見出し画像

裸の王様と私 ー珍獣男子の観察日記ー

『昨日はSEXしたぜ』
とタロウからラインでメッセージが送られてくる。
「だと思った。」
とシノブは普通に返す。
タロウの生物学的性別は間違いなく男子で、シノブも間違いなく女子だ。
(こんなラインを私に送ってくる、その意図は何なのだろう。)
「で、何で報告してくるの?」
とシノブが尋ねると、
『ちんこ』もしくは『もててしょうがない』くらいしか返ってこない。
まともな質問の答えは100回に1回くらいの割合でしか返ってこない。

シノブより先に生まれてきて、もう同級生の中には成人した子どもを持っていてもおかしくないタロウは、独身だ。顔も悪くないし、スポーツをやっているので体もしっかりしている。タロウ曰く、合コンでモテモテだそうだ。モテモテアピールをシノブにしてくる。しかし、シノブはそれを聞いても
(じゃあ、何でお前は結婚できないんだ)
としか思わない。

タロウとシノブの出会い

タロウとは、婚活アプリで知り合った。
タロウの写真の顔はそれなりに顔はよかったので、シノブは警戒していた。何故ならシノブは以前、イケメン写真垢と連絡を取り合う中で別サイトに誘導された結果、サクラ被害にあい5万円ほどクレジットで支払わなければならない事態になった。しかし、シノブは途中でおかしいと気づいてスクショを撮りまくっていたことと、得意の記憶力でA4用紙2枚にビッチリと経緯を書いて、消費者センターに訴えて3000円で和解までしか持っていけなかった、という苦い経験がある。
そしてシノブはとことん男運が悪い。2週間付き合っていた男性に性感染症をもらい、童貞の筆下ろしに利用されたり、豚に真珠という言葉を送りたいくらいのグッチ好きモラハラ男にモラハラでメンタルやられたり、とダメ男地雷の草原を裸足で駆け走る人生を送っていた。

警戒していたシノブは、タロウにサクラではないかと疑いながら出身地が近いことから、地元ネタを話すとちゃんと返信があったのでサクラではないことはわかった。ラインのアカウントを交換し、タロウの仕事の後に出会うことになった。タロウは写真のままだった。
しかし、最初のご飯はまさかの定食屋だった。タロウはここのご飯が好きなんだそうだ、理由はご飯のおかわりができるから。ご飯は確かに美味しかった。しかし、シノブはこれまでの婚活で定食屋に連れてこられたのは初めてだったので、戸惑っていた。シノブには、タロウは普通に思えた。ただ正直言うと、ちょっと頭悪そうだな、と言う印象は持った、話が時々噛み合わないからだろうか。ただ、美味しそうにご飯を食べる姿と、年齢の割に若い姿は、シノブに取って好印象だった。話が噛み合わないのは、緊張して話が聞こえないんだとシノブは思った。タロウはご飯の後、スポーツの遠征に向かうため二人は別れた。
今思うと『ちょっと頭悪そうだな』っていう感は間違っていなかった、とシノブは振り返る。

タロウの変わっているところ①

シノブは最初にタロウのおかしさに気づいたのは、時間の感覚だ。
タロウ時間が流れている、とシノブは思っている。

タロウは遅刻魔だ。タロウは待ち合わせの時間に来たことは一度もない。
そしてタロウは人を待たせているという感覚がないらしく、タロウの『あと10分』は30分以上だと思って良い。
ある時、タロウの家で待ち合わせた時の話だ。シノブはタロウの家の近くのコンビニで待っていた。
シノブは自分が遅刻しないように余裕を持って動く人間だった、予定の30分前につくことは珍しくない。集合時間の10分前にシノブはタロウに、
「着いたよ、コンビニで待っているね。」
と送った。返ってきたラインは、なんと、、、、、
誕生日の記念に撮ったというタロウの写真だった。
衝撃的だった。シノブはわけがわからなかった。
(なぜこのタイミングで?)
シノブは5分前行動が当たり前の人間だったので、10分前なら準備をしている時間である。しかも、待ち合わせの相手は集合場所にもう着いている。そのタイミングで写真を送ってきた。そして、
『この間撮った写真ができたんだ』
のメッセージであるとりあえず、シノブの中では
(とっとと準備しろ、来い)
だったが、その頃にはだいぶタロウのことがわかっていたシノブだったので、
「お見合い写真だね」
とイケメンスタンプと共に返しておいた。
当然遅刻してきた、もはや想定内であった。
そして、タロウは全くと言っていいほど、遅刻には謝らない。

タロウは自分中心で動くので、自分のやりたいことに熱中する。
シノブはタロウの練習に夕方から夜10時まで付き合わされる。
シノブはその間ウォーキングをするのだが、お陰で練習の日は歩数は1万歩を超える。

シノブの目的

タロウのおかしなところは言い出したらきりがない。
シノブの周囲はタロウと会うことを止める、シノブもタロウがおかしいことはわかっている。

しかし、シノブ自身も実は変わっていた。
シノブはタロウと出会った頃、心の病で疲れていた。シノブは相手の嫌なばかりところばかり見える自分が嫌だし、数々の否定で自己肯定感が低くなっていた。シノブは最初、本で読んで相手のいいところを見つけよう!と思って、タロウと関わっていた。タロウのいいところも自分なりに感じている。タロウとの関わりもあって、心が元気になったのは事実だ。
シノブは興味で生きる人間で、シノブの特性でもある。
シノブにとって、タロウの生態は興味をそそられる『珍獣』なのだ。
なので、シノブはタロウという珍獣男子を飽きるまで観察していくつもりである。

これからの働き方を考えながら、働くのをおやすみしています。 サポートしていただけたら、ちょっとお菓子、買ってもいいですか☺️