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時折最高:057 Kate Bush - Suspended in Gaffa (1982)


Kate Bushをよく知らない人も増えたらしい・・・

2週間かそこら前でしたか、NHK-FMの音楽番組で、ケイト・ブッシュを「マイナーな人」と解説している出演者がいてのけぞりました。音楽番組の司会でこの不見識が許されるのだろうか?、と呆れました。名前は覚えてないです。男性です。男性2人でやってる番組でした。若すぎず年寄りすぎずくらいの感じだったので、30代から40代くらいの人っぽかったですが・・・。

Kate Bushは1978年1月にレコードデビューし、シングル「嵐が丘」(Wuthering Heights)はチャートで1位を獲得しました。またイギリスのアルバムチャートで首位を獲得した初の女性ソロアーティストでもあります。

1979年の4月と5月に、最初で最後のUK&ヨーロッパツアーを行います。そうです。たまのTV出演以外のライブ公演は1度しか行わなかったのです。ハマースミス・オデオンでの映像がオフィシャル発売されましたが、ちょっと恐ろしいくらいのこだわりです。演出や振り付けも自身で担当しました。また踊りながら歌うためのヘッドセットマイクが開発されました。パントマイムとダンスを交えて歌いながら踊り、千変万化の表情、瞬きのタイミングまで振り付けられているという細部へのこだわり。数曲毎に衣装も変えるという凄まじさ。こんな大変なツアーは何度も出来ませんね(笑)。

次に実現したコンサートは2014年の22回公演でした。ほとんどがスタジオアルバムを作って出すことだけで世界中にファンを生み出したんですね。

1993年の「レッド・シューズ」まで7枚のアルバムを発表。1994年から2005年の「エアリアル」発表までは育児に専念して活動休止していました。途中12年休んでから出したアルバムはUKチャートで2位。日本盤もちゃんと出ましたよ。

その後現在に至るまでには、過去作品のリマスターとライブなどの発表がゆったりとしたペースで続けられています。

全盛期はやはり1978年から活動休止前の1993年でしょう。ただ後年になっていろいろ事情が分かってきてみれば、最初の2枚はまだレコード会社も彼女をどう売るか、模索していたらしいです。初期のプロモ写真はレオタードとかが多いですし(笑)。

ケイトはもっと音楽面で主導力を望み、その希望は4枚目のアルバム「ドリーミング」でのセルフプロデュースで叶えられます。

振り切れたアルバム「Dreaming」

実はケイトのアルバムで一番売り上げが低いらしいです。
現在では評価は高まる一方のようですが、発売から随分経っても、ケイトのアルバムではもっとも実験的で、偏執的で、狂気じみているのは間違いないでしょう。要はこのアルバムの凄まじさを「スゴイ」と感じるか「狂ってる」と感じるかの問題、という感じです。

今回選んだ「Suspended in Gaffa」はアルバム中でも表面的には親しみやすい曲です。プロモーションビデオがまたいいんですよね。途中場面転換での編集はありますが、大部分はカメラの長回しで、彼女の踊りとパントマイムを堪能できます。パフォーマンスに自信がなくちゃ作れないタイプの映像ですよね。

歌詞はちょっと難解だったので、英語圏の解説に頼ってみます。

The song lyrics are about seeing something you really want (God in this case), then not being able to see or experience it ever again. They’re being told that unless you work for it, you’ll never see it again, and even then, you might not be worthy of it. “We can’t have it all” refers to wanting the reward without working for it.

“Gaffa” in the title and the chorus refers to gaffer’s tape, the strong cotton-cloth black tape used by technicians in film and production. “Suspended in Gaffa” therefore refers to being trapped in a metaphorical web.

この曲の歌詞は、本当に欲しいもの(この場合、神)を見た後、二度と見ることも経験することもできない、というものです。そのために働かない限り、二度と見ることはできないし、たとえそうであっても、自分はそれに値する人間ではないかもしれないと言われているのです。"We can't have it all "は、そのために働かずに報酬を求めることを指しています。

タイトルとサビの "Gaffa "は、映画や制作の技術者が使う丈夫な綿布の黒いテープ、gaffer's tapeを指しています。したがって、"Suspended in Gaffa "は、比喩的な網の中に閉じ込められることを意味します。
(DeepLによる日本語訳)

https://genius.com/Kate-bush-suspended-in-gaffa-lyrics

以下はケイト自身のコメントです。

“Suspended in Gaffa” is reasonably autobiographical, which most of my songs aren’t. It’s about seeing something that you want–on any level–and not being able to get that thing unless you work hard and in the right way towards it. When I do that I become aware of so many obstacles, and then I want the thing without the work. And then when you achieve it you enter…a different level–everything will slightly change. It’s like going into a time warp which otherwise wouldn’t have existed.
– Kate Bush via NME

https://genius.com/Kate-bush-suspended-in-gaffa-lyrics

“Suspended In Gaffa” is I suppose similar in some ways to “Sat In Your Lap” – the idea of someone seeking something, wanting something. I was brought up as a Roman Catholic and had the imagery of purgatory and of the idea that when you were taken there that you would be given a glimpse of God and then you wouldn’t see him again until you were let into heaven. And we were told that in Hell it was even worse because you got to see God but then you knew that you would never see him again. And it’s sorta using that as the parallel. And the idea of seeing something incredibly beautiful, having a religious experience as such, but not being able to get back there. And it was playing musically with the idea of the verses being sorta real time and someone happily jumping through life [makes happy motion with head] and then you hit the chorus and it like everything sorta goes into slow mo and they’re reaching [makes slow reaching motion with arm] for that thing that they want and they can’t get there.
– Kate Bush via MTV

https://genius.com/Kate-bush-suspended-in-gaffa-lyrics


ボーカルだけでマルチトラックの大半を使ったという話も伝わっていますが、メインボーカル、コーラスなど、全ての声はケイト自身によるもの。そしてその声が実に多彩なのに驚きます。囁きから叫びまで、実に多様な表情を組み合わせてきます。

ケイト・ブッシュという歌手も、「ドリーミング」というアルバムも知らなかった、という方がいらしたら、試みにアルバムタイトル曲をどうぞ。

オーストラリアのアボリジニの苦境をテーマにした曲です。
出だしの歌詞、

“Bang!” goes another kanga on the bonnet of the van

の韻の踏み方が心地よいです。不気味な場面ですけど(笑)。
道を走っているとまたカンガルーを撥ねちゃうのね(笑)。

この曲もシングルカットされてたのです(笑)。
アルバム発売後第一弾シングルですよ(笑)。
信じられますか?(笑)

おまけに、アルバム発売前に先行シングルとしてリリースされた「Sat In Your Lap」も見てみませんか?

曲毎に全く異なる音楽性、テーマ、サウンドなのが感じていただけると思います。本当に濃密なアルバムなんですよ。


Kate Bushに関する私の感想

デビュー直後からのファンなので、ついつい初期に思い入れが強くなります。

確かに1st「The Kick Inside」2nd「Lionheart」の初期2枚は個性的ですし聞きやすい。でもその後の彼女の変遷を見れば、必ずしもアーティストの本意ではない部分も多かったのでしょう。歌詞をよく読めば、10代の女の子が「お腹の中で蹴ってる」歌を歌ってる時点でびっくりなんですけどね(笑)。

3枚目「Never For Ever」(邦題:魔物語)は大分変化が見られます。歌詞のテーマもちょっと大人っぽくなっているし。

でも4枚目「Dreaming」でこだわり全開のケイトを聞くと、3枚目はまだ普通のポピュラーからそれほど逸脱していなかったんだなあ、と再認識出来ます。

5枚目「Hounds Of Love」(邦題:愛のかたち)は最初聴いたときは「ちょっとおとなしくなったかなあ?」という印象でしたが・・・。ケルト音楽を取り入れたB面とかは当時すぐには分からなかったです。

6枚目の「The Sensual World」こそが「丸くなったなあ」という印象のアルバムなのですが、ケイト自身によると、なんだかんだで以前の自分はまだまだ男性的な攻撃性とかに捕らわれていた、ということらしいです。

7枚目の「The Red Shoes」は躍動感溢れる曲が多い感じ。
でも「輪ゴム少女」(Rubberband Girl)で始まるアルバムは最初訳が分からなかったですよ(笑)。プロモビデオ集が「The Line, The Cross & The Curve」というミニ映画として作られたのがまた当時びっくり。日本盤も出てました。

活動再開でもの凄く期待した「Aerial」は実はあんまりピンと来てません。6枚目、7枚目を納得いく形に再編集・再録音した「Director's Cut」と「50 Words for Snow」もやはりピンと来なかったです。つまり、活動再開後のケイトは以前とは異なる領域の音を追求している、ということですね。過去の延長線上では鑑賞・評価が出来ません。

2016年の「Before The Dawn」は・・・
ちょっと聴いて途中で止めてしまったのでした。
映像は特に・・・。
少なくとも、第一印象は、過去の曲を演奏している現在のケイトを見たくはないなあ・・・、というのが正直なところでした。

まあデボラ・ハリーも・・・一時期危険な香りがするくらい太ってたし・・・。

まあ昔は昔、今は今、と。

結局一番尖っていたと感じる、アルバムで言うなら3枚目から5枚目がなんだかんだ言っても一番好きです。そして「どれがスゴイ???」と聞かれたならば、迷うことなく「4枚目!!!」と私は答えます(笑)。

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