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5年ぶりのアナ・ヴィドヴィチ来日コンサートに行ってきた

クラシック・ギターのアナ・ヴィドヴィチの5年ぶりの来日公演に行ってきた。

会場の浜離宮朝日ホールは、新橋駅からやや遠く、目印も少ないため、さんざん迷ったあげくに2分前にすべり込み。

5年前の来日公演は銀座のYAMAHAホールで聴いた。2階席まで音がハッキリ聞こえてくる遠達性に感心したことをよく覚えている。

さて、コンサートの一曲目は早いパッセージからなるバッハのBWV1006前奏曲。少々緊張気味なのか、テンポも運指も乱れて感じた。

正確無比なテクニックの持ち主のはずが、音も小さく、あれっ!?

でも、そこはさすがアナ・ヴィドヴィチ。ゆっくりしたテンポの2曲目からは徐々に調子をとりもどし、愛器レッドゲイトが、艶のある音色を紡ぎ出し始めた。

バッハの次は、定番中の定番、「アルハンブラの思い出」。それに続けて、フランシスコ・タレガの曲をいくつか演奏。全般的にアタックの強いアナさんの演奏には、ベース音を響かせる「アラビア風奇想曲」 のような曲がよく似合った。

休憩をはさんで第二部は、ソル編曲の「モーツァルトの『魔笛』の主題による変奏曲」から始まり、セゴビア編曲のアルベニス作曲「グラナダ」「アストゥリアス」と、耳なじみのある曲が続く。ここでもフラメンコ調のベースラインが繰り返される後者が印象的だった。

カステルヌーヴォ=テデスコをはさんで、最後のブロックはアルゼンチンのアストル・ピアソラ。湿っぽくなく、メリハリのあるアナ・ヴィドヴィチのギターで聴くと、曲の輪郭が浮き彫りになり、それがかえって南米の風合いを感じさせる。

アンコールに演奏した二曲は、バロック期のスカルラッティの曲と、20世紀後半のブローウェルの作品。

全体として定番曲でバランスよく構成され、アンドレス・セゴビアの登場以降に形成された現代クラシックギターのレパートリーを回顧する内容だった。

アナ・ヴィドヴィチはライブを中心に活動する演奏家だ。今年に入って自ら曲も作るアンドリュー・ヨークと、アナさんより15歳ほど年下の新進気鋭ティボー・ガルシアの演奏を聴いた。彼らと比べると、彼女には職人芸的な気質を感じる。

決して手慣れた感じで弾くのではなく、コンサート冒頭の乱れが示すように、アナ・ヴィドヴィチは一曲一曲が真剣勝負。そこからくる説得力と、それぞれの楽曲の輪郭をくっきり浮かびあがらせる音楽性を持つ。なぜか、聴いているときよりも、聴いたあとに記憶に残る。そんな演奏だ。

ただ、同じ会場に多様な客層を集めた29歳の新鋭ティボー・ガルシアと比べると、客層の大半は年齢が高めのクラシック・ギター愛好家が中心。注目度の質が違っているような気がした。

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