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運命 episode6

彼に会うまでの2週間。それはもう、めくるめく時間だった。彼が自分が掲載されているWeb社内報を送ってくれた。

それを見た母も口には出さなかったが、やっと我が娘にも理想の相手が現れたと感じていた。愛を持って育て、お金を惜しまずに学校にも行かせた。手塩にかけた甲斐があったと言えるもんだ。私もこれで父と母に恩返しできると思った。

社内報の中でインタビューを受ける彼は、スポーツマンで背丈も程よく学歴もあり、将来性を期待されるのがわかりやすい笑顔で品よく写っていた。

会う前に写真を送り合い、その見た目が理想的だなんて、何度体感しても飽きないだろう。私は、半年前にディズニーランドで撮ったパンケーキと自分の顔を同じようなサイズで写したものを彼に送り、返事がくるまで一秒おきに携帯を見ていた。

メッセージのやり取りの中で、彼はまた「運命」という言葉を使ったんだ。

2泊3日の出張の初日。待ち合わせは夕方の天神。天神に来る人は皆、自分なりのオシャレをしてきている。そんな学生や主婦たちに紛れて、パルコの入り口で彼を待った。まだ暑い9月だったから白いロングパンツに薄いグレーのニットを合わせた。

母と相談して中洲川端にある品の良い居酒屋を予約しておいた。彼が来る方向を見ると、信号待ちをしているのがわかった。見ているのがバレないように目を逸らし、あえて彼に見つけてもらおうとした。

10秒ほど経って、もう一度おなじ方向を見ると彼はいなくなっていた。きょろきょろしていると真後ろから彼が現れた。私を驚かそうとあえて後ろに回ったらしかった。初めから笑顔にさせようとしてくれるなんて、いい人。好き。

まだ明るい夕方だった。予約にはまだ時間があるし、どこかでお茶しようということになり、岩田屋のスタバに向かった。福岡がオシャレな町でよかった。外のベンチに座り、今日はどんな仕事だったのかなどを話した。水分を取ったせいで私はトイレに行きたくなり、岩田屋の2階に急いだ。

その間に彼が荷物を持っていてくれ、お手洗いを済ませ小走りでかけ寄ったら彼が先に歩き出し、私が後ろからその手を取る形になった。誰か今の私たちを写真におさめて欲しい。きっと読者モデルの一歩手前くらいの雰囲気と幸せ感を醸しだしているはずだから。

居酒屋までは徒歩20分ほどだった。福岡の中心地から歓楽街までを歩く、とてもよいコースを選んだものだ。福岡の名物がほぼ揃う品揃え。個室に通され、お酒もたしなめる私はビールや焼酎も楽しんだ。何度か料理を運んでくる店員さんにも鼻が高かった。私たちはこれからどうなっていくんだろう。それすら考えられないほど、舞い上がっていた。途中、彼が席を立ち帰ってきても何の違和感もなかった。

そろそろお会計をと言った私に「もう、いただいてますので」と女性スタッフさんが笑顔で返した。彼がすべて支払ってくれていたのだった。もう、これ、なに。

えー!と嬉し顔で驚く私を背の高い彼が右上から見下ろしてくれていた。きっと彼も笑顔なはず。なぜ、ここまでしてくれるの。だけど、それ以上は深く考えない。はっきりさせない気分にもお酒にも、酔っていたい。時刻は20時すぎ。

つづく。

ありがとうございます! ひきつづき、情熱をもって執筆がんばりますね!