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雨が降るとテレビが映らない部屋

初めての一人暮らしは17年前。
私は大学進学のために、九州の田舎から四国のお城近くに引っ越しすることとなった。
初めての一人暮らしの家探しは容易ではなかった。入学手続きのために母と四国に飛行機で渡った。地元から四国はそんなに簡単に行ける場所ではない。そのため、手続きと共に家探しも行わなければならなかった。そして、母の納得できる物件出ないといけない。何故ならお金を出すのは母(正確には父・笑)だからだ。

数件のアパートを内見したが、大学に近い物件はベランダが鳥のフンだらけでこれでは洗濯物が干せないというレベル。幸せの象徴、公害凄すぎ。
他にも物件を見るが、納得できない。

そして大学から少し離れるが、自転車で30分以内には行ける城の西側の土地の物件を見に行った。その物件は当時の築年数は18年だった。4階までありエレベーターも古いがある。部屋は2つ案内された。
最初に案内された部屋はワンルームで広かった。築年数は古いがリフォームされており、綺麗であった。だが問題があった。昼間に見に行ったにも関わらずものすごく暗かった。昼間でも電気をつけないと暗い。暗いのが気になったが、今のところ他の物件よりも良かった。

そして、次の部屋に向かう。その暗い部屋の隣だった。
その部屋はさっきの部屋と打って変わって、明るい。和室とキッチンを薄い昔のガラスのドアで仕切ってあった。ちょっと「昭和」な感じがするが「明るい」だけで印象は良くなる。ベランダに出ると、隣のマンションが立っておりそのせいで隣の部屋が暗かったのだが、この部屋はマンションが被っていないので明るいし、鳥のフンもない。家賃も共益費合わせても3万未満という値段。相場がよくわからない。私たちはすぐに即決した。決めて帰ろうとしていたら、別の女性が内見にきた。私たちと同じように暗い部屋から内見していた。タッチの差だった。
内見にきた女性は私の隣人となった。

初めての一人暮らしは楽しかった。
今でも思うが、私は「一人」が好きだ。ご飯を食べたくなければ食べなくていいし、お皿も好きな時に自分の分だけ洗えばいい。
実家にいると、家事は母まかせだったのだが、
「女の子でしょ、手伝いなさい。」
と言われ、テレビを涅槃像で見ている兄たちには言わない。
なので「なんで私だけなん?」と切れて何もしなかった。
一人暮らしとなると、性別に関係なく料理はしなくてはいけない。
母が料理本を買ってきて本にあったレシピでスパニッシュオムレツを作ったのだが、母の料理の方が正直美味しい。何故母はわざわざ本を買ってきたのだろう。

また夜遅くまで遊んでも何も言われない。
私の母は厳しい人だった。
大学を卒業した後に転職で実家で生活していた時期があったが、もう20代半ばなのに、21時になると「帰ってこい。」と連絡してくる。その時は、0時前にこっそり帰って2階に上がりそのまま寝ていた。次の日「朝帰りした」と怒られた。
「心配なのよ」と母を擁護する意見もあるだろう。
だが、私はそんな縛られた感じがとても苦痛だったのだ。
故に高校の同級生が半年後に私を見て、「学校生活楽しんどるやろ。」と言った。

私は縛ってくる親のスネを当たり前のようにかじりながら学校生活を楽しんでいた。私の田舎では自転車通学できなかった(というか坂の上にあるので自転車で登るの無理)自転車通学。友達と話しながら自転車を漕ぐっていうことも新鮮だった。部活動も楽しかった。

しかし、充実していたのだが、この日当たりの良い格安物件にはちょっとした「罠」があった。

私は部活で夜に帰ってくることもあった。ある雨の日だった。結構雨が降っていたと思う。私は3階の自分の部屋に向かおうとエレベーターのボタンを押した。
「・・・?」
エレベーターは動かない。しょうがないので、階段で3階まで行った。その時、異変に気づいた。夜とはいえ深夜ではない。だが、部屋へと続く共用の廊下は真っ暗なのだ。最初はよくわからなかった。家に帰り、テレビをつけるとテレビは砂嵐になる。
「なんでテレビが見られないんだろう?」
その日は夜だったので、もうそのまま寝た。
翌日、テレビが見られないことを会社に連絡した。

すると、管理会社から言われたのは、共用部分の電源が雨で停電していたことが原因だった。あ、だからエレベーターも動かないし、廊下も暗かったのね。

その日のうちにテレビは見られるようになった。
だが、強い雨が降る日はしょっちゅう共用部分が停電するのだ。
停電しているかどうかは、エレベーターと廊下でわかる。
この停電が結構困る。何故ならテレビが映らなくなるので、録画機能を使っても砂嵐しか映っていないのだ。故に雨の日の私は外出先でいつもソワソワしていた。

あの「停電」さえなければ、最高の物件だったと思う。
半年後、私は2年目からキャンパスが変わるので早めに引っ越した。

現在35歳、あのアパートも築35年となっている。
まだあの建物は残っているんだろうか。
そして今でも雨の日は停電しているんだろうか。

#はじめて借りたあの部屋

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