見出し画像

ドイツ・シュレースヴィヒ-ホルシュタイン州議会: CDUと緑の党が連立協議入りへ。

 5月8日に州議会選挙が行われたドイツ最北部、デンマークと国境を接するシュレースヴィヒ-ホルシュタイン州では、第1党の座を維持したキリスト教民主同盟(CDU)が主軸となり、今回第2党に躍進した緑の党を巻き込み選挙直後から連立協議が行われてきた。今回の選挙でCDUは大勝し過半数に1議席足りないだけの34議席を獲得したため、連立協議は理論的には1議席を補足すればよく、強気に出られるはずであった。

 しかし、蓋を開けてみると、強気に出たのは第2党の緑の党の方であった。最初に連立協議を動かし始めたCDUは、緑の党とだけではなく、選挙前と同じ連立構成の維持、すなわち、独自民党(FDP)も加えたCDU、緑の党、FDPの3党での連立を持ち掛けた。しかし、できるだけ自党のマニフェストを新政権での政策に反映させたい緑の党は、3党ではなくCDUと緑の党の2党だけによる連立にしか応じないと回答し、CDUが折れるかたちで今週から2党だけによる連立協議に入ることで両党は合意した。

 今週に入って行われたCDUと緑の党の出だしの協議で、2党は合同で連立協議で目指す政策骨子を5月24日に文書で発表したが、その内容をみると、丸々緑の党のマニフェストが反映されたといっても良い内容となっている。3ページの文書にまとめられた骨子は、再生エネルギーの拡充においてシュレースヴィヒ-ホルシュタイン州がドイツ国内の先頭を走ること、パリ協定を温暖化対策のメルクマールとして絶対化すること、エネルギー政策を推進するための優秀な人材を広く集める(国内からだけではなく世界からも)、そのために働く場として魅力のある州にする、暮らしやすさを保障するための良質で廉価な住宅供給、良質な公共交通網の拡充、所得格差に左右されることのない良質な教育および幼児保育の提供、などから構成されている。

 再生エネルギーの更なる拡充と戦時下の特殊要因によるエネルギー安全保障政策において、緑の党以外で政策立案ができる政党はいないのが現実だ。したがって、選挙に大勝したCDUといえども緑の党抜きでは現実的に政策を立案遂行することはできない。緑の党も、そうした事情をわかって、CDUとの連立協議では強気に出ているといえよう。

 今後のCDUと緑の党の連立協議は、この政策骨子を肉付けしていくかたちで、政策の詳細と導入する新たな制度、必要な予算とその工面、そして両党の所轄責任分野と閣僚ポストの配分までを詳細に合意し連立政権政策文書としてまとめ、それに基づき実際の政権運営が行われていくことになる。また、連立協議の内容は、節目ごとに両党の一般党員集会に諮られ、支持者の合意を得てまとめられていくことになる。

 完全なマニフェスト選挙で争われるドイツ式議会制民主主義においては、選挙後に行われるこの各党間の連立協議が実際に成立する政権が行う政策の細部まで詰めることになり政治的に大変重要だ。シュレースヴィヒ-ホルシュタイン州の有権者はこの過程をつぶさにみて、あるいは党員として政策作成過程に関与することで、新政権樹立に直接・間接に関与していくことになる。連立協議の政策合意がまとまり新政権が始動するのは6月下旬頃になるだろうが、その間CDUと緑の党は長丁場の協議を行うことになる。

 なお、シュレースヴィヒ-ホルシュタイン州の1週間後に州議会選挙が行われたノルトライン・ヴェストファーレン州でも、緑の党が連立協議で主導権を握る同じような展開となっており、やはりCDUと緑の党の2党だけによる連立協議を行うことで合意している。ノルトライン・ヴェストファーレン州では、緑の党と社会民主党(SPD)およびFDPの3党での連立可能性という選択肢もあったが(また、伝統的には緑の党とSPDの組み合わせは相性が良いという事情もあったのだが)、今回、緑の党は3党より2党での連立の方が自党のマニフェストがより強く反映させられるという事情で、ノルトライン・ヴェストファーレン州でもCDUとの2党での連立の選択肢を優先させることとなった。

■参考資料: Gemeinsames Sondierungspapier, GRÜNE SH, 24.05.2022

(Text written by Kimihiko Adachi)

(C)_Welle_Kimihiko Adachi_all rights reserved_2021_2022(本コラムの全部または一部を無断で複写(コピー)することは著作権法にもとづき禁じられています。)


最後までお読みいただきありがとうございます。