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「ナニカ」を得たくて太宰にすがる②
※上の続きです
電車の中も年配のお客さんが多かったのですが、そんな中目立ったのが独りの女性です。
ジーンズにロンT、黒めのリュックにつばつき帽子と、一見少年のような恰好でしたが、きれいに伸びた黒髪がすらりとほほにおり、その間に見える白い肌が印象的でした。
彼女は電車に乗ったさい、最初は車両中央の相対席にすわっていたのですが、混雑してきたために遠慮して、わたしのとなりの座席にうつってきました。
彼女はずっとちいさな熊のぬいぐるみを抱いていました。古いものなのか、ところどころ毛が逆立ったり、抜けたりしていたので、ライオンのようといわれれば、そんなふうにも見えます。
それを向いの席において、首に下げた大きなカメラで、ぱしゃぱしゃと撮影をしだしました。
その画像がSNSかブログ用か、それとも大事な旅の思い出としてひっそりとデータの中で眠り続けるのか、わたしには知るすべもありません。なんとなくせわしないな、と思いながら、わたしはひとつあくびをかきました。
わたしはそれから、ずっと窓の外をぼんやりとみていました。彼女は相変わらず重そうな、キノピオの鼻のように長いカメラ越しに、ずっと窓の外を見ています。
ふと思ったことは、きっとわたしと彼女が見ているものをは、同じようで実は違うものなんだということです。
もし、彼女がその撮影した画像で、SNSでお金を稼ぎたいとか、いいねをたくさんもらいたい、と思っていたとしたら…
様々な被写体を撮っていたとしても、その意図が重なってしまえば、すべてが同じもののように見えてしまうのではないでしょうか。それは見る人は気づかないかもしれませんが、撮影している本人は、なんとなくでも気付いているはずです。
ただ、その違いを明確に表現できる明確に表現できる芸術性が開花したら、面白いことになりそうな気もします。目深に帽子をかぶる彼女からは、なんとなくそんな可能性を感じました。
彼女は手前の芦野公園駅で下車しました。
わたしは片手にカメラ、カタテにスマホと忙しそうに手を繰る彼女の背中を見送りながら、そんなことを考えていました。ふと顔を上げると、彼女の手の中のスマホは、電源が入っていないのか、まっくらでした。わたしは思わず鼻をならしました…
車内アナウンスまもなく、目的地金木駅への到着を告げていました。
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