【五島紀行8】三日目 20160129 教会巡りエトセトラ前半

頭ヶ島キリシタン墓地→頭ヶ島教会→マリンピア展望台→矢堅目の塩本舗

旅の三日目、興奮からか5時半に目が覚める。唐突にぱっちりと目が開いた。6時には起きようと思いながらも、今朝もふわふわもこもこのお布団が気持ち良すぎて結局7時までだらだらと寝てしまう。今日も朝ご飯のメニューは昨日とほぼ同じだった。しっかり頂いて8時少し過ぎに玄関に出る。女将さんが「今日はどこに行きよると?」と声をかけてくれた。どこそこです、と答えると、「あの辺はアップダウンが結構あるけん、雨も降っちょるし気を付けてね」と見送ってくれた。行ってきまーす、と返事をして出発する。天気は雨だが女将さんの見送りで元気に出かける事ができた。

初日、二日目とかなりスムーズに回れているので色々とスケジュールや回る順番を変更した結果、同じところを行ったり来たりするようなルートになったところもあったけれど、それもまた旅。滅多に来られない土地を何度も走っているうちに土地勘も出てきて楽しくなってくる。

今日は島の中部〜東部へ。目玉は何といっても頭ヶ島教会。西日本唯一の石造りの教会で、事前予約が必要な教会のうちのひとつだ。宿からは車でおよそ40分。昨日よりも激しさを増した雨の中を今日もひたすら山の方へ山の方へと走っていく。頭ヶ島の端には、今はもう使われなくなった上五島空港がある。飛行機が飛んでいた頃は小型機で長崎本土とを結んでいたと聞いた。教会に向かう手前に空港方面と教会方面とに分かれる分岐点がある。空港も気になりつつ、教会の方へと向かう。

案内板の通りに車を進める。山を登って、すぐに下りの道に入った。間もなく海が見えてきた。やがて道幅が広がり、道路はそのまま広々とした駐車場へと繋がった。ここで合っているのだろうかと戸惑いながら車を停める。これまで回ってきた教会の中で一番広くて立派な駐車場だ。山奥な上に島の外れの外れなのに、と思ったけれど、世界遺産暫定リストに登録されているだけあって手入れも行き届いているのかな、と想像する。

事前のGoogleマップでの算出では頭ヶ島教会からキリシタン墓地へは車で17分と出ていたので、地図上で見ると近いけれど車だと相当遠回りしないと行けないものなのかと思っていた。車を降りると、先に目に入ってきたのはキリシタン墓地への案内板だった。駐車場の目の前にもう墓地が見えている。なぁんだこんなに近いんだ、と少し肩透かしを食らいつつ、今日も時間短縮の幸運に恵まれた事に感謝した。海を目の前にして広がる墓地は、幾つもの墓石が建っていてそのうちの半数以上がかなり古びた色をしていた。中に入って一つ一つの墓石の文字を読む事も恐らくはできたけれど、かつての人々が眠る場所を踏み荒らしてしまうようで気が引けた。古びた墓石を見ただけで、島の歴史を肌身で感じた気がした。神妙な気持ちであくまでも記録としての写真を残す。今日も雨が強いので一眼は車に置いたままにしていた。iPhoneで撮影した写真にはしっかり雨粒が写っていた。

墓地と海を背にして、緩やかな坂を登る。通路はタイル敷きで綺麗に整備されていた。周辺には幾つかの民家が建っている。人の気配は、ない。ひたすら静かで、耳に入るのは雨と波の音だけだった。十数歩ほど進んだ時、民家の向こうに突如として石造りの黄土色の建物が見えた。建物を見つけた瞬間、足が止まった。今まで見てきた教会とは明らかに雰囲気が違っていた。悪天候だから余計にそう感じたのかもしれない。荘厳な雰囲気で、思わず息を飲んだ。圧倒された。意匠がとても素晴らしくて、正面の隅っこの方にも小さな十字架が浮き彫りにされていた。畏れにも似たような感覚を覚えながら中に入る。聖堂内部にはやはり他の教会と同じく撮影禁止を促すポスターが貼られていた。外観のものものしさとは反対に、かわいらしい花のモチーフが天井のあちこちにあしらわれた、パステル調の柔らかい色遣いの内装だった。島の隅にあり、国指定重要文化財ながら現役の教会。定期的にミサが行われている様子がそこかしこから伺えた。きっとこの教会に通う人々が丁寧に手入れをしているのだ。ここでのミサはどんな様子なんだろう、見る事は恐らく叶わないけれど、見られるものなら是非一度は見てみたいと思った。

頭ヶ島教会を出発する。墓地と教会が目と鼻の先だったので少し時間に余裕ができた。5年前に現地の人に連れて行ってもらった展望台にまた行きたいと島に来てから思っていたのだが、場所がわからなかったので地図上で適当にアタリを付けて行ってみる事にした。マリンピア展望台は島の中心部にあった。きっとそんなに苦労せずに行けるだろうと思ったら、Googleマップでは到着まで1時間以上もかかると出た。こんなに近いのだからそんなわけないじゃないかと鼻で笑って向かう事にする。ところが、展望台までの道は完全なる山道で車一台通るのがやっとのぐねぐね道だった。しかも一応舗装されている道路は雨のせいで泥と葉っぱでアスファルトが見えない。そしてガードレールもない。ここ一番の集中力で運転した。心の中で、Googleマップ様馬鹿にしてごめんなさい、と頭を下げる。何せ渋滞がないので1時間はかからなかったが、確かに地図でも幾重にも曲がりくねった道は示されていた。きちんと地図の中の道路の形状まで見ない私が悪かった。辿り着いた先に待っていたのは、悪天候による霧でほとんど真っ白の世界。展望台の周辺半径20mだけが切り取られたような景色だった。恐怖すら覚えて早々に退散した。

今日回る予定だったところをいくつか昨日のうちに回ってしまっていたので、急遽スケジュールに組み込んだもう一つの場所が、矢堅目の塩本舗。実はここは昨日回った冷水教会から車で5分もしない海沿いにある。昨日と同じ、堤防なのか公道なのかわからないような道を再び走った。有名な五島の塩のうちの一つがここで作られている。5年前にも訪れていて、その時食べた塩ソフトは残念ながら冬季休業中だった。お店の中にはお土産品の他にプロカメラマンによるたくさんの教会の内外の写真が展示されていた。既に回ったところも含めて、全ての写真をじっくりと眺める。さすがプロの腕、どの写真もとても美しい。その中に、「有福 頭子神社 キリシタン神社」というキャプションが付いたものをたまたま見つけた。キリシタン神社。カクレキリシタンの人たちが表向き氏子として通っていた神社だ。事前に知っていた山神神社だけではなかったんだ。場所を調べてみたら、午後に訪れる予定の教会のほんのすぐ先だった。カクレキリシタン由来の場所は行きたいと思いながらも場所が分からず訪れない予定だったけれど、行けるものなら行きたい。これは行くしかないと思った。お土産を数点購入して、偶然立ち寄ったところで前からの願望が叶う場所を偶然見つけるなんて、と興奮してくるのを感じていた。

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