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行・「座禅は、有益である」

①高校時代だけは、思い出したくないみじめさに溢れている。身長が155センチと低いのにもかかわらず、バレーボール部に所属してしまった。

②進学高で、成績がみんなに公開され、四百数十名中、三百番台と知れわたってしまった。

③夏目漱石だけの通期の授業があったし、芥川龍之介の母校だというのに、実は太宰治が好きだった・・・

④英語の暗誦を毎日強いられる勉強三昧の日々の逃げ場所は、「倫理・社会」(哲学思想・社会学)の世界だった。

⑤東京教育大学で教鞭をとられた文学博士・原富男先生の弟子筋にあたる小平克先生が、「倫理・社会」を受け持ち、高校でありながら、大学教養課程並みの知識を授けてくれた。

⑥根暗だったためか、強制されずとも知識を吸収できた。「曹洞禅」を実践する小平克先生の、事務職泣かせのプリントの膨大さがかえって楽しかった。

⑥古今東西の思想に総花的に触れて、我が意を得たり、と思ったのは、老子・荘子の世界だった。大学に進学し、老荘を勉強しようと思った。

⑦大学に進学し、フランス哲学に詳しい飯塚勝久先生のクラスとなり、老子・荘子を学びたいと発表したら、飯塚先生から褒められた。

⑧とはいうものの、勉学をそっちのけにして、サークル活動に打ち込んでいる日々が続き、こんなことではダメだと思い、小平先生の実践する「座禅」をして初心に戻るべきだと思った。

⑨たまたまそのタイミングで、物理学の先生が、埼玉県新座市にある「平林寺」で、一週間の参禅の機会を与えてくれた。

⑩小平先生は「曹洞禅」だったが、「平林寺」は「臨済禅」。自分が変われるならば、そこはこだわらなかった。「臨済禅」と「曹洞禅」では、印の組み方が違うことを教えられた。

⑫一週間、座禅だけする貴重な体験は、20代前半の小僧にとっては、ありがたかった。サークル仲間の女性から連絡が入っても一切取り次がない平林寺側の厳しさもますます自分を本気にさせてくれた。

⑬一週間の参禅が終わり、長かったような短かったような感じがあり、ただ達成感は充分にあった。

⑭平林寺から最寄り駅のJR武蔵野線北朝霞駅に向かうバスの中、「なぜ自分は体力・気力満タンなのに、世間の人は疲労しまくり通勤に耐えているのか?」という疑問を抱くほど、世界が変わって見ることができた。

⑮夏目漱石の『門』ではないが、座禅によって何かの答えを得ることは難しいのではないかと思う。

⑯それでも、俗世を離れ一週間でも座禅することは、自分の健康に、世界観の変革に、役立つと思う。

「座禅は、有益である」


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