恋愛小説 ①

思い出は勝手に美化されるもの。
世間一般ではそう思われているし、実際そうなのかもしれない。
でもそれは、間違っていると思うんだ。
そう思いたいだけなのかもしれないけれど。
             ✳︎
僕がまだ小学生だった頃の話。自分で言うのもあれだが僕はものすごく暗いやつだった。勉強がそんなに秀でているわけでもなく、運動なんかもってのほか。運動会の徒競走大会でもいつもビリかその前かで、年に一度だけある持久走大会での順位も下から数えた方が早い方。だからといって顔が良いわけでもない。いわゆる本当の意味での平凡な人間だった。
このような、何もかもが平凡ということにコンプレックスを抱いていたこともあり、自分自身小学生のころからそんなに目立とうともしていなかった。だから、友達がたくさんいるわけでもなく、女の子の友達も当然ながらいない。モテるなんてありえない話だった。そんな日常に物足りなさを感じることも当然あったけれど、だからといって気心知れた数少ない友達との遊びが楽しくなかったわけではない。むしろ、みんなみたいにあんまりガチャガチャうるさく騒ぎ立てるよりも、こんな感じで静かに過ごす方が自分にとっては楽しいとすら思うようになっていた。
小3の頃の修了式終了後、僕はいつも通り近所に住んでいる数少ない友達の1人と他愛のない会話をしながら歩幅を進めていた。
「4年もまた同じクラスだったらいいな。」
「そうだな。ってかお前と別れてしまったらマジで喋れる人いないよ。」
「さすがにそれはないだろ。まぁ、そういうことになったらお前のクラスにに遊びにくるから。」
「それ約束ね。ほんとに。」
「はいはい。」
こんな感じで。
「あっ、もうすぐ家だから、ここで別れるね。」
「だったな。バイバイ。また来学期な。まぁ、もしかしたら遊びに来るかもしれないけど。」
「はーい。」
そして、僕と友達は別れた。
小学生の頃の春休みなんて宿題とかが特にあるわけでもない。だから、多くの生徒たちは友達同士で遊ぶなりなんなりで忙しくしていたのだろうけど、僕にとってそこまでの深い関係性の友達はほぼいなかったから、正直、「また退屈な日々が始まるな」くらいにしか思っていなかった。だから、5歳年上の兄のおかげで、最近野球ゲームやアイドルにハマりつつあったのは正直幸運だった。だけど、そんな兄も来年高校受験の年になるらしく、今までみたいにたくさんは遊べなくなるということも知っていた。
「てことは、本当に退屈な日々になるかも知れないな。」僕は思った。だからといって兄に対して駄々をこねるわけにもいかない。そしたら本当に迷惑だ。
友達が少ないことに対するデメリットが如実に現れる期間。それが当時の僕が思っていた長期休みに対するイメージだった。
「まだやってないゲームでもして適当に過ごそうかな。」
僕は、ランドセルを公園のベンチに投げ散らかす小学生を横目に、ゆっくりと帰路を辿っていった。
そんな平凡すぎる楽しくない日常が、もうすぐ勝手に終わってしまうとも知らずに。

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