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ロシア天然ガス: ロシア大統領令(Decree No. 172)、4月以降ヨーロッパ諸国に適用される支払い条件について。

 ロシア大統領が3月31日に署名した大統領令(Decree No. 172)により、非友好国(対ロシア制裁に加わっている国をさす)のロシア天然ガスの輸入者に対して4月1日付け以降からの取引はルーブルでの決済を義務付けられることになった。

 大統領令には、具体的な決済手順として、ヨーロッパ諸国むけとみられる外貨を利用する手順について記載があり、それによるとロシア天然ガスの輸入者は、ガスプロムバンク(ロシア国営ガスプロムの関連会社として設立されている銀行、天然ガス取引の決済業務を行っており、制裁の対象外)に外貨建てとルーブル建ての特別口座(名称、type K)を開設する必要があり、まず輸入代金全額を外貨建てtype K口座へ送金を行い、そのうえで口座に届いた外貨をガスプロムバンクがモスクワ為替市場(Moscow Exchange MICEX )でルーブルへ交換し、それをルーブル建てtype K口座にデポジットし、それを最終的に輸出者であるガスプロムが引き落とすという手順になっている。ヨーロッパの輸入者はユーロで最初に送金をするので表向きはユーロによる支払いのように見えるが、特別口座を開設してルーブルに替えたうえで最終的にガスプロムが引き落とすので、実質的にはルーブル建ての支払いであることに他ならない。

 ロシア側からの要求に対して、ロシアのガスへの依存度が高く、かつ、政治的にロシアとの親和性のあるハンガリーは、早々とロシア側の要求を受け入れる声明を出していた。それに対して、ロシアのガスへの依存度が同様に高いドイツは、リンドナー財務大臣から4月21日の段階で、ロシア側の要求を呑まないようにドイツ企業に求める声明を出し、EU内でロシア側の要求に対する姿勢が割れているようにみえていた。こうしたなかで、EU欧州委員会は4月22日、EU域内の企業は、ガスの輸入代金の決済に関してロシア側の要求の通りに行ってもよい、つまり、ロシア側の要求通りに支払いをユーロ(あるいは米ドル)で送金したうえでルーブルに替えてガスプロムが引き落としても、EUがロシアに対して科している制裁を破ることにならないとの見解を明らかにした。したがって、ドイツの主要ガス輸入者(Uniper等)もガスプロムバンクに特別口座を開設し、ユーロ送金の後でルーブルへ替えガスプロムが引き落とす手続きを行うことになるだろう。

 今回のロシアの要求に対するEUの判断は、ユーロ建てによる支払いの原則を厳格に貫こうとしてロシアとの間での摩擦を高めることでヨーロッパ内での天然ガス供給の安定性についてエネルギー事業者や市民の間で不要な社会不安を引き起こさないよう配慮をしたものだといえる。

(Text written by Kimihiko Adachi)

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