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フランス、ボルヌ新首相が誕生、マクロン政権第2期始動へ。

 フランス・マクロン大統領は16日、同日付けで辞表を出していたカステックス首相の後任として、エリザベット・ボルヌ労働大臣を新首相として指名し、新内閣の組閣を命じた。マクロン大統領は、すでに大統領選挙中から新しく発足する政権では女性の首相を指名する意向を示していたが、マクロン氏と同じ社会党系の政治的バックグラウンドがあることを前提とすると新首相としての候補者は複数おり、その中からボルヌ氏が選ばれたのは、氏が、社会党オランド政権時にエネルギー・環境相であったセゴネール・ロワイヤル氏の私設秘書官を務め、その時点からエネルギー政策に一環して深く関与してきたのが一番大きな理由だろう。

 大統領選挙中にマクロン氏は、新政権で特に再生エネルギーを積極的に推進し、その舵取りを自分が選ぶ新首相が担うという構想を明らかにしてきた。伝統的に原子力が中心となってきたフランスのエネルギー政策において、原子力関係の勢力を牽制して新たに風力と太陽光を中心とした再生エネルギーの導入への舵取りを積極的に行ったのがオランド政権であり、その様な背景事情からも、マクロン第2期政権で再生エネルギーの積極推進に取り組むためには、ボルヌ氏は最適任であると思われる。

 しかし、大統領選挙中に明らかになったように、現在、フランス国民の最大の関心事は進行するインフレからくる生活の不安、そして年金受給開始年齢問題だ(マクロン政権は受給開始年齢を64歳ないし65歳への引き上げを検討しているのに対し、国民の間で不満が広がっている)。6月のフランス議会選挙が間近に迫っており(6月12日および19日の2回にわたって行われる)、政権としては、政策実施の直接の矢面に立つ首相が、こうした大統領選挙で明らかになった現状の課題に積極的に向き合う必要があり、新首相の任務はいきなり山場に差し掛かることになる。

 ボルヌ氏は中央官僚として主に国土省畑を進み、その後、社会党ジョスパン首相に補佐官として登用されたのを皮切りに、おなじく社会党のオランド大統領、ロワイヤル氏などの現在のマクロン氏の与党につながる主要な政治家にテクノクラートとして引き立てられた。第1期マクロン政権下では、交通相、環境・エネルギー・気候変動対応相、そして、労働大臣を歴任した。一環して、社会党の系譜につながっているが、議員としての政治的バックグラウンドは全く無い(ボルヌ氏は、マクロン氏与党の指導者を受け継ぐ予定であり、今回のフランス議会選挙で初めて選挙戦に出馬をする)。近づくフランス議会選挙をにらんだ直近の政権運営に関しては、マクロン氏、そして、その後ろ盾であるオランド氏が上手く舵取りを行う必要があるだろう。

 フランスが第5共和制になってから、ミッテラン政権下で首相を務めたクレッソン氏についで、ボルヌ氏は2番目の女性の首相となる。第5共和制下のフランスでは首相職は実質的に政策を切り盛りする責任者として重責を担い、その分、国民からの風当たりも非常に強い職務だ。評価が高まった首相には、大統領への道筋も見えてくる。ポンピドー、シラク、両大統領は首相を経て大統領に就任をしている。逆に、ジョスパン、ド・ビルパン、両首相は大統領への呼び声が高まったものの、与党内の政治力学で大統領選への出馬を断念した経緯がある。

■参考資料:  Le Président de la République a nommé Mme Elisabeth BORNE, Première ministre et l’a chargée de former un Gouvernement. 16 Mai 2022, Élysée

(Text written by Kimihiko Adachi)

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