多様体論・メモ (接ベクトル空間など)
どうも苦手意識が抜けきらない多様体論の覚書です。
個人的なメモですが同じような疑問を持っている方の助けになれば幸いと思い公開することにしました。
多様体論は微分幾何とはちょっと違う
多様体を勉強するまでは、多様体論を勉強するとグニャグニャに曲がった空間上での微積分ができるようになる、というイメージを持っていましたが、多様体では積分はできるようになっても微分はできるようにならない、というのが私の理解です。多様体上での微分を定義するには"接続"という概念が必要になりますが、それは一般的な多様体の本ではカバーされていません。これには注意が必要です。よく多様体をやる前に微分幾何をやると思います。微分幾何ではガンガン微分をやりますし、微分を通して図形の性質を研究するのが一番の目的になっています。高次元に埋め込んだ図形の性質の研究が微分幾何であり、多様体は高次元に埋め込むことなく図形の性質を研究する分野であるというのは間違いないですが、だからと言って微分幾何で出てきた曲率や捩率には出会うことはできないのです。
ということで多様体論ではグニャグニャ曲がった空間上で積分する方法を学びます。で、物理をやっている人が多様体上での積分ができるようになって何かいいことがあるかというと、特段いいことはないんじゃないかと個人的には思っています笑。どちらかというと多様体の先にある接続などを勉強したときによいことがある、という認識です。ただ多様体では座標によらない表示の仕方を必死に考えます。これは観測者による座標の取り方に依らない表現を目指す物理の姿勢と深く関連づきますし、その中で生じる微分形式などは知っておいて損のない概念です。そこら辺に物理をやる人が多様体論を勉強する意義があるのではないかと思っています。
接ベクトル空間の基底が演算子ということ
多様体論を勉強し始めて一番初めに突っかかるのがベクトル空間における基底の定義あたりかと思います。多様体論ではベクトル空間の基底を$${e_{i}=\frac{\partial}{\partial x_{i}}}$$と演算子で定義します。まず演算子で基底を定義するというのが聞きなれないですし、本当にそんな定義で"接ベクトル"が定義できているのか、勉強し始めたことは本当にモヤモヤしていました。また積分を当面の目標としている多様体論でなぜベクトルが出てくるのか。微分幾何のように微分をガンガンやるならば必要になるでしょうが、なぜここで?という疑問がずっとありました。
改めて思うのが、やっぱり微分幾何と多様体の違いをちゃんと考える必要があるということです。微分幾何の場合は曲面を規定する関数がありました。そしてその関数がまがり具合などの情報をすべて持っていたわけです。当然接ベクトルもその情報を包含していたわけですが多様体では全然違う。ただ局面にペタッと座標を乗っけただけなので曲面の情報はゼロ。だから微分幾何で考えていたものと多様体の接ベクトルがかけ離れてみていること自体は問題ない、というよりむしろ当然です。
それで今思うのが、多様体論の枠組みにおいて接ベクトル空間はあまり"接ベクトル"として捉えるべきではないということです。確かに演算子としての接ベクトルには方向微分としての意味があるわけですがそこに接ベクトルとしての意味を見出そうとすると混乱します。むしろ、局所的にみるとユークリッド空間の基底と同一視ができて、かつ座標変換に対して線形で変換できる基底が欲しかった、(ある意味、各局所座標系にある基底の大局化?)というのが正しい表現な気がします。また座標変換に対して線形で変換できるのは微分演算子であるからです。微分の本質は非線形関数の局所線形化。これにより解析的な土俵を線形代数の枠組みに落とし込むことができるようになります。そう思うと演算子で定義されているのも納得ではないでしょうか。
ベクトル場、微分形式
このような作業を通して各点にベクトル空間が定義できました。ベクトル空間があれば当然そこに双対ベクトル空間を作ることができますし、それらを拡張してテンソル空間なども定義することが可能です。多様体において特に重要なのが交代性を持つ双対テンソルと呼ばれるもので、座標変換に対してヤコビアンのような変換を受けます。座標変換・ヤコビアンと聞いて思い浮かぶのがdx、dyです。実はこれはものすごく意識して作られており、微小変化量というふわふわした概念で習ったdx、dyはこれらのことばを使って再定義されていきます。そして、このテンソルを多様体の各点に配置したのが微分形式と呼ばれるものです。ベクトルを各点に配置するとベクトル場になるのと基本的に同じ考えです。積分はこの微分形式に対して定義します。写像ではなく微分形式に対して積分を定義するというのがミソで、これにより座標変換の影響をうまく取り込むことができるようになる、というわけです。
多様体上の関数(微分形式)を分類して図形の性質を調べる(ドラームコホモロジー)
先ほどから強調しているように、今の時点ではユークリッド空間をいい感じに(滑らかに)くっつけただけでまがり具合などの情報は一切入っていません。それは接続という概念を入れることによってはじめて可能になるわけで、現在対象の図形的性質を調べることはあまりできないわけです。しかし少なくとも多様体は位相空間でありその性質は引き継いでいるので連結成分がいくつあるか、といった情報は接続を定義しなくても包含していそうなものです。そして、そういった図形的な性質が多様体上の関数(微分形式)の解の性質に影響している場合、逆に解の性質を調べることで図形的な性質を調べることができてもおかしくありません。
そのような考えがベースになって作られたのがドラームコホモロジーという概念です。これは多様体上の微分方程式の解の存在が多様体の位相的性質を反映していることを利用し作られた概念です。ここでは深くは入りませんが、このように接続を定義していなくても図形の性質を調べられるというのは非常に重要な性質かと思います。
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