

「あらら、でかくなっちゃたわね。私の能力で元気になった森を食べて…」

コッケコッコー!!

「まぁいいんじゃない。簡単には死ななそうじゃない?」

「確かに…そうですね。2日連続で三途の川を渡るかも…。ってね。」

「今度は助けないわよ。」

「はい!」

それから…戦いは白熱した。

「ほら!心!そんなじゃ頭が吹き飛ぶわよ!ほら!出してみなさいほら!
シュンってほらシュンッて」

「むっ無理ですって!元気もりもりで昨日よりもでかい奴ですよ!避けるだけで精一杯ですって!」

「何言ってんの!これくらいで音をあげてたら父親探すなんて何年たっても出来なくなるわよ!」

確かに…。本来の目的を忘れていた。ここで…こんなところで足踏みしていたらダメだ!手を動かせ!足を動かせ!体を動かせ!脳をフル回転させろ!殺される前に相手を戦意喪失にさせろ!

「うぉおおおお!」

シュカ…

「あら、最初にしてはいい音じゃない。」

「はぁ、はぁ、はぁどうです!ダメージは…」

コッケコッコー!!

「まだ、ないみたいね。」

「まだまだー!次の攻撃を…!」

「もっと、自分の手を引きちぎるくらい勢いをだせ!」

「え?はい!(もっと手を引きちぎるくらい捨て身で…!)」

ドゴッ…

「痛てぇぇぇ!!…どうだ!」

コッ…コケェェェコケェェェコケェェェ!!
コッケコッコー!!

「少しは効いてるみたいね。」

「次だ!(工夫を加えなければ…工夫を…)」

選べ…今のお前には二つの結果がある。
さらに勢いを強く捨て身で打ち込むか、腕なんかやめて蹴ってしまうかのどちらかだ!

どこからか声がする…二択…。殴るか蹴るか。

「…だったら!」

(あの子、片腕を犠牲にするつもりかしら…。)

「かかと落としじゃああああ!!」

コッ…コケェェ…。

第三の選択…。さすが、過去と未来のない者になるものよ…。

「あら、あの技を教えるつもりがまったく違う結果になったわね。まぁいいわ。この森を死なずに抜ける力を手に入れたことには代わりはない!心!合格よ!私があなたを連れていきたかった場所に心置きなく連れて行ける。さぁ行くわよ!」

「は…はい…。い…行きましょう…。」

バタリ…。

「あらやだ。こんなところでバテるとは僕を餌にしてくださいと言ってるのと同義よ。まぁいいわ。サービスしてあげる。今日のご褒美よ。私も甘い人になったわね…。まぁいいか。よいしょっと。」

「あ…ありがとうございます。」

「まぁ少し、寝てなさい。連れていってあげる。帰りは自分で歩けるくらいには回復しておきなさい!」

「はい…。女…王…様…。あっ…間違え…た。オネエさん。」

「嫌味なやつね。ここに置いていこうかしら。…なーんて。」

しばらく俺はドルーワさんの大きな背中に揺られていた。なんとなく、母親の暖かさを感じる。母親の暖かさなんて知らないが…。たぶんこんな感じなのだろう。にしても、父親の偉大さを感じないのはドルーワさんがやはり、心が女性だからなのだろうか…。本人に言ったら喜ぶだろうか…。まぁいい。ゆっくり休もう。

「ほら、これが私が見せたかったものよ。」

その言葉で目が覚めた。うん…。十分に回復している。ドルーワさんのWOLで一瞬で回復することだって出来ただろうにそうしてくれなかったのは寝ても回復が十分出来ると知っていたのだろう。

「えっとどこですか?」

「ほらあそこよ。あそこ!」

そう言った彼女の指差す方向には一つの湧き水があった。
きれいな池だ。ドルーワさんが見せたくなるのも理解できる。
でも、なんだ?この水を飲んだり、浸かったりしたら強くでもなれるというのだろうか?それに…親父が言っていた言葉。最初はドルーワさんのことだと思っていた。だが…彼女自身は知らなそうだったし…。仮にドルーワさんのことだとしてもあの言葉を信じるのなら…あるもの達って言っていた。ということは…

「あら、心…もしかして、この水を飲んだり、浸かったりしようと思ってない?違う、違う。よく見て!ほら、あの池の真ん中あたり…」

彼女に言われた通りよく見ると何か湧き水に浮いている。いや、刺さっているというのが正しいのか?

「あれってなんですか?」

「あれがこの山、名物…定住山のエクスカリバーよ。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?