ヤックルに乗りたい女の感想

一生に一度は映画館でジブリを。

なんて素敵な催しなのかと、この企画に関するネットニュースを読んだときは思わず目頭が熱くなってしまいました。スタジオジブリの作品はまさにバイブルですが、私は2000年代より前のジブリ作品を劇場で鑑賞したことがありません。初めて映画館で観たジブリ長編作品は2002年の猫の恩返しだったと記憶しています。映画というものはやはり大画面で視聴することを前提に作られていますので、公開終了作品をこうして再びスクリーンで拝めることを大変嬉しく思います。スタジオジブリを始め様々な作品のリバイバル上映が行われているのですから、こんなご時世でも悪いことばかりじゃないなと感じる今日この頃です。

前置きが長くなりましたが、先日「もののけ姫」を鑑賞してきましたので感想を。スクリーンで観ると改めて素晴らしいと思えるシーンが多数ありましたので述べていきたいと思います。非常に個人的な好みの話になっていますことをご了承下さい。

[肉体の生死の描き方]生きている肉と死んでいる肉の描きわけが最高に好きだと叫びたい。もののけ姫はテーマの一つに生死があり、劇中でも死者や負傷者が数多く登場します。中でもモロやイノシシたち、死にゆく獣の描き方が非常にリアリティに溢れていると改めて感じました。私は過去に犬を3匹看取った事があるのですが、まさにあんな感じなんですよね。乙事主のヤニの溜まった目や骨の浮いた身体、モロの黄ばんだ艶のない毛や落ち窪んだ目。あの2匹の神はもののけ姫作中で死を象徴する存在であり、同時に死を受け入れている者と死を恐れる者として対になる存在でもありました。幼い頃はエボシ御前が悪者だと思っていたので森の獣たちが死ぬことが非常に悲しかったのですが、大人になってから観るとあれはシシ神という誰にでも平等に訪れる死が必然的にあの2匹にも訪れただけなんだなと納得できました。この2匹は死が近い生き物だと理解できるだけの知識があったからです。そしてあまり多くは語りませんが、冒頭タタリ神討伐シーンでナゴの守の姿が露わになった時、その肉体の艶が生きているそれとは全く別物でゾッとしました。九相図を見た気持ち。

[戦闘シーン]私は時代劇が大好きなので、一騎討ちや名乗りなどちょっとしたシーンにときめいてしまいました。弓矢がアシタカに向けて放たれるシーンで、矢尻がこちら側に向かってくるような演出が2、3あったと思うのですが、あのシーンは大きなスクリーンで観るとさらに迫力が増しますね。弦のしなる音や鏑矢の甲高い空気を裂く音には鳥肌が止まりませんでした。アシタカなんであんなに地侍に狙われているんだろうと思っていましたが、あれヤックルに乗っているからなんだなと今更ながら気がつきました。騎乗の兵が討たれると統率が乱れる様子、乱取りをする兵士、タタラ場や市井の人々のやり取りから室町-戦国時代の香りを感じられて非常にワクワクしました。「やめとけ、矢の無駄だ」といったおじさん、お気に入りです。

[エボシ御前]前述したとおり、私は幼い頃この女性を悪者だと思っていました。大人になるにつれエボシ御前は決して悪ではなくかといって善でもない1人の人間として非常に魅力的なキャラクターだと思えるようになりました。が、一つ疑問に思っていたことがあります。神仏に興味がないうえに「このままタタラ場で鉄を作り続ければ、シシ神の森の獣たちの力も弱まる」と言っていた彼女がなぜシシ神退治を決行したのか。今まで深く考えたことはありませんでしたが、もしかしたら権力には勝てなかったのかもしれないというシンプルな結論に至りました。力が弱まっているとはいえ朝廷からの要請に応えないわけにはいかず、苦渋の決断で里の女性たちに石火矢を託したのかもしれないと思うと胸が苦しいです。もののけ姫本編終盤で彼女の口から「ここをいい村にしよう」と出たことが本当に救いでした。タタラ場がこれからどのような村になるかはわかりませんが、彼女がいつか石火矢を手に取らなくなる日が来ることを願わずにはいられませんでした。

長々となりましたがここまで読んでくださりありがとうございました。今回の感想は以上になりますが、「シュナの旅」や「日本の歴史をよみなおす」を読んでから視聴するとより一層楽しめるのではないかと思ったので、また後日2度目の鑑賞に行きたいと思います!


それでは


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