なぜ漫画を無料で読むことは危険なのか?
漫画を、無料で読んでいますか?
この質問に、あなたを含めた多くの人は「はい」と答えるのではないでしょうか?わたしたちは現在、アプリやSNS、専用サイトといった様々な媒体で無料の漫画を読むことができます。ただし、“どんな漫画でも”というわけではありません。そんなとき、ネット書店や電子書籍サービスを利用して電子で漫画を購入するということもあるでしょう。
その漫画、違法コンテンツではありませんか?
電子書籍市場は年々拡大しており、そこにおいて漫画が占める存在感もまた大きくなっています。ただし、こういった有料のサービスを利用したとしても、あらゆる漫画が読めるというわけではありません。いまだ電子化されていない漫画はたくさんありますし、そもそも無料でしか漫画を読まない人からすれば、読むことのできる漫画はさらに限られるはずです。
そこで、「漫画のタイトル+無料」と調べてみるとどうでしょう。検索結果を見てみると、(少し耳慣れない名前のサイトですが)読みたかった漫画がなんと無料で公開されていることに気がつきます。大手電子書籍サービス、出版社の公式アプリでは読めなかった漫画がここなら読める!そう思うかもしれません。ですが……。
「あ、その漫画、違法かも」
そのサイト運営者は、著作権者の許可を得た上で漫画をアップロードしているのでしょうか。もしかすると、その漫画が無料で読めてしまうのは異常事態なのではないでしょうか。
「あなたは漫画を無料で読んでいますか?……その漫画、違法コンテンツではありませんか?」
インターネットには著作権者の意向を無視した違法コンテンツが無数に存在し、実に多くのひとがそれを利用しているという現状があります。それは、タダで譲られた盗品を愛用するようなものです。
しかし、違法コンテンツに触れている人々の多くは「タダで譲られた盗品を愛用する」ことなどないでしょう。仮にそんな提案をすれば「そんなことするわけないじゃんw」と一笑に付されるか、あるいは「そんなことするわけないじゃん……」と困惑されるのではないかと思います。しかし「対価を払わなければいけないものを無料で手に入れている」という点において、違法コンテンツの利用と譲られた盗品の愛用は大差ありません。
「次世代の教科書」編集部では、こういった違法コンテンツについての問題を幅広い読者に知って欲しいと考えています。漫画の海賊版サイトに限らず、現在さまざまな違法コンテンツがインターネットに溢れており、その深刻さは日に日に増しているからです。最近では「漫画村」という海賊版サイトが大きな話題となりました。「漫画村」はすでに閉鎖されていますが、その立役者となったのが運営者の特定に携わった弁護士・中島博之さんです。
違法コンテンツとの戦い、その覚悟
中島さんは「法律家としてだけではなく、著作権の権利者本人として直接戦いたい」という思いから、なんと自らも漫画制作に携わり、裏少年サンデーにて『弁護士・亜蘭陸法は漫画家になりたい』を連載しています。いくら真剣に取り組んだとしても、自分自身が漫画家になるという選択肢はなかなかとらないのではないでしょうか。中島さんの違法コンテンツに向き合う姿勢は、まさに「人生を賭けている」と言っても過言ではないでしょう。「漫画村」の裁判については、自ら100万円以上の費用を出して挑んだといいます。
驚くべきエピソードではないでしょうか。被害を受けているのは漫画家の先生なのにも関わらず、訴訟のためのお金を出していただくのはおかしいと考えたのだそうです。こちらの記事では、漫画村をはじめとした海賊版サイトの状況についてご自身の経験を踏まえて解説されています。
また、ファスト映画投稿者に対する損害賠償請求訴訟では、映画会社の代理人として5億円の賠償を勝ち取りました。その他にも、著作権侵害をおこなっているサイト運営者に削除要請、発信者情報の開示を行い、現在も運営者の特定作業は続けられています。
2023年には、日本政府主催の「ゲーム実況・配信に関する著作権セミナー」での講師を務め、法律やルールの遵守だけでなくゲームへの愛も重要だと強調する、類まれなコンテンツ愛をもつ弁護士です。さらに、YouTube上での違法なゲーム配信に関する逮捕・摘発にも協力し、法律とルールの遵守がゲーム実況において重要であると語っています。
また、ゲームに関しては実況・配信だけでなく、不正の公開なども問題になります。アカウントを凍結されたユーザーが再度アカウントを登録し直す方法などをブログに掲載した件についても、中島さんはゲーム運営会社の代理人を担当しています。
コロナ禍の巣ごもり需要に伴って海賊版サイトへのアクセスは増加し、被害額は膨れ上がっています。海賊版コンテンツは権利侵害者に広告収益を提供し、犯罪を支援するものです。中島さんはこれからも海賊版サイトの摘発を続け、違法サイトのない社会を本気で目指していくことでしょう。下の記事では、中島さんが実際に海賊版サイトと戦う一場面が紹介されています。
人々はなぜ違法コンテンツを見てしまうのでしょうか?中島さんは、次のように指摘しています。
オリジナルのコンテンツを手がけたクリエイターがどのような被害を被るのか。その被害が、漫画をはじめとした文化そのものの未来にどのような損害を与えるのか。違法コンテンツを利用する人々は、それを十分に想像することができていないのだ、と中島さんは考えています。
なぜ違法コンテンツは見られ続けているのか?……それは、違法コンテンツの利用が引き起こす被害を、あるいは被害者の姿を、多くの人は想像できていないからだ。……ということです。
そしてその被害の実態、影響を明確に言語化し、私たちがその悪質さを「想像」できるようになるべく執筆されたのが、今回紹介する『あ、そのマンガ、違法かも。』です。
「無料」は人生を豊かにするのか?
「次世代の教科書」編集部は、ネット上の違法コンテンツに立ち向かう弁護士の存在を多くの若者たちにより深く知っていただきたいと考えています。現代では、誰もが日常やビジネスといった場で違法コンテンツに関わるリスクがあるからです。
たとえば、ネット上には多くの教育資料やビジネス関連の資料が公開されていますが、これらを無断で使用することは著作権侵害になります。特に商業目的で使用する場合は特に慎重さが求められますが、現代の情報環境に慣れた私たちは「ネット上に転がっているものは自由に使ってかまわない」という感覚がどこかにあるのではないでしょうか。
本書では中島さんの生き方や弁護士としての仕事の舞台裏を紐解き、読者が楽しむだけでなく、違法コンテンツに対する基礎知識や適切な対応策を身につける教科書にもなっています。中島さんの最大の目的は、「何でも手間なく無料で楽しめるのが当たり前で、お金を支払うことは無駄だ」といった価値観に疑問を投げかけることです。また、読者が日々接するコンテンツの裏に潜む人々の努力や思いに対して、より深い理解と共感を抱くための想像力を育むことも重要な要素となっています。そんな中島さんの思いに共感し、この度本書を刊行する運びとなりました。
『あ、そのマンガ、違法かも。』 目次
第1章「タイパ」重視の世の中で起きている悲劇
・アクセスし放題のコンテンツ過多時代
・3分間の音楽が増えたワケ
・まことしやかに発信・拡散されるデマ
・発信する前に想像してみる
第2章「意外と身近な違法コンテンツ」
・タダ読みの被害が1兆円という事実
・タダで手っ取り早く先を知りたい人たち
・ファン活動の一環からビジネスライクに
・無料が当たり前になって変わったこと
・何でも無料は良いことなのか?
第3章「違法コンテンツの裏の仕組み」
・海賊版サイトはなぜなくならない?
・海賊版サイトをやる旨みを断つ
・〝建前〟から透けて見える〝本音〟
・禍根を断つ
第4章「作り手を傷つける犯罪に加担しないために」
・より身近に、自分ごととして考えてもらうには
・漫画家は収穫期の果物を盗まれた農家の人?
・押し殺される被害者の声
第5章「違法コンテンツとの戦いの記録」
・「弁護士・中島博之さん」
・身の助けとなった法律の知識
・向こう岸の見えない水面を泳ぐ
・水面下での計り知れない苦労
・運営者の特定を目指して
・「漫画原作者・ゆうきまひろさん」
・直接戦うため、自らが漫画原作者に
・漫画原作者の仕事にまつわるあれこれ
・真実に向かう意思を持ち続けるということ
・漫画のようにはならないダークサイドストーリー
第6章「なんでも無料時代」を楽しむために
・権利者が蔑ろにされないためには
・グレーな境界線
・原作者あってのコンテンツ
・瓦割りの精神で違法コンテンツに挑む
・心置きなく漫画が描ける未来
試し読みはこちらから!
全6章を読み通したとき、「コンテンツ」というものの見え方が変わるのではないでしょうか。その背後にある作り手の努力や、それが損なわれることの酷さが、容易に想像できるようになっていると思います。
仮に漫画家の筆を折らせることになったとしても、違法コンテンツを利用したいでしょうか。近い将来、漫画文化そのものが消えてしまうとしても、違法コンテンツを利用したいでしょうか。
私たちは一度、想像してみるべきかもしれません。