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「木綿のハンカチーフ」考

ボクは決めたよ
春になったら西に向かう
中国山地の小さな村へ
そこで米作りをはじめるんだ
もちろん最初は見習いだけど
必ずおいしいお米を作るよ
そうしたら
真っ先にキミに送るから

知ってるでしょ
わたしは料理はしないの
ごはんを炊いたこともない
だからお米なんていらないわ
それに
覚えておいてね
わたしはイナカくさい男は好きじゃないの

元気にしてるかい
もうすぐ夏も終わるね
たんぼが忙しくて帰れなかったことを謝るよ
ボクは前より健康になった気がする
こっちで分けてもらう野菜がとてもおいしいんだ
送るからぜひ食べてみて

わたしが欲しいのはナスでもキュウリでもないの
そんなこと分かるでしょ
わたしは少し痩せたかも

キミは今日も颯爽と街を歩いているのかな
あの喧騒も今では遠い世界のことのようだ
ボクはシミだらけの服を着て
毎日どろんこになっている
今朝撮った写真を送るから
いまのボクを見て欲しい

元気そうで安心したわ
でも、そんなあなたの姿を素敵と思えるほど
わたしは大人になれないの
さりげなくセンスのいい服を着て
隣を歩いてくれるあなたが好きだった
これから寒くなってくるから
風邪をひかないでね

山からの風が吹いてくる
鳥の声が聞こえる
乾いた土の匂いがする
いろんな命に囲まれて
ボクはここで生きている
ごめん
どうやらもう
キミのいる街に戻れそうにない

この街にも
遠くの山の方からの
冷たい風が吹いてきます
いままでどうもありがとう
最後にひとつだけ
あなたにさよならを言う前に
一度だけそっと泣かせてね

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娘が「木綿のハンカチーフ」を聞いて「なにこのオトコ、サイテーじゃん」と言っています。わたしも「木綿のハンカチーフ」は「クソな男」と「健気な女」の物語だと思っていました。でも、もしかしたらそれは「田舎が好きで都会嫌い」なわたしたちの一方的な解釈なのかもしれません。

そして、ふと思いました。
これが逆のパターン、つまり都会から田舎へ行くパターンなら感じ方が変わるかもしれない。

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というわけで、上に逆パターンを書き出してみました。
この状況だと、わたしは出ていった男を擁護したくなります。

そして、あらためてオリジナルの「木綿のハンカチーフ」を聞くと、「新しい世界に踏み出した男」と「過去に執着して歩み寄りを見せない女」という構図にも見えてきます。

彼女も変わらないわけではないでしょう。ただ、ふたりの変化の方向が、あるいはタイミングが違っていただけのことです。どちらかが悪いわけではありません。

「木綿のハンカチーフ」はよくあるすれ違いの曲。
「しかたないこと」の物語です。

長い間、この曲の歌詞を「南へと向かう列車で」と勘違いしていました。それは岩木山で別れる「帰ってこいよ」のイメージが重なっていたからだと思います。「帰ってこいよ」では都会へ出て行くのが女、残るのが男。でも、男女が逆になっても、出ていった相手が(おそらく)帰ってこないのは同じですね。

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