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米国のサーチファンド動向(2022年版)②

2022年版米国のサーチファンド動向、下記2回に分けてお届けしています。

  1. 投資の仕組みとしてのまとめ(前回)

  2. サーチャーに注目したまとめ(今回)

2回目の今回は「サーチャー」に注目したまとめです。

そもそもサーチャーとは、サーチファンド(個人が投資家から資金を集めてM&Aを目指す投資活動)の仕組みでM&Aを目指す個人のことを言います。米国では30年以上の歴史があり、経営者を目指す新しいキャリアとして定着しています。
ではどのような人がサーチャーとして活動しているのか、米国における実態を見ていきましょう。


MBA保有率

1980年代にスタンフォード大学のビジネススクールで生まれたサーチファンドの仕組みは、ビジネススクール卒業生の新しいキャリアパスとして注目され発展してきました。米国のビジネススクールでは、サーチファンドに関するクラスがあることも珍しくなく、卒業後の有力なキャリアとして定着してきているようです。
そのような背景もあり、現在に至るまでサーチファンドに挑戦する人材の80%以上がMBA保有者(ビジネススクールの卒業生)となっています。

サーチャーの年齢

サーチファンドにチャレンジする年齢は、20代後半~30代前半で75%を占めています。これは、ビジネススクールを卒業する一般的な年齢に直接影響されています。
MBA取得直後の進路としてサーチファンドにチャンレジすることが一般的な米国の実態が、そのまま表れた結果となっています。

サーチャーのバックグラウンド

サーチャーのバックグラウンドとしてのキャリアは、PEファンド、コンサル、投資銀行といった、経営・投資に近い環境を経験をしている方が半数程度となっています。
その他、事業会社でのマネジメント職の方、アントレプレナー経験者など様々なキャリアの方がサーチファンドにチャレンジしています。
このデータ上では、エンジニアやアカデミア出身の方は多くは無いように見受けられます。

米国のサーチファンドでは、M&Aと経営の全プロセスをサーチャーが独力で主導することが一般的です。そうすると、M&Aの全プロセスに知見のあることが求められ、近しい経験を積んだPEファンド等の経験者の方がチャレンジしやすいといった背景があると考えられます。

(ちなみに、この人的要件は(特に日本において)サーチファンドが普及するボトルネックになりかねないと考えており、弊社サーチファンド・ジャパンでは、より幅広い人材がサーチファンドにチャレンジできる仕組みを構築しています。)

ジェンダー

2015年くらいまでは95%以上のサーチャーが男性でした。
近年は少しずつですが女性サーチャーの割合が増えているようですし、サーチファンド組成数自体が増えていることを鑑みると、絶対数としての女性サーチャーの数は確実に増えています。(近年のサーチファンド組成数=平均60件/年とすると、10%強=7名程度の女性サーチャーが毎年誕生していると推察されます)

一人サーチャー/ペアサーチャー

「個人が投資家の支援を受けてM&Aにチャレンジする」のがサーチファンドの基本ですが、一人ではなく複数人でチームを組んで、サーチファンドにチャレンジする場合も珍しくありません。
複数人で組成するサーチファンドの方が、投資としてのパフォーマンスがよいという統計もあります。

個人としての強みや弱みを、複数人で補完しあう狙いなのでしょう。
また、経験者でないと分かりづらいかもしれませんが、個人でM&Aを推進するメンタル的な負荷は非常に大きいです。最大で2年に及ぶサーチ活動期間、また経営者として孤独な立場になるM&A後の期間、それぞれにおいて仲間がいることのメンタル的なメリットは、外からは見えにくい重要なポイントだと感じています。

一方で、ツートップ経営の難しさを目の当たりにすることも少なくありません。うまくいっているときは良いのですが、難しい局面を迎えた時に、そのペアが信頼関係を崩さず乗り切れるのか、もし一方が別の道を歩むことになった場合に当初のストーリーは崩壊しないか、など懸念点が頭に浮かんでしまうことも事実です。


日本では?

米国におけるサーチャーの実態を見てきましたが、日本での実態はどうなのでしょうか?

日本でサーチファンド投資が活発化してきたのはここ数年で、まだ統計的な傾向がとれるほどの実績はありません。また、サーチファンド黎明期の日本では投資家層や投資スキームも米国とは異なるため、サーチャーに求めるものも投資家によって様々です。

従って、「日本の実態」とまとめることは難しいですが、弊社サーチファンド・ジャパンが支援するサーチャーに関しては、必ずしも米国の基準と同じではありません。上記でまとめた軸で比較すると・・・

  • MBA保有 →選考基準としては特に重視していません

  • 年齢 →年齢制限はありません。20代~50代までのサーチャーが活動しています。平均としては、米国よりやや年齢層は上がります

  • バックグラウンド →メーカー、商社、コンサル、起業経験者、サービス業、上場経験者、経営企画/M&A担当・・など様々です

  • 性別 →今のところ男性のみです(女性サーチャーも歓迎です)

  • 一人/ペア →今のところ一人サーチャーのみです

サーチファンドはあくまでサーチャーが能動的にM&Aを推進するのが基本ですが、サーチャーの活動を”強力にサポートする"というのが私たちのスタンスです。
サーチャーにはM&Aのプロになってもらいたいわけではなく、投資先を見つけるソーシング力のみを期待しているわけでもなく、経営者として活躍していただくことを期待しています。

従って、M&Aの専門的なプロセスや知識は不足していても我々がサポートする。サーチャーに期待するのは、投資候補先の魅力を発見し、M&A後に企業価値を上げてくれるかどうかという点に重きを置いています。

(といった視点で、我々がサーチャー候補とどう向き合っているのか、は別のトピックになるので、また別の機会にまとめてみたいと思います。)


2022年版、米国のサーチファンド動向のまとめでした。
より詳細に興味のある方は、他の記事や原典(Stanford GSB 2022 Search Fund Study)をご覧ください。


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