将棋ソフトが強すぎて将棋の実況動画作りがつらすぎる件

いまや将棋ソフトが強すぎて、将棋ソフトに自分の棋譜を解析させると半分ぐらいが悪手認定をされていまいます😥

昔ならば自分より少し強い人に立ち会ってもらって、「うん、これも一局。これも一局だね。」みたいにご指導いただいていたのが、強すぎる将棋ソフトの登場で「これも一局。これも一局。」ではなくなってしまいました。自分の棋譜の指し手に明確に悪手の烙印を押され、そして将棋というものは、ほとんどすべての指し手が悪手であるという事実を思い知らされるわけです。

私は一応、将棋ウォーズ四段(あと少しで五段)ですが、四、五段程度の棋力だと短い持ち時間で指した将棋は悪手だらけということなのでしょう。

将棋ソフトの評価値で言うと500とか1000とか下がるような指し手(悪手、もしくは大悪手と呼ばれるような指し手)が終盤ではバンバン出てきます。

このような悪手に関して、自分が把握しているのに動画のなかで言及しないのはとても不誠実なように思えて、テロップを入れることにしました。

ちなみに将棋ソフトは長い時間考えさせたほうが正確な棋譜解析ができるとのことだそうですので私は寝る前に棋譜解析をセットしています。場合によっては、AWSを利用しています。

※ AWSを知らない人にわかりやすく言うと時間貸しのコンピューターです。

そうしますと、将棋ソフトに言わせると、将棋ウォーズで四、五段程度の棋力の人が指した将棋の終盤はもう、双方悪手の連続なんですね。

悪手すべてに対してテロップを入れだすと1手ごとにテロップを出さないといけなくなります。まず、これがとても見にくいです。情報過多です。

そして、自分の指し手はともかく、対局のお相手の指し手についてのテロップは下手に出すとお相手に失礼になりかねません。「お前、こんなテロップ出してるけど、お前だって対局中に読めてないだろ!」と言われかねません。

その通りです。私は対局中に読めていません。テロップは対局後の自分の検討と将棋ソフトによる棋譜解析でわかった変化です。その旨が見ている人に伝わらないとテロップは高圧的で、とても厳しい将棋系VTuberのように見えてしまいます。キナコ(私)は、そんな厳しい将棋系VTuberではありません。ほんわかして、優しいです。優しいつもりです。ただ少し、将棋に対して誠実で、そして真摯にありたいと願っている、そんな将棋好きの女の子です。

そもそもで言うと、1手10秒のように短い時間で指した将棋にミスはつきもので、仮に終盤の指し手すべてが(将棋ソフトから見て)最善手ではなかったとしても、「まあ、ウォーズ四、五段程度の棋力だとそんなもんだよね」という意味もありますし、将棋自体が人間には難しすぎるゲームだという意味もあります。

また、テロップを入れたところでそこからその動画を見た人が学べるかどうかは別問題です。この動画を見た人に「為になる」「勉強になる」と思ってもらえると良いのですが、単に最善手を示して理解してもらえるほど将棋は甘くありません。どういう理屈でそれが最善手になるのかが伝わるとは限らないからです。

例えば、私の上で紹介した動画(#005)に出てくる、次の局面について考えてみましょう。

画像1

ここで先手(私)は、28銀とバックします。これは、△29飛成に対しては▲39金と打って飛車(龍)が詰むので、これ自体は飛車での桂取りを防ぐよくある手筋ですし、初心者の方には覚えておいていただきたい手筋だと思います。

ところが、ここではこの局面での▲28銀は悪手で、46に銀が利かなくなったので後手から△46歩と攻めてこられて困るのです。正着は飛車をいますぐ殺しにいく、▲38角~▲49金です。これなら飛車を殺すのが一手早くなります。「飛車を殺す」とは言っても、角との交換で(金や銀との交換ではないので)、私は実戦ではこの変化が見えていたものの、損だと判断して見送ってしまいました。しかし▲28銀には本譜の△46歩があるので▲38角が最善でした。

▲38角の筋があるので、後手は49からではなく39から飛車を打つべきでした。これなら▲38角が打てませんし、▲28銀には△38飛成▲39金△36龍のように飛車が生還できます。

これをテロップで愚直に解説を入れるとすると、49飛を指した直後にテロップで「39飛が最善」、28銀を指した直後にテロップで「※悪手 ▲38角~▲49金を急ぐべき」みたいになるのですが、49飛のところで「39飛が最善」と書かれても、高段者でもない限り、「なんで?」ってなりますよね。

「△39飛が最善」なのは、49から飛車を打つと▲38角~▲49金があるからです。この▲38角の指し手を示さずに「△39飛が最善」と言うのは不親切だし無責任だと思います。また△39飛に対して▲28銀の手筋は当然見えていなければなりません。つまり、▲28銀が見えない人に「△39飛が最善」と言ってもこれまた何も伝わらないわけです。

つまり、棋譜の進行通りの各局面で、ある指し手が悪手であると示すことや、その局面の最善手を示すことは、時としてわかりやすいとも教育的であるとも言い難いのです。

※ この理由から、上の動画では上図の局面を動画の最後に問題として出題して、解説のなかで上述の変化について言及しています。

また、将棋では基本的な手筋があって、その手筋を組み合わせて戦っているわけですから、その手筋自体は初心者の方に覚えて欲しいわけです。ここで言う、28銀みたいな指し手がそれです。

ところが、その局面の他の部分との兼ね合いで、その手筋が通用しない場合があるというだけのことなのです。この局面での最善ではなかったですが、だとしても28銀の手筋自体は記憶に値すると私は思うわけです。この部分をすっ飛ばして、「最善手はこれだ!」みたいな話だけするのは、足し算を知らない子供に掛け算を教える、みたいなことになりかねません。将棋はある局面の最善手を覚えるゲームではないのですから――。(ただし実戦で頻出するような定跡局面は除く)

※ 将棋は、実戦で到達しうるような局面での最善手を短い時間で導く方法を習得するゲームとは言えるかもしれませんが、それは数多くの局面の最善手を丸暗記することによって達成できるものでは決してありません。

そう考えると悪手に関しては悪手であること自体は示すのが誠実であると思ってはいるのですが、それを示すこと自体が将棋の勉強になるとは限らず、また同時に、「最善手はこれ」というのをテロップで出すだけでは不十分で、それが将棋の勉強になるとは限らず、むしろほとんどの場合、害にしかならず、テロップだらけで情報過多になり、そして対局のお相手にも失礼になりかねず、そして教育的でもなく、次も見ようと思える動画ではなくなってしまいますし、そんなだらだらした動画、誰も見たくもないし、私としても作りたくなくて、もっと皆さんに楽しんでもらえて勉強になって将棋の棋力が上がって、そして私自身が楽しめるような動画を作りたいのですが、同じ見てもらうならば10分のなかにたくさん勉強になるような作りにしたいという思いがあり、しかし自分の指した棋譜を将棋ソフトで解析させると将棋ソフトが強すぎてなかなかそうはさせてもらえなくて、ハイスペックなPC(AWS)で検討すればするほど自分の対局棋譜上の(自分の指した)悪手が目立ち、それについて言及したくなり、言及しないのは悪事から目を背けているような後ろめたさがあり、それでいて私は何もかも詰め込んだフルーツパフェのような動画は作りたくなくて、そうです、この文みたいに1箇所にすべての情報を詰め込み詰め込みした動画なんて作りたくなくて――。

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