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吟味した白生地を自分好みの色に染める

最近、白生地を染める方が、本当に少なくなってきました。むしろ、白生地を見たことがあるという方のほうが少ないかもしれません。

昔、呉服屋には、初衣という習慣があり、新年に呉服屋(御福や)から長いものを受け取ると、一年幸せに暮らせるという言い伝えから、お得意様に、いつもより格安で白生地や胴裏などを一方的に呉服屋が送り、お客様は、ま、しょうがないかという感覚で、御代をお支払いくださるという、今では考えられない制度があったのです。 

そのようなことが普通に行われていた頃、当店は、染物屋でしたから、もちろんそんなことをしたことはありません。一度ぐらい、呉服を取り扱いだした頃、問屋さんに勧められて、やってみたかもしれませんが、やましく感じられて、すぐやめてしまったような気がします。

また、お嫁入りのときの嫁ぎ先のご家族へのお土産やお仲人さんへのお礼などにも、白生地は良く使われました。

ですから、どこの家でも一反や二反、白生地というものがあったわけです。特に、色紋付を作るときなど、今のように出来上がった色無地に紋を入れる方は少なく、まず、白生地を吟味し(地紋や目方など)それから、色を吟味して染め、最初から、紋は糊伏せして真っ白に抜いたものでした。

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私が、商売を手伝うようになった頃は、まだ、この白生地を染めるという方が、若干おられ、その面白さに、私は夢中になっていました。ですから、当時は、振袖といっても、寿光織の白生地に好きな色を染め、後々、訪問着として使えるように、場合によっては、色留や黒留として使えるようにと、考えて振袖を作りました。

また、お宮参りの掛け着も、三歳で使えるように、お被布分を残して、白生地を染め、三歳の時には、残りの生地でお被布を染めて作ったり、七歳のお祝い着は、大人になっても使えるようにぼかしで染めてみたりと、いろいろな工夫をしながら、お客様に提案をしていきました。

しかし、現在は、染め上がりをイメージできる方が少なくなってきており、やはり、出来上がったものの中から選びたい。顔に合わせて選びたいという方のほうが多くなりました。

今は、以前と違って、白生地も本当に種類が少なくなり、通り一遍のものしかありません。それだけ、着物を着る方が少なくなってきたのでしょう。

寂しいことです。
着る人がいなければ、作る人は減るばかりです。


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