彼方

遠い彼方へ行きたい。自分のことを誰も知らないどこかへ。

そんなことを思うこともある。

知らず知らずのうちにしがらみが多くなり、まとわりつき、沈み込まれていく。
沼に飲まれ、泥が視界を多い、口に入り、地上に伸ばす手は上がらなくなる。

そうなる前に場所を変えたくなる。

物理的に移動する。
飛んで、揺られ、走り、歩く。

ぬかるんだ地から、しっかりした根に支えられた地へ。

彼方の地には知らない世界が広がる。惑いながらも興奮し、鮮やかな世界に足を踏み入れる。

しかし気づくときが来る。その地もぬかるんでいたことに。徐々に身体が飲まれていく。ぬかるみ方が違うだけだ。

戻るか、進むか、決めなければならない。どこのぬかるみでもがくのか。どこまで逃げるのか。いつまで逃げるのか。

彼方の地も結局此方と変わらない。

置いてきたものと向き合わなければならない。


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