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『ルックバック』と『山月記』(「書かないと、上手くならないよ」と言い聞かせる)

『ルックバック』に涙腺を崩壊させられたという報告が多数寄せられる今日この頃。

上映時間短いし、たぶん好きなやつだから観に行きたいな〜と思いながらも、自分の進路が不確かすぎて(就活迷走記とか需要ありますかね……?)、鑑賞が叶っていないキモト ハルです。

おそらく『ルックバック』は才能と対峙する物語、ひいては才能を求め続けることの物語なのではないか、と勝手に想像しています。

なにしろ原作も映画も観ていない人間の想像なので、全く間違っている可能性もありますが。

「『ルックバック』はそんな作品じゃねえ!わかったこと言うな!」と思った、そこのあなた。

わかったこと言ってすみません。

前置きはここまでにして、本題に入ります。
「才能を求め続けること」についてです。

私は文章の才能を求め続けています。
文章が、書くことが、好きだからです。

どのくらい好きかというと、文章が私にとっての信仰だと思うくらい、好きです。
文章はそれだけ絶対的で、皮肉っぽく言えば私は「書くこと」をどこか神聖視している。

でも、私にとっては、「才能を求め続ける」ってそういうことなのかなとも思うのです。

書くことが好きで好きで、書いてる時間が本当に楽しくて、少しでも上手く書きたい。

それと同時に、だからこそ、私は文章を書くことが怖い。

才能がないことがわかってしまうから。

子どもの頃から書くことが好きで、書くことを仕事にしたいと願い続けながらも、一歩踏み出すことをためらってしまう。
いつしか書くことを神聖視するようになってしまった私は、気づくと、書かないくせに書くことにしがみついてる人になっていました。

発信するのが怖い。新人賞に応募したとして箸にも棒にも掛からないのが怖い。
そうやって、書くことを恐れるから、何にもならない。
今まさに社会に出ようとする友人たちを尻目に、結局私は夢を見ているだけなんじゃないか、と打ちのめされます。
今思えば、noteをはじめたのも、そんな自分への小さな抵抗でした。

そして、幼い想いを抱えながら、いつも思い浮かべるのは、中島敦の『山月記』。

李徴が発狂して虎になってしまう(雑すぎる要約)、あのお話です。

話が逸れますが、今夏、新潮社のプレミアムカバーが出てますよね〜。
私的には『山月記』の舞台を彷彿とさせる鬱蒼とした緑とかだったら良かったのに……とも思わなくもないですが、黄色も可愛くてジャケ買いしました。

話を戻して、中島敦の『山月記』です。

出会いは、高校の国語の授業でした。
なんだか漢字がいっぱいで、中国っぽい名詞がどんどん出てきて難しそうだぞ……という第一印象に反して、その文章はめちゃめちゃ読みやすかった……!
しかも読みやすいだけではなく、文体がまた、いい。

中島敦の文才はさることながら、いちばん衝撃的だったのが、その内容です。

そう。
「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」です。
郷党の鬼才と呼ばれた李徴は詩人を志すものの「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」ゆえに、虎となってしまったのです。

李徴の過ちを象徴する、こんな文があります。

己の珠に非ざることを惧れるが故に、敢えて刻苦して磨こうともせず、又、己の珠なるべきを半ば信ずるが故に、碌々として瓦に伍することも出来なかった。

中島敦『李陵・山月記』新潮社p16

自分に才能がないことを恐れて、努力はしない一方で、自分に才能があると信じるゆえに、「みんなと同じ」に甘んじることもできなかった、とのこと。

ぞぞぞ……それってもしかして、私も同じなんじゃ……?いやいや、私は別に自分に才能あるなんて思ってもないし。

でも、この文、「何者かになりたい」と思ってしまう人間の心理と矛盾をズバリと表していると思うのです。

詩に憧れ、詩に縛られ虎になってしまった李徴の悲痛な咆哮に思いを馳せながら、「私はどうしたらいいんだろう」と考えました。
虎にはなりたくないのでね。

その結果、ある結論に至りました。

書かないと、上手くならないよ

ということです。

究極にあたりまえです。

だけれど、私は書くことから逃げていた。
下手な文を書くのが怖いからnoteの投稿頻度が落ちる。
まだ私の文章力は誰の目にもとまらないだろうと、発信すらしない。

そうやって、書く機会を自分から奪うから、永遠に文章は上達しないのです。

たしかに書くのは怖い。難しい。
だけど、書きたいと思う以上、上手くなりたいと願う以上、とにかく書き続けるしかないのかなと思います。
「書かないと、上手くならないよ」と自分に言い聞かせながら。

書いて書いて書きまくれば、一歩前に進めるかもしれないのだから。

それにしても、「俺は李徴だあああ!」と教壇で吼えていた国語の先生、元気にしてるかな。
貴殿が李徴なワケがなかろう、と生意気に鼻を鳴らしていたJKは今、立派にこじらせてますよ。
とほほ。

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