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ほんものを知る

 私のお母さんがよく言っていていたんです、「ほんものを知りなさい」って。美術なら教科書に載っているような作品を、芸術なら世界中でヒットしている演目を目の前すること、情報は朝日新聞と筑紫哲也さんがキャスターをやっていたニュース23で知る、そのほか観光や和装、器、さらには哲学などなど。インターネットもない時代に、よくもまぁあんなにたくさんの情報や知識を持っていたなぁと、彼女亡き今でも感心します。

 お母さんのコレクションは、本でした。彼女の知の源です。
 家の玄関と居間、寝室にも客間にも本がいーーっっっぱい。小説、図鑑、エッセイがほとんどでしたが、居間の本棚に料理とお菓子の本が少しあったのを覚えています。
 小さい私は、それらの本を読むことはありませんでしたが、お母さんが好きな料理番組を一緒になって見ていました。金子信雄さんの楽しい夕食、NHKきょうの料理、キューピー3分クッキング、上沼恵美子さんのおしゃべりクッキング。楽しい夕食は信雄さんが亡くなってから終了してしまいましたが、他の番組は今でも放送しているので、視聴習慣は母から娘へしっかりと引き継がれています。

 お母さんが料理番組を見ながらよく言っていたのは「あぁ、そろそろ◯◯が旬だねぇ」ということでした。食べもののほんものって、「旬」をおいしくいただくことなんだろうなぁと解釈しています。そういえばお母さん、すごく高価なメニューがある料理店だとか、テレビで話題になってる食べものをわざわざ買いに行くとかはほとんどしなかった。

 それぞれジャンルを極めた人の仕事が「一流」かなと思っています。その仕事の施しを受けるってことは、ものすごく貴重で、尊い。知れるものならば、知っておきたい。けれど、それが「自分にとってほんものか?」と問うと、うーん、どうだろうと腕組みしちゃう。

「世の中のこと、目や耳に入ってくることのできるだけ全部を知って、その中から自分に合うもの、本当に好きなものを見つける力を養うんだ、それが、ほんものを知るってことだよ」お母さんと過ごした20年間ほどの時間で彼女が教えてくれたのは、こういうことなんだろうなぁって、40歳になった娘は思いながら生きています。

 一本1000円くらいのだし巻きたまごもおいしいから好きだけど、お母さんのお砂糖たっぷりの焦げ目のある甘いたまご焼きが世界で一番好きです。お母さんのはもう食べれないから、今は自分で作ってます。夫のお弁当に毎回入れていますが「毎度食べてても飽きないよねぇ」が、毎回の感想です。

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家庭料理は、食べる人が身近にいて、その人をよく知りながら作るものです。これが、飲食店との大きな違いかもしれない。
 お母さんのたまご焼き、とってもシンプルですが、作り方を紹介します。あなたのおうちのたまご焼きも食べてみたいなぁ。きっと、作る人のあなたへの愛情の味がするはずです。

【材料】たまご:2個、お砂糖:大さじ1.5くらい、塩:ひとつまみ

【作り方】①材料を容器に入れて、白身を切るようによく混ぜる。②中火で熱したたまご焼き器の表面に油を馴染ませて、たまご液が一面に薄く広がるくらい入れる。③たまご液がぼこぼこと所々に膨らんできたら、たまご焼き器の手前か向こう側に向けてたまごを巻いていく(巻きかたはやりやすい方法でいいと思います)。④たまご液をうすくひいて、巻いたたまごの下にも流し込んで、③と同じように巻く。これを4回ほど繰り返す。⑤焼けたらまな板に乗せて、粗熱が取れたら食べやすい大きさに切って出来上がり。

 今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
 作り方を書きながら、どうってことないと思っていた作業にもたくさんのポイントがあるんだなぁって思いました。料理っていうのは、理(ことわり)を料(はか)ることだと、きくち正太先生の漫画「おせん」で教えてもらったのを思い出しました。それでは、また明日。


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