彼女とホスト(3)

『きのうまた歌舞伎行ったの。仕事終わりでストレス溜まっててさぁ〜。』


彼女はフリーターだ。
ただのフリーターではない。
仕事の続かないフリーターだ。
だから、バイトマッチングアプリを使っている。

しかし、気分屋だから予定いれたのにキャンセルしまくってキャンセル率があがり、就業状況をみられて採用されず撃沈するという稀に見るアホだ。

レギュラーのバイトも探してはくるが、一向に続く気配が無い。


「また掛けで行ったんだろ?なにやってんだよ
 お前。」

『大丈夫だよ。また日払いするから。払えばいいんだから。あ~、明日は日本橋。明後日は世田谷だって。めっちゃ遠い。』

と起こり口調で言う。

10万。ホストでの売掛金はまだ10万。
彼女はいうが、収入を考えるととてもじゃないが
余裕ぶっこいて「まだ」とかいっていられない。

こいつの頭の中は女のように着飾った
中性的なホスト君でいっぱいらしい。

その証拠に待ち受け画面は宣材写真をスクショしたやつだ。


『推しに会えないとムリ。人生で楽しいことも仕事で目標とかないし、希望もないから。今はホストが生きがいなの!』


はぁ。こうなると、寂しさをこじらせた女は手がつけられない。
現実で辛い目にあわなければきっと目がさめることはないだろう。


「もとは一般人の、金銭欲と下心しかない奴に俺は金払おうとは思わないな。実際、クラブもキャバもガールズバーも行かないし。」

『でもホスト並のイケメン一般人でいないもん』

「あのさ、俳優とか女優が30分とか一時間相手してくれるなら数十万払う価値あるけど なんの実績も無いただ見た目がいい兄ちゃんに金払う価値ないだろ。搾り取られて捨てられて終わりだぞ。代わりの財布はいくらでも捕まえられるんだから。」

全力の暴論をぶつける。

「汗水垂らして働いたなけなしの金が、やつらのブランド品に変わるわけだ。それでいいのか
お前。」

『いいの♡』
と全力のニヤケ顔。


どうやらこいつは正常な判断もできないほど
自己顕示欲だけは強いチャラい兄ちゃんに
骨抜きにされたらしい。

ティックトック、ラインでやり取りを頻繁にしている。


本人は気づいている。
金の切れ目が縁の切れ目となり、いつか担当が離れてしまうと。
だけれど、非日常的な空間に非日常な顔面が
彼女の心身にもたらした影響は大き過ぎたようだ。

親から愛情を注がれることのなかった彼女だが、
同情はしていない。
ただただ、しなくてもいい苦労や借金をしてほしくないだけだ。

軽度の知的障がいを持つ人が、ホストにハマったり 風俗に身を落として悲惨な暮らしをしている
現状がある。
YouTubeにあげられている彼女たちと撮影者。
コメントする匿名の人々。

僕には、ただ面白がり
なかば馬鹿にしながら
メシの種にしているようにしか見えない。

他人の不幸は蜜の味というが、プライバシーという観念が無い社会的弱者を好き放題モザイクなしでとりあげて、シリーズ化して動画にしていることを非常に残酷に感じる。


『私はこうはならないよ。ホームレスじゃないし。家賃だって払ってるし。スマホは一ヶ月遅れてるけど』


生活費からの遊興費ではなく
遊興費からの生活費というアタマだから
いずれ数々の支払いが滞るのは目に見えている。


アドバイスに耳を貸さない彼女に
不安しか感じない。




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