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今日は誰とも話さない

NYに店舗を構えていたレコード店“アザー・ミュージック”


21年間の歩みを追うドキュメンタリー。オーナーのクリス・ヴァンダルーとジョシュ・マデルや、個性的なスタッフや顧客、ミュージシャンたちへのインタビューやインストアライブの記録ビデオで店の魅力に迫る
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お寝坊さんが多く、一般的な会社のお勤めはむずかしいかもしれないが、
音楽の知識には長けている(有名無名問わず)若者たちや駆け出しのバンドマンが働く。
アザー・ミュージック。
ここに集う客たちは好んで店員さんの蘊蓄を聞きながら、気になったレコードを購入する。
会員制のBARのような。街の憩いの場のような。

「タワーレコード」の真向かいに構えた
この店は、絶対失敗するだろう、と睨んだ周りの人たちの読みを
大きく外し、ランキングにはあがってこないような良曲ばかりを集めるコンセプトはマニアの溜まり場となり、人気スポットになった。
日本で言えば「ヴィレッジ・ヴァンガード」の成功に似ていた。
似ているのはここの店頭に新譜を手書きのポップ付きで並べられることをステータスにしていた
音楽家たちも多かったそうだ。
盤石かと思いきや、インターネットの普及、9.11ショックで街に繰り出す人々の足並みは減っていく。それは売り上げの右肩下がりを意味する。
赤字が続き、給与はゼロ、経営難になっていく。
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ずっとそこに在る気がしていた店ほど
気がつくとなくなっている。
そんな店の幕引きをこれまで何度も何度も
みてきた。
大学時代、彼女と通っていたベーグル屋。
社会人一年目、嫌なことがあると一人になるために入った喫茶店。
離婚後、常連客からアルバイトに代わったイタリアン。

いつのまにかコインパーキングやレンタル倉庫に姿を変えた。

思い返せば、はじめてのバイト先は
個人経営のレコード屋だった。
去年彼女からプレゼントしてもらったのも
レコードプレイヤーだ。
私の歩みにレコードは常にあった。
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「辛くて明日から心療内科に行かないと、だ」
「空き地になっても来るよ」
そんなことを営業最後の日にレジで泣きながら呟く
常連客のシーンもあった。
私にはそれぐらい胸を抉る
閉店の報せはなかったかもしれないが、
いつも思うのは
永遠はなく、あたりまえのように
時代は流れていく。
だから行かないと。
だけど終わりを知ったからって
もうルーティンになってないくせに
店に行くのも変な話だ。
友達がどこか外国にずっと住むから、と
日頃から連絡もしてなかったくせに
空港に行くようなものだ。
見送りは行かない。方がいいか。
行った方が良かったか。
フジファブリックのあの花火の歌じゃないが、
そんなことの繰り返しだ。
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いい夜は誰とも話したくないものだ。
余韻に浸っていたいから。
喜びを説明すれば説明するほど陳腐になってしまい
そうだから。
そんないい夜を誰とも共有したくない。
でも誰かに共有したいから、
ここに書いてしまっている、のか。
その他諸々。目黒シネマのレイトショー、また行こう。行かないと、ではなく行きたいから。

トートまで買っちゃってさ、


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