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少年が主人公である理由 『君たちはどう生きるか』 で描かれたもの

 『君たちはどう生きるか』は、「眞人」という少年が主人公です。
 これまでの宮﨑監督作品は、「ナウシカ」「キキ」「千尋」など、少女が活躍する物語が目立っていました。しかし、宮﨑監督は以前から、少年を主人公に据える必要性を感じていたようです。

 書籍『続・風の帰る場所』に、「もう少年が主人公の映画しか作らない」というタイトルのインタビューが掲載されています。雑誌『CUT』2010年9月号に掲載されたインタビューが元になっています。

 やっぱり少年は悲劇的なもんだと僕は思うんです。だから本当の少年に迫っていったら、悲劇的なものをどうやってエンターテインメントにするんだっていう、ものすごい難問に到達せざるをえなんですよ。

『続・風の帰る場所』より


 なぜ少年が悲劇的であるのか。その一端に触れているインタビューが過去にありました。
 スタジオジブリが発行している小冊子『熱風』2006年10月号。宮﨑監督が影響を受けたイギリスの児童文学作家、「ロバート・ウェストール」を特集した号に掲載されているインタビューです。

 僕が彼の作品を読んでひとつ思っていることは、「少年の忠誠心」っていうものを彼が認めているということです。日本は敗戦後の民主主義の中でそれを否定したんです。無理もないんです。少年の忠誠心は昔から悲劇を生むんです。
 会津白虎隊の自刃も、ちゃんとした大人がひとりついていれば生じなかったはずです。うまく言えなくてもどかしいんですが、同じようなことが世界中にあった。今も起こっている。この瞬間にも、自分の身体に爆薬をまきつけている少年もいるはずです。
 役に立ちたくて、何かとゴタゴタを起こすんです。悲劇は少年の忠誠心は大人に利用され、国家に利用され、組やグループに利用されつづけていることです。戦時中の大人達や国家のかわり身の早さに忠誠心を裏切られた。戦後民主主義の中に固い核にその裏切りへの不信が強く固まっている。でも、少年は忠誠心を持っているんですよ。それが少年なんだと僕は思っている。

『熱風』2006年10月号より

 宮﨑監督は、自身を「遅れてきた軍国少年」と称することがあります。終戦時4歳だった宮﨑監督は、自分がもっと早く生まれていたとしたら、望んで戦地に赴いたのではないかという疑念を抱えていました。
 宮﨑監督が手掛けた『ブラッカムの爆撃機』に寄稿している漫画でも、その少年の悲劇性に触れ、また肯定もしています。


 多くの人の目に触れる映画は、エンターテインメントでなくてはならない。しかし、少年に潜む悲劇性をきちんと描かなければならない。宮﨑監督は、その二律背反への答えとして、「悪意」を持った少年、眞人を生み出したのかも知れません。

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