これからの青森市の学校教育を考える。小中一貫教育について千葉県に視察へ。

 1月16日から17日、「小中一貫教育」をテーマに千葉県に視察に行って参りました。

 視察に行ったのは、「成田市立下総みどり学園」と「市川市立塩浜学園」です。

 小中一貫教育には、制度上、
 ①既存の小中学校制度のまま一貫教育をするもの
 ②「義務教育学校」という独自の教育課程を設けることが可能なもの
の2種類あります。
 今回視察に行った2校はいずれも「義務教育学校」であり、小中学校の校舎を一体化させている「施設一体型」です。また、エリート教育的な学力の向上よりも、地域への愛着形成や自己肯定感の醸成を第一に目的としている点が共通しています。
 その一方、設立に至る経緯や学校のある地域の特性は大きく異なるため、さまざまな小中一貫教育のかたちを実際に見ることができ、非常に有意義な視察となりました。

 また、仕組みや形を真似ても大切なのは、働く先生の情熱が大切で、特に学校長の影響力が成功へにはなくてはならないものとも感じました。また、「義務教育学校」の仕組みを活かす校舎についても、実際に見ることができたのは視察の大きな意義でした。

【1日目 成田市立下総みどり学園】
 成田空港から車で約30分。学校のある下総地区は農村地帯です。地区にあった4小学校はいずれも老朽化と児童数の減少が課題になっていました。
 そこで、地区の真ん中にあった中学校敷地に小学校校舎を新しく建てて、既存の中学校校舎と渡り廊下で連結させて一体化させました。
 5年生からの教科担任制の導入で、子どもたちの理解度が上がったことや、歳の離れた小さな子の面倒を見ることで自己肯定感が育ったことが、大きな成果と感じているとのことでした。大人と子どもほどの差があるので、中学生は小学生に対して非常に責任感と優しさを持って接しているとのことです。ある意味、小学生は中学生(小学生から見るとほぼ大人)の言うことならはまず聞くので、中学生が大人になっていくのかと思います。
 小学生は、身近にお手本になるような中学生がいるので、自分の将来像を具体的に描けるようになったという効果があったそうです。
 下総みどり学園がうまくいっているのは、
「制度や校舎ではなく、地域に根ざした新しい形の学校を作る思いをみんなが共有しているから」
との教育長さんのお話が印象的でした。

【2日目 市川市立塩浜学園】
 こちらは集合住宅が立ち並ぶエリアで、下総みどり学園とは地域の雰囲気が全く違います。人口がすごく多いのかな?と思っていましたが、地域では子どもが少なくなっており、小学校は1学年1学級です。「塩浜学園」は、大規模集合住宅「ハイタウン塩浜」の完成にあわせて昭和56年に開校した塩浜小学校と塩浜中学校を母体とした「義務教育学校」で、小学校合併を伴わずに開校しています。小学校合併と同時に開校した「下総みどり学園」とは開校の経緯が異なります。
 開校前、小学校は6学級(1学年1学級)、中学校は5学級となっており、児童生徒の減少が教育上の課題となっていました。このため校舎新設による施設一体型の義務教育学校を開校することになりました。
 小中一貫教育による異学年との交流が、人間関係の刺激になっているとのことです。中学生年代(7~9年生)が、小学校1、2年生の面倒を見ることで、リーダーシップや優しさが多くの生徒に育つようになったのは大きな成果であると、校長先生がお話ししてくれました。
また「コミニティスクール」として地域との関わりを大切にしているのも大きな特徴です。塩浜地区は、東日本大震災の際に液状化現象により大きな被害を受けており、そのことを踏まえた独自の防災教育や地域学習を実施しています。
「この地域に生まれて良かった、と子どもたちが思うような教育を地域全体でしたい。いい校舎や制度を活かすのは人の熱意」と校長先生が熱くお話してくれました。
 
【まとめ】
 青森市では、昭和 57 年の 46,854 人(児童数 31,402 人、生徒数 15,452 人)をピークに児童生徒数が大きく減少しており、令和4年度の児童生徒数は19,184人(児童数 12,493人、生徒数 6,691 人)とピーク時の約4割となっています。また、学級数についても、42小学校のうち14小学校、19中学校のうち2中学校が、1学年1学級以下となっており、このうち複式学級を有する小学校も5小学校あります。青森市が策定した「通学区域再編による教育環境の充実に関する基本計画」の中で、小規模校には「異学年交流が生まれやすく、児童生徒相互の人間関係が深まりやすい」などのメリットもある一方、「クラス替えが困難なことから人間関係が固定化しやすく、集団内の人間関係から得られる刺激や情報量に限界が生じ、多様なものの見方や考え方にふれる機会が少なくなりやすい」といったデメリットもあるとしています。このように、少子高齢化の進展に伴う小規模校の増加は、青森市の大きな教育課題の一つです。また、教育施設の面でも、4小学校、2中学校の校舎が昭和40年代に建設されたものであり、建て替えが必要な時期を迎えています。
 今回の視察先である義務教育学校2校はいずれも、小中一貫教育の実施前は、小規模校として先述のような課題を抱えていました。一貫教育の実施により、メリットをさらに活かしながら、デメリットの解消を図っています。具体的には、
①校舎の新設による「施設一体型」の小中一貫教育の実施により、異年齢の子どもたち同士のコミュニケーション機会を普段から密に確保し、小規模校のメリットである異学年交流をさらに深化させることで、人間関係に刺激を与える
②独自の教育課程を設けることのできる義務教育学校の制度を活かして、地域と一体となった教育活動を9年間の実施することにより、地域への愛着を育むとともに、多様なものの見方や考え方を育む
といった方法です。
 青森市でも、平成17年から小中一貫・連携教育を進めており、義務教育9年間を見通した目標を設定し、系統性・一貫性ある指導を行うこととしています。例えば校舎の建替えに際して、小中の連携教育・一貫教育という形から「施設一体型の義務教育学校の設置」へと取り組みを深化させることは、青森市の教育における大きな課題である、小規模校の児童生徒に対する良好な教育環境の確保のために、大きな教育効果が見込めると考えます。
 また、独自の教育課程を設けられる「義務教育学校」の特性を生かして、思春期に入る5年生からは緩やかにコースに分かれて、その子の特性に合わせていくような教育課程を設置することなども考えられます。全国的に不登校の子どもが増えており、青森市も例外ではありませんし、本当の意味で個性を活かした特色ある教育を行なうことができれば、青森市の大きな魅力の一つになるのではないでしょうか。


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