snow globe

自作曲を元に散文詩を書きました。世界観の把握等にどうぞ。未視聴の方は曲の方も聞いてってください。

気付けば、街の中を歩いていた。
クリスマスイブの夜。街の喧騒はいつにも増して楽しげで、ケーキ屋や玩具屋、レストランにも人の列ができている。ショーウィンドウから漏れ出る光が、街灯と共に歩道を照らしている。その光が、僕にはどことなく空虚なように見えた。
先程、「気付けば、街の中を歩いていた」と書いたが、本当に僕は当てもなく歩いていた。それはまた、この日にはよくあることだった。どこへいくともなく、ただ夜の街を歩くのだ。何かから逃げるように、あるいは、君を探しているように。それはまた、僕にとっては儀式と化しているのかも知れない。君との繋がりを感じるための儀式。そんなことを考えたって、何が変わるわけでもないが。
声を聞きたいな、と呟いた。口をついたように、そんな言葉が出てきた。そう言えば君は歌が好きで、しょっちゅういろんな歌を歌っていた。力強くてはっきりとした歌声が、耳に心地よかったのを覚えている。またあの声が聞きたい。聞けるだろうか。どこに君の声が残っているだろう。結局答えは見つからなかった。
僕はまた、ただただ街を歩くことしかできないと悟って、ため息を一つついて、下を向いて足を進めた。ポケットに手を突っ込んで、人目を避けるように。なぜか他人の目が怖かった。街ゆく人がみんな家族連れかカップルで、独り者であることが惨めに思えたのも理由だろう。あるいは、君にもし本当に会えてしまえたらどうしようという、期待と恐怖の混ざったような感情があったのかも知れない。何せ、僕は君に合わせる顔がない。それでもなお声が聞きたいと思ってしまうのだ。
手は霜焼けで真っ赤になっていたにもかかわらず、体の方は暑かった。先ほどから早足になっているせいだろうか。頬を熱らせて歩く僕の姿は、周りには多少滑稽に見えるかも知れないなと思った。
少し歩幅を緩め、顔を上げてみる。手を繋いで歩く男女、奥の並木道にはキスをしているカップルまで見える。なぜか、人混みのどこかに天使が紛れ込んでいるような、そんな気がした。こんな夜なのだ、ありえない話ではない。ニュースでも言っていたが、クリスマスイブの夜からクリスマスにかけては超常的な奇跡が起こりやすくなる統計があるらしい。聖的な力が強くなるので、天使も発生しやすくなるとの事だった。
洋服店からふと覚えのある歌が聞こえてきた。君がよく歌っていた歌だ。強気になれない恋の憂鬱について綴ったその歌は、僕の心にもメランコリーを生じさせた。結局渡すことのできなかった、大きなリボンをつけた手作りの耳当てのことを思い出した。
君の姿が見えた。振り返ると、実際にはそれはコンビニの窓に映った僕の虚像だった。ありえない事だとわかっていても、つい反応してしまうものだ。僕たちはよく「似ている」と言われていたし、実際、僕だってそう思っていた。そして、実在と鏡像のようにいつまでも一緒だと思っていた。
鐘の音が響いている。その音のなかに、君の声が聞こえる。空からは雪が降ってきている。星は見えなかった。ただ空一面を覆う雲に街の光が反射して、空全体が淡く光っていた。雪が一粒、また一粒、服の上に落ちて溶けた。僕には、それが涙のようにも見えた。

あの日、君は僕を助けようとして、そして事故にあった。
僕のせいで、君は死んだ。
鼻歌を歌ってみる。君がよく歌っていた歌を。
僕の声は、君の声によく似ていた。
それはまるで呪いだった。

ああ、君のせいだ。


※クリスマス小説以上に鏡音の話です

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