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「先生、もう楽しいよ?」

「勉強はきらい?」

「うん、大嫌い!」

中1の頃。
Mは初めてのレッスンでそう言った。

「まじで授業、何言ってるかわかんねぇもん」

鉛筆を鼻と口で挟みながら椅子にもたれかかる。

渡されたテストの結果は500点中100点代。

「先生、、どうにかなりますかね?」

お母さんの不安な声。

「なんとか、やってみましょう、、!」

こうして始まった家庭教師。


始めた3ヶ月は。

宿題をやってこなかったり。

参考書を学校に置いてきたり。

大変なことばかり。

暗闇の中、手探りで。
この子に合う教え方を模索した。

「なんで宿題をやれないんだろう」

「なんでこの文章を読み飛ばすんだろう」

意味がわからないことばかりだった。
でも、Mを観察していてわかったことがあった。

Mは間違えても必ず「冗談」を言う。

「このくらいの問題で間違えてたら先生気絶しちゃうよ」

「わかった。じゃあ次から絶対に間違えるわ」

「、おい」

「あ、そうか笑」

みたいな感じ。

そう、ユーモアのセンスがあったのだ。

3ヶ月経ってもなかなか成績が上がらず、頭を悩ませていた時。

僕は彼にこう言った。

「お前さ、間違えるたびにボケるじゃん?」

「うん」

「その『なんでもおもしろくできる能力』、先生まじですごいと思う


「、、だろー?!」

Mは褒められると思っていなかったのか、一瞬固まってから最高の笑顔を見せた。

「うん、だって人を笑顔にできる能力って素敵じゃん」

「よくわかってんじゃんよ、先生😎」

「うん、だからお前はそのままでいてくれ」

「あいあいさー!」

たったそれだけの会話だった。

それから、勉強に対する姿勢が変わった。

約束を守るようになった。

宿題ができなくても、自分で理由と改善を言えるようになった。

きっと人は、結果ではなく人格を認められると、格別に嬉しいんだろう。


そして今日。
もう一つ、嬉しいことがあった。

いつも一緒にやっている英語の問題集。
初めて全問正解をした。

「おー!!」

その瞬間、僕は嬉しくてページに花まるを書いた。

するとMが言った。

「花まるってこんなに気持ちいいんだね」

「帰ってきたら父ちゃん、母ちゃんにも見せてあげよっと」

中1の男子が、誇らしげに花まるを見つめていた。

その横顔を見て、心が満たされた。

「これで勉強自体も楽しくなってくれたら嬉しいなぁ」

え、先生。もう楽しいよ?

「、、え、もう楽しいの?」

「うん、めちゃ楽しい!」

その時、「大嫌い!」と言っていた姿がフラッシュバックした。

そうか、俺が1番やりたかったことはもう達成できたのか。

学ぶことが楽しい。

そう思ってもらえたら。

自分が突然いなくなっても大丈夫だろう。

「また来週もお願いします!」

気持ちのいい挨拶を背に受けて。

彼の笑顔を思い出し、

鼻歌まじりに帰路についた。


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