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おじいちゃんとシーチキン

 おじいちゃんとおばあちゃんが住む家が、静岡県の清水市(現在は静岡市清水区)にありました。訪ねに行くと毎回、「よくきたね」と迎えてくれるのがうれしかったものです。
 お仏壇にチンして手を合わせてから、みんなでお茶を飲みながらテレビを見たり、おじいちゃんがインスタント袋麺でラーメンを作ってくれたり(いつも決まってサッポロ一番塩ラーメン)、犬の散歩をしたり。おじいちゃんとおばあちゃんといること自体が特別が気がしていたから、どこか特別なところに行ったりしなくても、それでよかった。

「さて、そろそろ帰ろうか」という頃になると、おじいちゃんはおもむろに立ち上がって、納戸の中からビニール袋を出してきて「はい、これね」と渡してくれました。袋の中には、大量のシーチキンと、フルーツ缶と、みかん缶。いつも、必ずくれるので、家の台所には缶詰タワーができていたなぁ。
 缶詰はぜんぶ、「はごろもフーズ」のものです。はごろもフーズは清水で生まれた会社で、静岡県民にはおなじみ。清水が舞台の漫画「ちびまる子ちゃん」にもシーチキンのエピソードが出てくるくらいです。

 おじいちゃんは戦争で満州に行って、日本が敗戦した後もしばらく滞在して、無事に帰還してからは、ずっと清水に住んでいたと聞いたことがあります。おじいちゃんは、私のお母さんのお父さんです。戸籍を見ると、お母さんが満州で生まれていることが記されているので、おばあちゃんも満州にいたことが推測できますが、そういう話は私は聞いた記憶がありません。聞いておけばよかったなぁ。
 戦争から戻って、家族を養い、子孫も残したおじいちゃんとおばあちゃん、ふたり亡き今でも尊敬します。

 おじいちゃんは、確か、88歳で天国に旅立って行きました。ひ孫にランドセルをプレゼントしてから、間もなくのことでした。「じいさんは大往生だねぇ、いい人生だったろうな」叔父さんや親戚の大人たちは言いました。おじいちゃんが満足に死んでいったなら、私もうれしいと思いました。
 お通夜の日、おじいちゃんの家にたくさんのお花が届きました。私は、お花についていた札に「はごろもフーズ」と書いてあるのを見つけたんです。叔父さんに聞いていてみたら「あぁ、じいさんははごろもフーズの社長さんと古い友だちなんだよ」と。

 そういうことだったんだ。おじいちゃんがいつも渡してくれた、シーチキンやみかん缶の真実がわかった瞬間でした。
「おじいちゃん、すごいね」
「そうだね、いろんな人に信頼されてたんだろうね。はごろもフーズの社長さんもじいさんが好きだから、缶詰めをくれたんだろうね」
 叔父さんはにこにこしてそう言いました。

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 私にとってシーチキンはもはやソウルフード。今でもやっぱりツナ缶はシーチキンを選んじゃう。シーチキンより安価であったり高価な、他のメーカーのものも食べたけれど、舌がシーチキンの味に慣れているから、ツナ缶を巡る旅をひと回りしてシーチキンに帰ってきました。
 今回は、お母さんがよく作ってくれた「シーチキン佃煮」を紹介します。ご飯のおともやお酒のアテに。TKGに添えたり、サンドイッチに野菜と挟んだりなど、いろんなところで重宝します。

【材料】シーチキンL:70g(1缶)、お砂糖:大さじ半分強、お醤油:大さじ1、みりん:大さじ1

【作り方】①小さめのお鍋にシーチキンを油ごとぜんぶ入れる。②お砂糖、お醤油、みりんを入れて火にかけて、焦がさないように混ぜる。③汁気がいい具合に無くなったら味見をして味をお好みに整えて出来上がり。

 今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
 お夕飯を食べ終わって数分後に「明日は何を作ろうかなぁ」と考えます。そうするとね、ずっとたのしみが続くんです。そうだ、明日の旦那さんのお弁当にシーチキンの佃煮を入れよう。
 それでは、また明日。

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