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『ヴォルムスの薔薇園』を読もう!

『ローゼンガーテン・サーガ』ストーリーの原典のうち1つは『ヴォルムスの薔薇園』です。

不勉強ながら僕は『ロゼサガ』を読むまで存在自体を知らなかったのですが、Wikipediaに記事があったりします。

乱暴に要約してしまうと、
「ディートリヒ王率いるベルン国12勇士が、ヴォルムスへ出向いてブルグント国12勇士と決闘して、全員大勝利しました!」…というお話です。

『ロゼサガ』はこの話を元に超スケールアップして、
招待範囲を全世界に、参加人数も大幅に増やしているんですね。

電子書籍『ディートリヒ・フォン・ベルン』では下巻の最初に「バラの園」というタイトルで所収されています。

……漫画に関係ありそうな箇所は以上で語り終えてはいるんですが、

それだけでは味気ないので、以下にもう少し細かい内容を、僕のツッコミも交えて紹介しようと思います。

バラの園

物語の舞台はブルグント王国の都・ヴォルムス
現在のドイツ・ヴォルムスです。そのまま現存しているんですね。


ある日、クリームヒルト王女は 婚約者ジークフリート と 名高い勇士ディートリヒ・フォン・ベルン を戦わせたらどちらが強いのか、確かめてみたいと思いました。

『ロゼサガ』と同じく主催者はクリームヒルト王女。「薔薇園」の所有者でもあります。

…唐突に何を言ってるんだ、と思いますが、実際に ふとした思いつき って書いてあるから仕方ないんですよ。

ブラバント公爵 という人物が王女の命を受け、ヴォルムスからハイデルベルク→アウクスブルク→ガルダ→ベルンへと移動して行きます。

ディートリヒの治めるベルンとは、現在のイタリア・ヴェローナです。

…余談ですが、ヴォルムス 〜 ベルン 間は直線距離でおよそ800km。
日本で例えたら東京駅から広島県尾道市くらい離れています。徒歩なら片道で1ヶ月は掛かりますでしょうか?

さて、はるばるやってきたブラバンド公爵から武闘会と聞いて、まず老ヒルデブラントがヤル気を見せます。

その場にいた若武者ウォルフハルトやウィテヒ(ヴィテゲ)は文句を言い、ディートリヒ王(ディエトリーヒ)も当初は面倒がって難色を示しますが、結局は師匠の熱意に押され、渋々了承しました。

ベルン国12勇士

ベルン側で選出した勇士は以下の12名。

ディートリヒ王

ご存知 ドM変態王子 ディエトリーヒ です。
原典では最初から「ディートリヒ王」なので『ロゼサガ』の「王子」は脚色です。
おそらく ジークフリート(ネーデルラント王子)と対等にしたい、という意図があると思います。

ヒルデブラント

原典でもディートリヒ王の師匠です。
師伝(マイスター)という役職で、幼い王侯に礼儀作法や武術を教えるのが仕事です。
よく「老ヒルデブラント」と表記されます。

・ウォルフハルト(ヒルデブラントの甥、20歳くらいの若武者)
・アルプハルト
・ジークシュタープ(ヒルデブラントの甥、ウォルフハルトの弟)
・エックハルト
ハイメ

ロリコン(ではない)のハイメです。原典では結構ふらふらと立場を変えたりします。
魔剣ナーゲルリング を持っています。

ウィテヒ

冷徹剣士のヴィテゲです。
原典ではディートリヒに無茶な要求をする場面が多い印象です。

・ロイセン王ハルトゥング
・ヘルムシュロート
・修道士イルザン(ヒルデブラントの弟、想像を絶する暴れん坊)
・シュタイエマルクのディートライプ

選出したはいいものの、その場にディートライプはいませんでした。
参戦の了承を得るため、若手のジークシュタープが彼の地元シュタイエマルク(現オーストリア・シュタイアーマルク)へ向かいます。

…本人がいないのに勝手にメンバーに入れるなとも思いますが、まあいいでしょう。

しかし彼は地元におらず、もしかしたらと思いべヘラーレンのリューディゲル辺境伯(リュエデゲール)を訪ねますが、またも不在。
ですが、辺境伯はジークシュタープを一晩泊めてくれました。

リューちゃん ことリュエデゲール卿。
戦いは得意でないものの、穏やかな性格の好人物です。

領地の「ベヘラーレン」とは、現オーストリアのペヒラルンという町だそうです。

その後、ウィーンへ移動すると、大聖堂の前で偶然ディートライプを見つけました。
武闘会の話をすると、ディートライプは乗り気で参加を表明します。

一方、ヒルデブラントは弟の修道士イルザンを訪ねます。
年齢の割に血の気が多いイルザンは、ヒルデブラントの誘いを聞いて一行に加わります。
もう20年も剣を持っていないとか言っていますが、もうヤル気まんまんです。

ブルグント国12勇士

・ギビヒ王(グンテルら兄弟の父)
・グンテル王子(のちのグンテル王)

『ニーベルンゲンの歌』では王位にいますが、
ここではまだ王子です。時系列が前なんでしょうか?

・ゲルノート王子

『ロゼサガ』では司会進行役をやっていますね。
そんなに強いイメージはありませんが、勇士として出場します。

・トロニエのハーゲン

『ニーベルンゲンの歌』『ロゼサガ』では大活躍しますが、
ここではいまひとつ目立ちません。

・楽人フォルケル(本業は音楽家。戦っても強い!)

・巨人プゾルト
・巨人シュツルータン(プゾルト、オルトウィンの おじ)
・巨人オルトウィン(プゾルトの弟)
・二刀流の巨人アスプリアン

…以上の4名は「巨人」です。
何故かはわかりませんが、英雄叙事詩には突然「巨人」というものが登場します。基本的に高い戦闘力を持っています。
普通に喋るし、友好的な個体もいるようですが、どういう訳か人間のように国を治めたりはできないようです。妖怪的な何か、なんでしょうかね??

・ワジヘンシュタインのワルテル
・シュツートフォックス
・ニーデルラントのジークフリート

ご存じゲルマンの大英雄。クリームヒルト王女の婚約者(のちに夫)。
魔剣バルムンクと、邪竜ファフニールの血を受けて得た無敵の皮膚を持ちます。


…ブルグント王家には末弟のギーゼルヘアがいるはずですが、なんかこのお話には出てきません。この当時はまだ子供だったりするのかな?

さて武闘会が始まります。
戦いは英雄叙事詩の華!……と、言いたいところですが、なんか戦闘描写はあっさりしています。試合によっては特筆するようなことが何も書いていないこともザラにあります。

・第一試合
若武者ウォルフハルト vs 巨人プゾルト
初撃では巨人に力負けするも、奮起したウォルフハルトが攻勢に転じ、勝利。

・第二試合
ジークシュタープ vs 巨人オルトウィン
序盤は巨人の猛攻に浴びながらも、じっくり待って隙を突いたジークシュタープの勝利。

・第三試合
ハイメ vs 巨人シュツルータン
それなりに打ち合うもののハイメが競り勝ち、勝利。

・第四試合
ウィテヒ(ヴィテゲ) vs 二刀流の巨人アスプリアン
なんかやる気を出さないヴィテゲ。
ディートリヒ王が「名馬シェンミングを渡す」と約束すると一転ヤル気を出し、勝利。あまりの嬉しさに調子こき始めたりします。

ここまで4戦で敗れた巨人は、全員この場で死亡します。どうでもいいキャラなんでしょうか?
これ以降の勇士たちは別の伝説でも出番のある者ばかりなので、死ぬ前に「止め」が入ります。

・第五試合
ハルトゥング王 vs シュツートフォックス
お互いの槍が外れ、馬から降りて剣で斬り合い、ハルトゥング王が勝利。

・第六試合
ディートライプ vs ワジヘンシュタインのワルテル
若いディートライプと老ワルテルの実力は互角。お互い血塗れになったところでクリームヒルト王女が引き分けと裁定。

・第七試合
修道士イルザン vs 楽人フォルケル
バラ園を転げ回って花を散らし、挑発するイルザン。
音楽家であるフォルケルは得意のバイオリンの弓を、イルザンは説教杖を武器にお互い打ち合い、イルザンが殴り勝ち。

・第八試合
エックハルト vs トロニエのハーゲン
エックハルトの猛攻にハーゲンは対処できず、勝負あり。
他の逸話では出番の多いハーゲンですが、なぜかここではいいところがありません。

・第九試合
ヘルムシュロート vs ゲルノート王子
ブルグント国側がここまで一方的にやられていることを嘆き、ゲルノートは泣き言を言い始めます。

なぜかこの辺りの文でゲルノートやグンテルは「王」と表記されています。
ギビヒ王の息子なので「王子」だと思いますが…間違いでないとすると、もしかしたらブルグントの外に領地があり、そこの王位を持つのかも…?

とりあえず、この記事中では「王子」で統一します。

しかし、騒いだところで実力が変わる訳もなく、ヘルムシュロートの激しい剣技はゲルノート王子を叩きのめし、勝利しました。

・第十試合
アルプハルト vs グンテル王子
両者の実力は互角。お互いギリギリまで斬り合いますが、僅かに勝ったのはアルプハルトでした。

・第十一試合
老ヒルデブラント vs ギビヒ王
「もうどうにでもなれ」とだいぶ自棄になってるギビヒ王。しかしヒルデブラントも手を抜かず、順当に有効打を与え、勝利。

・第十二試合(最終戦)

ディートリヒ王 vs ジークフリート

『ロゼサガ』の人物像からは想像し難いですが、試合を前にしてディートリヒは臆病風に吹かれます。

すでにドラゴン(ファフニール)を倒し、魔剣バルムンクを持ち、角のように頑丈な皮膚を持つジークフリートに勝てる気がしない、と言い出します。

この場に至って何を言っているんだ、とヒルデブラントは涙が出るほど怒ります(そりゃそうだ)。

ここから一連の行動は、何度考えても意味が全く理解できません。
仕方ないので、ただ書かれていることを要約しようと思います。

・ヤル気を見せないディートリヒを「もう一緒に帰りましょう」と外へ連れ出す。
・周囲に誰もいない場所で「お前なんかディートリヒ王じゃない、この偽物め!」と侮辱する。
・ディートリヒは怒りに任せてヒルデブラントを魔剣エッケザックスで(!)打ち、ヒルデブラントは死んだフリをする。
・事前に打ち合わせていたウォルフハルトが駆けつけ、「ジークフリートからは逃げるのに、忠臣は叩けるのですか?そんな怒りがあるのなら、武闘会で相手にぶつけるべきです!」と叱責する。
・言葉を受けたディートリヒは心を決め、「ヒルデブラントの死(死んでない)の怒りを、ジークフリートに償わせる!」と薔薇園へ向かった。

……ジーク、何も悪くなくない???

魔剣バルムンクを持つ英雄ジークフリート、
魔剣エッケザックスを持つディートリヒ王、ついに激突!

『ローゼンガーテン・サーガ』1巻より。戦闘シーンイメージ。

激しい戦いに観客たちも恐れ慄く中、クリームヒルト王女だけは歓喜の声を上げます。

…本当に心底見たかったんだね。

実力伯仲の二人、戦いが長引くと悟ったヒルデブラントは、ウォルフハルトに叫ばせます。
「なんということだ!ヒルデブラントが死んでしまった!!」

それを聞いたディートリヒ王は怒りが頂点に達し、体から煙を立ち上らせ、口から赤い炎を吐き出し、ジークフリートの頑丈な皮膚を溶かします。

もし死んでたら完全にディートリヒのせいだろ!
ジーク、とんでもないとばっちりだよ!!

なんで何の説明もなく急にファイアブレスするんだよ!!
わけわかんないよ!!!

防御力の弱ったところを魔剣エッケザックスで斬り付け、勝負あり。ディートリヒの勝利です。

しかし剣を納めず、怒り狂ってジークどころか周囲の人々にも巻き込み暴れ出そうとしたところで
ヒルデブラントが王に姿を見せ、その怒りを鎮めさせました。

超迷惑。
なんか「ベルン側は善玉だから、悪玉のブルグントはどんなに困らせてもいい」という意図を感じます。

武闘会で圧倒的勝利を収めたベルンの勇士一行は、意気揚々と地元へと帰りました。

… 以上で、この物語はおしまいです。

はっきり言って展開は単調、善玉・悪玉が極端すぎるなど決して面白い話とは言えません。
ですが、「異国の英雄同士が舞踏会で激突!」というシチュエーションは大好き!って気持ちは否定できませんよね。

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